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京都市産ワイルド・オオクワガタ採集行 - Oct 24, 23.(テキスト版)

 記録動画はYouTube版でご覧いただき、こちらはテキスト版ということで。

京都市内某山中のフィールドへ

 あれよおあれよと言う間に秋に突入。10月も末ですが、京都市内の山々では未だ紅葉も始まっていません。なので、先ずは小手調べと言いますか、腕慣らしと言いますか、身体慣らしですかね。準備体操がてらの採集行をしてきました。と言いますか、本質的な目的は可食キノコの子実体発生の下見で、それ込みの採集です。

ホコリタケ(可食)

 早速、ホコリタケを発見。老菌でなければ可食とのことですが、これをわたしは未だ食したことはありません。ハンペンみたいな食味で淡白らしいです。京都市内の山中では決して珍しくはないのですが、狙いをつけて山に入って必ず採れるというものでもないです。天然のキクラゲなんかも同様です。
 わたしは入山した際にときどき、何故か、まるで出迎えるようにわたしの歩む先を羽ばたいて先導する蝶々に遭遇することがあり、そういう日は何かしら得るものが多いというジンクスを持っておりまして、まあ、それは単なる思い込みと言えばそれだけのことなのですが、運気の流れや呼び込みを必要とする事柄では案外、そういうことって大事だったりするのですよね。今、これを読んで頷いて居られる方のお姿、見えますとも(笑)。で、この日はまたしても蝶のお出迎えがあったのです。

Point 1

 そして程なく、怪しいけれど、腐朽菌種は不明な倒木クヌギ腐朽材を発見し、ハチェットを一振りで出ました。だいたい、初見での材の見極めが正しいと確率的にそういう展開であることが多いです。
 また、刃先の材への食い込み具合で、もう十分判断できたりもします。オオクワガタの好む腐朽材の特徴として、適当な硬さというものが明らかにあり、まあ、それは我々人間的な指標的考察での話ではありますが、そのときの手応えの感覚で「これはダメだな」と判断したときはハチェットを捻ることなく、そのまま真っ直ぐに上に刃を抜いてその場は立ち去ります。
 子実体は確認できませんでしたが、おそらくはネンドタケ腐朽、或いは、それに加えて、幾つかの白色腐朽菌種による複合的且つ、断続的な腐朽による材ですかね。

オオクワガタ初令幼虫

 ということで、今シーズン1頭目は、雌雄不明オオクワガタ初令幼虫。居た場所は、ちょうど別の兄弟2令個体のものらしき食痕に突入したところでした。
 しかし、例によって、同材中にはオオゴキブリのコロニーがありましたので、他兄弟は全滅のようでした。翅を持たないオオゴキブリでも大人の背丈くらいまでは地面から立ち枯れに登ってきて穿孔しますので、決して被害は少なくはなく、況してや倒木となると、このオオクワガタ天敵No. 1による被害は甚大なのです。山ではまだツクツクボウシが鳴いていました。

Point 2

 別ポイントに移動しまして、次は急斜面のヒラタケ腐朽の立ち枯れクヌギ材に目星をつけて試し割りしました。子実体は発生していません。それで何で腐朽菌種が判るのかと言いますと、もう、セルロース分解臭の違いで判ります。
 で、こちらもオオゴキブリに壮大に侵入を許していまして、本来は良材だったのがあいつのせいでボロボロになりました、という感じの駄材に落ちぶれた感じで、芯材はもうズタボロでした。オオゴキブリの穿孔した痕には明確な特徴がありまして、それを見ればもう、オオゴキブリ自体は居なくとも一発でヤツの仕業と判るんです。だいたいですね、腐朽深度の浅い硬い材の、しかも最も硬質な芯材に穿孔できる昆虫って、オオクワガタ幼虫かオオゴキブリくらいしか存在しないんです。
 しかし、辛うじて辺材の一部に温存された綺麗な白枯れ部材が在り、その部分に幼虫が入っていました。♂のオオクワガタ幼虫2令です。

オオクワガタ2令♂幼虫

 大変良いです、この2令個体。大きく育ちそうな雰囲気を凄く感じる2令です。それは、この個体のヘッドカプセルの形質から、そう感じるんです。
 わたし個人的には、幼虫での採集は2令に限るって思ってます。ブリード飼育環境では、オオクワガタの幼虫の2令時の姿なんて、ペアリング後の産卵材の幼虫割り出し回収時か、次のボトル交換時に一瞬見れるか見れないかのレア・ケースじゃないですか? でも、ワイルドでは2年化がむしろ常態なので、初年度の孵化幼虫は初令か2令のままでその年を越冬することが殆どなんですよ。なので、採集して山から持ち帰って後の常温飼育環境下では、その姿を長くゆっくりと観察できるのです。
 この個体の居た材は比較的立派な二又クヌギの立ち枯れだったので、続けて割ってチェックしようと思えば可能なボリュームが残存してはいたのですが、なんとなく、この材も兄弟はもう居なさそうな気がしたので、1頭出しで打ち切り、このポイントも移動することにしました。
 採集目的の山行きでは、一箇所の材に執拗に拘ると広範囲なフィールド探索ができなくなってしまいます。予め下見で目星をつけておいた特定の材を目掛けての確認採集と、生息範囲を把握したい目的でのフィールド全体の見極め探索とを、目的別に分けて考えて行動しないと、体力的にも時間的にも余裕を失ってしまい、徒労に終わってしまいますし、山ではそういうときほど雑念や集中欠如による事故の危険が伴いますので注意が必要です。例え低山であっても、山を甘く見てはいけないのです。

Point 3

 今度はヒラタケ腐朽の倒木クヌギ材。絶妙な水分量で、綺麗に白枯れした、オオクワガタ産卵材としては最高クラスの材です。で、これも試しの一振りで3令の大きな食痕が露出しました。それを追って割り進みますと、オオクワガタ初令幼虫がその食痕の周囲からちょこちょこと出てきました。

オオクワガタ初令幼虫

 しかし、出てきた幼虫は明らかに今年産卵分の初令ですので、当然、3令食痕の主ではなく、しかも、年度も違い、産卵した親虫も別親ということです。オオクワガタの好む良材の場合、こういう事例は多々あります。
 そして、割り進むと、蛹室にまで辿り着いたのですが……「オー、マイ・ガーッシュ!……」 蛹化不全で★になってました。ワイルドのサイズとしては大きめな大歯型大顎の♂で、正常に羽化していれば、ざっと65mm前後の体長には成っていたのかな、という大型の個体でした。蛹室での雑虫の侵入形跡は見られなかったので、不全死の原因はちょっと不明ですね。例によって、この材にも天敵オオゴキブリの侵入はあったのですが、幸い、大きなコロニーではなかったので全体的な被害は最小限だったようです。
 もう一つ、並行して3令の食痕が出てきたので追ってみると、ポコっと穴が空き、なんか、黒いヤツがモゾモゾ。「あー、また殺られてるのかあ……」と、諦めかけたんですが、その黒いヤツが中から出てきません。「あれ?……」オオゴキブリの場合、越冬穿孔場所に穴が空くと、臆病なので慌てて直ぐに出てくるのが普通なんですよ。それが出てこないということは……。乗っ取り常習犯のオオゴキブリの越冬部屋ではなくて、被害を受けていないオオクワガタの蛹室でした。

オオクワガタ羽化成虫

 越冬に備えて、羽化後にそのまま蛹室の中で休眠中だったのは、♂オオクワガタの今年羽化の新成虫。先の蛹化不全死個体の兄弟でしょう。同じ血は繋げたということですね。小さめですが、立派な大歯型でした。やはりブリード個体とは何か違いを感じさせる、肌艶よろしくディンプルもない美しい体躯の、正にワイルドっぽい個体。地域原産ワイルドの好きな方には堪らない個体ではないでしょうか。ワイルドの蛹室は成虫サイズにぴたぴたで、このように非常に最小限のタイトさなのです。
 この羽化成虫の3令時代の食痕の周囲にも小さな食痕が入り混じっており、また初令が何頭もポロポロと出てきました。すべて今年産卵された分の同腹兄弟たちと考えてよいかと思います。

Result

 ここで、本日はタイムアップとなり、山を下りました。
 本日の採集結果は、3ポイントの個別材採集での合計で、♂新成虫 x 1、♂2令 x 1、雌雄不明初令 x 7でした。
 これらのワイルド・オオクワガタ幼虫は全頭、今年はこのままの令で越冬して来年の春以降に3令加齢の2年化組ですので、再来年の羽化予定の気の長い飼育管理になります。しかし、ワイルドでもブリード個体らと同様に大きく育てることが可能な、将来有望な京都市産の幼虫たちです。
 材割り採集者って、大きな3令や新成虫を出すのに喜びを感じられる人が圧倒的多数だと思うのですが、わたしの志向は方々とは異なり、常に初令か2令狙いで、3令はできるだけ出したくない派です(オオクワガタ採集者に派閥があるのか? 謎(笑))。確かに、採集の現場での醍醐味、感動の大きさ、そのような達成感と言いますか、苦労に見合う満足感的にはかなり薄まってはしまうのですが、大きな3令が出ても、持ち帰って菌糸瓶に入れたところで大きな成虫は羽化してこないんですよね。3令採集個体では、もう高栄養価の人工餌材使用の飼育であっても大型化は不可能ということです。この問題についてのわたしの仮説・考察は、また改めて別稿で記述したいと思います。
 わたしが初令と2令に的を絞って採集する主な理由は、上述のように、持ち帰って菌糸瓶で大きく育てることが可能なポテンシャルを秘めているからです。そうすると、優秀な種親としてブリード個体と遜色なく使えるのです。また、わたしの場合、ブリード個体はすべて自己採集による京都市産ワイルドの非累代系統主義なので、「京極血統ブリード・ライン」では自然下と同様に毎回、常に別血筋の個体同士で親虫を掛け合わせる必要があるためでもあります。つまり、当家では毎年、数ラインのワイルド個体群を保持しています。

机上の想像論業者、自称採集オーソリティたちの詭弁

「京都市産のワイルド」と言うと、よく「いまどき、京都市内に天然のオオクワガタなんて居るわけがない。放虫に決まってる」と言われるそうです。いやあ、あなた、実際に自分で山に足を運んで確かめたの、それは一体、いつのことですか? と。苦労を伴う確認をしない人に限ってそういう決めつけを安直にするんです。これ、専門業者なんかでも同様です。そういう人の言説を聞くと、わたしなんかは「ああ、この人、オオクワガタの居る現場がどんな処なのか、実際には知らないな」って、すぐに解りますから。現場で何度も経験を重ねた人にしか知り得ない事実ってものがありますからね。例えば、これはあくまで一事例に過ぎませんが、オオゴキブリとオオクワガタとの産卵材の競合関係の生態などです。これは、文献や資料で殆ど紹介されていないと思われますので、実際に何度もその現場を見て観察している人でないと詳細は語れないと思うんですよね。なので、これについて問うてみると見破れると思いますよ。
 現実は、昔よりも現在の方がオオクワガタは山にざらに居ます。何故なら、管理放棄された二次林の多くが森林化しているからです。ただし、採集に於ける見極め的技術は必要です。そのスキルを身につけていない人には、幾ら山中を歩き回ったところで採れないと思います。よく考え直してみてください。これは今も昔もまったく同じことなのです。実にそういうものなのです。
 がしかし、採集経験者の言説で、「材ではなく、場所を探す」なんて、そんな抽象的形容と言いますか、非具体的な意味不明、且つ、実に稚拙な哲学的表現をされる方が居られますよね。これ、全部、真意は自分をオオクワガタ採集オーソリティとしてのマウントを取るためのレトリックなんです。はっきり申しますと、そういうこと(屁理屈)とは一切無関係です。表現を変えれば——殆どの事例はそれに当てはまるし、また、殆ど当てはまらない——つまり、どちらにも解釈可能な、そのような曖昧模糊な表現をして煙に巻いているというだけのことなのです。これは詐欺師の使う詭弁と同じです。では、わたしが極めて具体的に解説してみますね。
 東北地方以北のブナ樹林帯を除き、オオクワガタの選好する日本のクヌギやアベマキという樹種の場合、天然材というのは非常に少なく、それらの現存するほぼ90%以上が植林材と言われています。つまり、そういう樹種は過去に人間の考えで以って選択的な場所に植えられているんです。そのような森林を薪炭林(二次林)と言います。薪や炭の材料にするための木を人々が植えた林のことです。エネルギー資源に乏しい日本の各地では、そのような同様の薪炭林が古来から近代までの長年に渡って醸成され続けてきたのです。
 それらの薪炭林には一定の特徴が見られます。やれ、オオクワガタのメス親の好む、これこれ、こういう斜面を探せだの、風通しの良し悪しだの、向かいの斜面との関係だの、沢筋の湿気だの、そういう大自然の趣っぽい屁理屈の数々にはなんの裏付けもなく、それらの殆どは採集オーソリティ氏らの妄想表現であって、実は一切合切、当然、薪炭林を運用する山林関係者が伐採管理し易い条件付けが優先で植林された結果の表れなのです。「尾根の頂点の木には居ない」って、そりゃあそうです。だって、昔から植林は「七合目まで」というのが山林管理の不文律なのですから。現在、残存するそれらの樹種の林分をよく観察すれば、それが薪炭林の名残りの場所であり、人為的な形跡を十分に感じ取れる筈です。
 オオクワガタからすれば、ただ単純に、そのような環境を生息環境として利用し易いからそうしているというだけのことなのです。むしろ肝心なのは、白色腐朽菌の存在なのです。これあってのオオクワガタ繁殖地なのです。白色腐朽菌による腐朽材無くして、そのフィールドでの次世代の発生継続は望めないのです。樹液木と腐朽木のセットがオオクワガタの生息繁殖地条件の必須条件だということです。それが薪炭林(維持管理中、管理放棄、残存放置)では実に上手く整っているということなのです。
 どうでしょう? これで、これまでのモヤモヤが晴れたのではないでしょうか。
 また、里山に入山しますと、近頃は登山道脇の至る処で材割痕を発見することができます。が、わたしがそういう材を一瞥して判るのは、「いや、その材にはオオクワガタは産卵しませんってば」ということです。見極め無しに適当に、腐朽材を見つければ破れかぶれで割り捲る。これが殆どの俄か材割り採集者の王道採集スタイル。けれども、それでは結果は常にフロックでしかあり得ないし、もしも当たったとしても、ノウ・ハウも、テクニックも、そのような安直な行動によって得ることは叶いません。
 ——「オオクワガタは採りたいけど、山歩きは好きじゃない」——こういう人には採集は難しい昆虫なのです。再三になりますが、これは今も昔も、です。同じ入山するにしても、できるだけポイントの近くまで車で侵入できる処に目星をつけて、そこから楽に徒歩で回れそうな場所で、最時短で採集を目指す。こういう安易な発想で以って採集行を計画する人には、コクワガタは採れてもオオクワガタはおそらくは無理ってことなんです。
 わたしは山歩きが趣味で好きだったので、それが高じてのキノコ狩りとオオクワガタ採集になっただけのことなんですが、実は、ここが大事なポイントでもあるわけです——山歩き大好き。自然観察大好き——オオクワガタ採集は、本来、こういう人にこそ向いているとわたしには思われます。
 ということで、今シーズン初日にして、ブリードに必要予定採集数には十分に達してしまいました。もう、以降は観察&テスト採集ですね。
 以上、最新の京都市内採集行のレポートと、いつもの辛口解説でした。でも、ご質問はビビらずにお気軽に(笑)。

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