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文車妖妃

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夏のホラー淫クリレー'22における30日目の投稿作、『目目連の緒』のサイドストーリーです。 動画本編中には登場しなかったSZ姉貴の視点で綴られる物語になっています。
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#真夏の夜の淫夢

文車妖妃・一

 それはきっと、執着なのだ。
 私───葵鈴は、そう考えた。
 愛とか恋とか、そういうものとは違う。
 それらはあくまで執着の一種に過ぎない。
 私はただ、胸中に宿った呼称を知らぬ別種の執着を、恋愛感情と見誤ったに過ぎなかったのだろう。

 狭いながらも不自由の無かった、四畳半の自室に私は居る。
 文机に両肘をつき、上半身の重みを預ける。天板と胸の間に、湿気を濃く帯びた不快な空気がべたりと滞留する

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文車妖妃・六

 心が内へ閉じこもったまま膨らみ始めて、二年が経った。
 それだけの時間が経てば、流石に情報も増える。あの日教室で私が見たあの子は、水橋譲花という名前らしい。手紙を書き始めた時はあんなにも知りたかった事だというのに、不気味なほど感情が動かなかった。ただ、綺麗な名前だな───とだけ考えた。
 彼女───水橋は、文芸部に所属していた。あの夏休みに一緒に居た二人の男もその一員であったようだ。
 私が入学

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文車妖妃・七

 私は膨張を続けている。
 ひと時の悲しみが胸を裂こうとも、脳はただそれを整理し、解体する。
 つい先刻までの私の心に渦巻いていた激しい感情も、ここへ帰り着いた頃にはすっかり理性によって水平化され、鎮静していた。
 ただ、執着だけが、ここに残っている。

 つい一時間ほど前。終業式が終わった後の事である。
 高校最後の一学期を終えた私は、二年前の春と同じように夕方まで学校に居残っていた。特に理由も

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文車妖妃・八

 思う、という行為は心の領分だ。
 情報を受容して、そこに意味を感じ、味わう。
 考えるのは、脳の領分だ。
 情報を整理して、その中に理屈を見出し、飲み込む。
 そうして人は味わったものを飲み込み、吸収してゆく。
 心の喉元を過ぎれば、如何なる美味も単なる栄養である。脳はただそれらの成分を分類し、消化するだけなのだ。
 恋もまた、味わうものであるらしい。
 その甘味や苦味に、私の心はずっと酔ってい

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文車妖鬼

 気がつくと私は、林の中に立っていた。

 風に木の葉が擦れる音と蜩の啼き声だけが、身体を包んでいる。
 昏く深い緑が、さわさわと揺れている。

 ───ここは、何処だろう。

 陽はまだ、完全に落ちてはいないようだ。
 少し遠くに目を遣ると、木立の間に小豆色の空が開けている。
 目算でおよそ数十米ほどの距離である。彼処からならば、景色が見渡せるかもしれない。少なくとも手掛かりくらいにはなるはずだ

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