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健康なオオクワガタ幼虫の腸内(後腸)pH値

 3令化加齢を確認した幼虫の菌糸瓶交換を実施しました。その際、ブリーダーのみなさんならばご承知のとおり、毎度のことながらブリッとやってくれましたので(笑)、ついでに、その糞のpH値をテストペーパーで測定しましたので、その値を公開します。

幼虫の新鮮な糞を採取 - テストペーパーで測定

リアルpH測定値

 その測定値はpH7——ジャスト中性。純水と同じ。オオクワガタ幼虫の菌糸瓶培地内の生育環境すべて——腐朽菌や共生菌にとっても——pHが中性環境がベストである、ということを示しています。これは幼虫の腸内(後腸)環境pHも同時に表していることになります。

テストペーパーでの測定値 - pH7

 つまり、オオクワガタが親から垂直移譲されているとされる、セルロース分解能を持つといわれる酵母、腸内常在菌である特定の共生菌(窒素固定菌)らも大体同様のpH環境活性帯域に適性のある種であると考えられます。但し、中腸域についてはもう少しアルカリ性に偏るかとは考えられますので、これは腸内すべてに於いてを示したものではありません。しかし、細菌類はその種類によって適性生育環境条件が異なりますので、これは共生菌類を含めたオオクワガタ幼虫の最適餌材・飼育環境を考えるとき、一定の指標になります。また、pH中性域環境こそは最も多くの微生物叢(マイクロバイオータ)の好む環境条件でもあるので、幼虫にとっての有用菌も害菌も、それらの多くがこのpH帯域環境に適性があることになります。
 下記の一般的な参考資料を参照。

  • カビ類: 酸性生育限界値約2.0、アルカリ生育限界値8.5、最適域値5.0 - 6.5

  • 酵母: 酸性生育限界値約3.0、アルカリ生育限界値8.5、最適域値4 - 5

  • 一般細菌: 酸性生育限界値5.0~5.5、アルカリ生育限界値8~9、最適域値6 - 7

  • 大腸菌: 酸性生育限界値4.5、アルカリ生育限界値9、最適域値7.0 - 7.5

  • 乳酸桿菌: 酸性生育限界値4.0、アルカリ生育限界値8、最適域値6 - 7

暴君の発生原因

 例えば、幼虫の「暴れ」現象発生の直接的な原因は、それが単一的なのか複合的なのか不明でありますので、たった一つに限定するのは無理があると思いますが、ここではその内の一つとして考えられる事例を敢えて挙げてみたいと思います。それは、菌糸瓶培地、或いは、マット培地の環境が極端な低pHに傾いたときではないかとわたしは考察しています。C/N比10 - 20域がダニやトビムシ、コバエなどの雑虫の湧き始める環境指標値と言われていますので、その辺りが危険閾値と考えると良いと思われます。
 これは、培地の窒素分が累積されることで窒素化合物が増加し(これをブリーダー界隈の認識では「劣化」と呼ばれることが多い)、それを目指して空気中からバクテリアなどの分解者が大量に参入してきたことによって極端に微生物叢が増殖し、培地のpHが急激に酸傾化した場合で、これによって結果的に大多数の良性微生物が死滅するに至り、低pHに適性を持つ嫌気性の腐敗菌などの悪性細菌叢だけが残存することになります。これでは幼虫にとっては有用腸内細菌の保存維持が困難になるため、より好環境を求めて培地内を移動徘徊するので、それがブリーダーには「暴れ」に見て取れるのではないでしょうか。前コラム参考資料によれば、大凡、目安の閾値としてpH4 - 3くらいがこれに当たると思われます。
 この場合のソリューションとして、炭素質(未分解オガ粉など)が豊富に漉き込まれた未発酵の高C/N比マット等に幼虫を移動させると、その途端に幼虫は見事に落ち着くという事実があります。これはpH中性域環境に戻ることで良好な共生微生物叢を再獲得し、幼虫の腸内環境も改善するためと考えられます。
 つまり、低pHと低C/N比が合わさり重複した環境は、オオクワガタ幼虫にとっては好まざる生育環境に違いないと判断できるかと思います。これについても、もしも今後そのような極端な環境変化が起こったときにテストペーパーで測定してみればある程度の根拠として証明できるのではないかと思っています。
 一方、菌糸瓶という限られた人工ハビタット内では自然な環境変化では高pHに偏るということは考え難いので、中性から酸性間の微妙なpH環境変化のブレに幼虫は非常に敏感なのではないかとわたしは考えています。

合わせ技が必要

 オオクワガタと白色腐朽菌、セルロース分解酵母、窒素固定菌らとの共生関係が、今現在、研究で判明しているわけですが、関連性の高いまだ未明の共生微生物が居る筈だとわたしは思います。
 オオクワガタ幼虫と共生微生物叢とを考えるとき、その生育環境の温度、pH、水分、酸素が重要になります。これらを合わせて考察しないとオオクワガタ飼育に有効な微生物群、菌叢に正しくフォーカスを絞り込めないと思います。インセクト業界、ブリーダー筋にはクワガタと微生物との共生関係について、短絡的各論で論じてしまう人が多すぎな気がわたしはしています。それが数々の飼育上の悪手に導いていると思います。
 その好例が、オオクワガタ・ブリーダーに多い意識である「酸欠ヒステリー」ですが、これには、菌糸瓶飼育に関した初歩的な情報に「白色腐朽菌は分解消化の際に二酸化炭素を排出する」という専門的解説があり、この説が元になって強力にブリーダーの意識にバイアスを掛けているのは間違いありません。今的に言えば「酸欠意識高い系」ですが、しかし、実体験上、これには誇大解釈が過ぎるのではないかとわたしは疑問を持ったので、これまでに数々の実験を繰り返した結果、菌糸瓶飼育に於いて、むしろ、空気流入量は非常に制限された環境下の方が白色腐朽菌もオオクワガタ幼虫も生育が良好であるという結果を得るに至っています。一般的に、酸素の生成には植物による光合成が必須と思い込んでいる人が殆どだということがありますが、がしかし、酸素を生成する微生物としてアンモニア酸化古細菌が居ることが解っていますし、まだ他にも酸素を生成する能力を持つ微生物や、未知な能力を有する微生物類が菌糸瓶の中やオオクワガタの腸内に居ないとも限らない筈です。要するに、それらはただ未発見なだけかもしれないのです。

まとめ

 今回は短めにまとめました。テーマ的には、あまりにも広大領域をカバーしないと論じ切れない問題なので、素人らしく薄く弱く語るに止めました。
 それと、わたしは測定にブレのないユニバーサル・テストペーパーを使用していますが、Amazon等で販売されている安価なデジタル測定器(中華製)には要注意です。あれは、誤作動で正確に測定できないことで有名なので、手を出されぬが賢明です。どんな状態でもほぼデフォルト値の中性と表示されるとのことです。テストペーパーは僅か数百円で入手可能ですので。

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