答えはある それぞれに。りぼんの新譜を聴いて思ったこと
東京都東村山市のスリーピースバンド"りぼん"が新作「音が鳴りましたよ」をリリースした。コロナ禍のなか、特殊な制作過程を経て作り出されたこの作品はこのバンドが持つ無限の可能性をたっぷりと味わえる充実した1枚に仕上がっている。
"りぼん"とは
せいや(ベース・ヴォーカル)
イッキ(ギター・ヴォーカル)
ホクト(ドラム・ヴォーカル)
によって構成されているバンドである。
この「音が鳴りましたよ」は前作「平凡と生活と」からこの2年半の間にメンバーそれぞれが経験したことや吸収してきたことがクッキリと浮かび上がってくる、"成長記録"のようなものだと感じた。
個人的な話になってしまうけれど、コロナ禍になりライヴ活動をストップせざるを得なくなるまでに彼らが行ったライヴのほとんどを見る機会に恵まれた。そのなかには素晴らしい夜もあれば、思わず「あれれ…?」となってしまう夜も正直あった。けれど、どんな時も3人が鳴らす音楽には絶対的な信頼があって、自分は音の行方を見届けてきた。だから余計に"成長記録"のように思えるのだ。
聴きどころは多い。
まずイッキさんとセイヤさんのヴォーカリストとしての表現力の目覚ましい成長ぶりに感嘆する。2人はりぼんとは別にソロとしてもライヴ活動を行っていた。そこで得たものは本当に大きかったのだろう。自分の歌声と真摯に向き合ってきたからこそ表現出来る繊細さと大胆さの見事な調和。コーラスワークも美しい(ヴォーカルを引き立てるように施されたミックスも見事)。
さらにイッキさんが弾きまくるギターの多彩なフレーズも聴き逃せない。豪快に弾きながらも要所要所で楽曲を引き立てるようなキラリと光る音色やフレーズはソロ活動で曲と真摯に向き合ってきたからこそ可能になったアプローチだと思う。
そして忘れてはならないのがホクトさんのドラム。表現力の増した2人の歌声に対して呼応しながら包み込むように頼もしく鳴っている。セイヤさんが鳴らすベースとともにホクトさんの叩き出すドラムによってりぼんにしか作り出せない世界観をより広大にしつつクッキリと描き出している。
そんな今のりぼんが奏でる楽曲たちもまた素晴らしい。前作にも収録された「限界」「9月」「ゴルゴタの丘」を聴き比べると違いは明らか。特にテンポをぐっと下げたことで楽曲の持つ魅力が何倍も増した「ゴルゴタの丘」は秀逸。また新曲「雨」ではカタカナのヒガシノメーコさんが作詞で参加。セイヤさん、イッキさんの歌声が詞の持つ雨の情景を聴き手に向かって鮮明に描き出す。
この作品は元々、2021年1月17日に出演予定だったイベントにイッキさんとホクトさんが新型コロナの関係で出演出来なくなったことを起点としている。
イベントはふたりがスタジオで演奏する様子を事前に録音・録画し、当日はその模様をステージで流しつつセイヤさんがステージ上で生演奏を重ねる形式での出演となり、今作はその際の素材を元に作られている。音源化に際して音の一部差し替え、オーバーダビング、リミックスを経て完成に至った。
所謂"起承転結"の形式になっている曲順やヴォーカルがクルクル入れ替わるのはライヴ用に用意されたアレンジの名残り。またアルバムタイトルは出演したイベントタイトル「音が鳴りますよ」に由来していることを忘れてはならない。
大切なイベンターさんが主催するイベントなのにコロナのせいで出演出来ない、というピンチをりぼんは彼ららしいやり方でチャンスに変えた。そして生み出された「音が鳴りましたよ」で非凡な才能を持つ3人の無限の可能性を聴き手に知らしめた。
りぼんの音楽の冒険はこれからも続く。惜しみない音楽への愛情とともに力強く突き進んでいく3人を誰も邪魔することは出来ないだろう。コロナウィルスにだって打ち勝てる。その揺るぎない自信と無限の可能性は「音が鳴りましたよ」のなかにある。
「音が鳴りましたよ」はYouTubeで全曲視聴可能。
メンバーさんによる全曲解説はこちら
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