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死ぬかと思った。

今朝、目覚めると、あまり食欲がなかった。前夜に食べた鶏スープ鍋の残り汁に塩胡椒をふりかけて白飯を入れたものをさらさら食べて家を出る。

電車では座れたので、いつの間にか寝てしまった。しかし、しばらくして猛烈な吐き気を感じて目が覚めた。二日酔いでもないのに。
が、吐き気はどんどん酷くなっていく。外していた眼鏡をかけて手の甲を見ると、異様な量の大粒の汗が見える。首筋からもおびただしく滝のような汗が出て、長袖シャツが瞬く間に汗染みだらけになっていく。

「こりゃ、マズイ」

と次の停車駅でふらつきながら下車して、目の前にあるベンチに座り込んだ。マスクを外して目を閉じていても吐き気は一向に治まらず、気持ち悪さのせいで何回も生欠伸をするようになっていた。吐き気がもう一段階酷くなっていたら、スイッチが入るように吐いていたはず。
誰も座っていないからベンチで横になりたい、とも思ったけれど、それすらもしたくないくらいの気持ち悪さ。

苦痛のなか、ふと目を開くと今までに見たことがない歪んだ視界が見えた。目の前の看板広告が黄色や蛍光色に発光したかと思えばモザイクのように不明瞭なものに変わった。流したままのウォークマンから聴こえてくる音楽は得体の知れない力によって押し潰されて聴こえなくなった。

「…死ぬかも」

それがその時、ふいに浮かんだ言葉だった。やがて視界は再び真っ白くなった。もはや行き交う人々の姿もよく分からない。このまま全てが真っ白になって何も分からなくなったら自分はそのまま死ぬだろう、と本気で考えた。

死にたくないからか、もう一度、目を閉じてからの数分間はずっと最悪の状況にいた。が、しばらくすると風が心地良く顔に当たるのを感じた。相変わらず酷い吐き気と視界が不明瞭な状態は続いていたけれど、目の前にある自販機にふらつきながら向かい、ミネラルウォーターを買ってチビリと飲んだ。すると、さほど喉が乾いている訳でもないのに、水を少しずつ飲み下すたびに不快感が消えていく。聴こえなくなっていた音楽が聴こえる。視界が明瞭になっていく。吐き気が治まっていく。

ホッとしつつ、しばらく休んでいると立ち上がる気力が湧いてきたのでホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。それからは普通に戻った。あまりにも呆気ない結末に自分でも困惑してしまったけれど。

身体が頑丈というのが自分にとっての自信の一つだった。風邪もあまり引かないし、いつだって元気。ところがその自信も今朝あっという間に消えた。「死ぬかもしれない…」と思うような危機的な状況は突然やってくると知ったし、幸い今回は死なずに済んだけれど、次はそのままポックリと逝きたいと思った。それくらい恐ろしい経験だった。

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