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2023京都サンガF.C.シーズンレビュー ~ トリ ~

2023シーズンの京都について、自分なりに総括しておきたいと思うのだけれど、今シーズンどうだったかな?と考えたとき、ふと頭を横切ったのは、

【大トリ】終わりよければすべてよし

という言葉。いいじゃん最終節にあのマリノスに快勝したんだからいいじゃん。で済ませたくなる気持ちも、少なからずある。

何しろ京都サンガというチームは、ホーム最終戦で滅多に勝てないのチームなのだ。過去10年のホーム最終戦の戦績がこちら

2022 1△1熊本(※J1参入決定戦)
2021 0▲0金沢
2020 0●1群馬
2019 1○0千葉→その次に1●13
2018 0●3千葉
2017 0●1東京V
2016 0●1愛媛
2015 2○1水戸
2014 0▲0岐阜
2013 1●2栃木

10年で2度しか勝ってない!

去年は最後のホームゲームでJ1残留を勝ち取ったので、ポジティブな幕の下り方ではあったものの、勝ってはない。その前は既に昇格は決めていたものの、連続ドロー。このゲームで残留が決まった金沢の方が大喜びした。20年の群馬戦は川上優樹が大怪我を負い、本当に微妙な空気だったし、寒かった。
19年は「西京極ラストゲーム」を千葉に勝利するも、翌節、柏レイソル相手に(自粛)。ちなみに一覧に入っていない2012シーズンのホーム最終戦では、甲府にドローに終わったことで2位から3位に転落して初開催のプレーオフに回って苦汁を舐めたりしている。

西京極、サンガスタジアム問わず、いい印象のないホーム最終戦。そんな歴史を踏まえれば、「前年王者」「今季2位」「強豪」「リーグ戦でずっと勝ててなかった」「完敗の記憶しかない」「名門」横浜・Fマリノスを相手に3-1で勝てば、「終わりよければすべてよし」で済ませたくなる気持ちもわかっていただけるかと思う。

なおかつ、最終順位は13位だ。勝点も去年より4多い。
曺貴裁監督になってからは、

2021(J2)2位(自動昇格)
2022(J116位(参入戦経由残留)
2023(J113位(最終節を待たず残留)

と一応成績は右肩上がり。地味だけど。何よりガンバ大阪とか柏レイソルより上の順位でフィニッシュしたことが、(クラブの歴史を踏まえれば)とてもうれしい。なので結果からフォーカスしても「終わりよければすべてよし」でよいのではないか。

でもやっぱり、後世の歴史家のためにも書き残しておかねばならんことはあるよな…。それは結構大事なことなのではないか。

【劣り】走り負けた衝撃

去年の総括の中でトラッキングデータの相対記録を出して、「相対的に走り負けたゲームはほとんどない」ということを書いた。曺貴裁体制になってからの京都は、一貫して「ハードワーク」「切り替えスピード」それを支える「走力」を武器としてきたチームだった。

それが、今季の第1節にして覆された

立ち上がりから球際に厳しく食らいついてきたのは、鹿島。ハードワークの部分で完全に後手を踏むと、GKからの組み立てを潰されて失点。本来こちらがやりたいようなことを鹿島にやられて完敗した。トラッキングデータでは走行距離こそわずかに上回っているものの、スプリント数では136vs174の大差負け。走り勝つことが取り柄だったチームが走り負けた衝撃は大きかった。

第3節から3連勝があり、どうにか立て直したかにみえたが、第6節の神戸戦は大迫&武藤の身体の強さにはね飛ばされて、勝負の際(きわ)に寄りつけないような完敗。神戸に代表されるように、今季からはJ1でもプレー強度の高いサッカーを志向するチームが増え、なかなか優位性が出せなくなっていった印象で、走り勝てない試合も目立つようになった。ちなみに、手を出しかけた(ように見えた)ビルドアップ・サッカーはサッパリだった。

【取り逃】チャンスが作れないチーム

「このチームは一体どうやって点を取っていたのか?」とシーズンの途中で何度か思ったことがある。去年までウタカがいて、ウタカに預けて彼に任せとけば…みたいな形ももちろんあったが、それだけではなかった。
調子がよい時はボールを奪った後の切り替えが速く、前線にダダッと人が走り込んでいたし、ウタカを孤立させず、むしろウタカを追い越すモードになった時こそチャンスを多く作れていた。特にJ2時代はそれで十分やっていけてたが、J1の、去年の夏以降はそれがあまり通用しなくなった。走力だけでは誤魔化せないのだ。

今季は前線に人数を掛けていくような形は激減し、豊川雄太の個の能力やパトリックの高さ頼みのサッカー…ともすればそんな感じでしか得点のニオイがしないチームになっていた。

サッカーの本質は、「ゴールを奪うこと」(=その裏返しとして「ゴールを守ること」)だと思う。ゴールを奪うことってのは図解してしまうと実に単純で…

チャンスメイク→フィニッシュ。この2行程があればいい。
ただしチャンスメイクには無限のパターンがあるし、チャンスメイクを重ねないとフィニッシュに至らないこともある。

今季の京都サンガで圧倒的に足りなかったのはフィニッシュよりもチャンスメイクで、あまりにもチャンスが作れないチームだった。去年までは中盤から前に圧力をかけることで「チャンスメイク」の一種「相手のミス」を引き出せたりもしたが、その部分もモノ足りなかった。
シーズン途中で(またもや)武田将平が離脱すると、中盤から縦方向に付けるパスも激減。チャンスメイクになるようなボールが供給されないまま、前線にフィニッシャーばかり並んでいる…という状態に陥った。

夏の移籍ウインドーでそのあたりを改善してほしいと思ったのだけれど、チャンスメイカー的存在の獲得はなし。谷内田哲平や平戸大貴がゲームに絡めば改善していけるのかしら…とも思っていたが、このチャンスメイク不足は意外なところから回復の兆しを見せた。
フィニッシャーだとばかり思っていた原大智が優れたチャンスメイカーでもあったのだ。右サイドバック・福田心之助の成長もあった。そして件の最終節では今季アンカーを定位置にした金子大毅がようやく縦に刺すパスを繰り出し、豊川の“月間ベストゴール”を引き出した。あれは去年まで割と登場していたチョウ監督用語の「フォールディング・セブン」の役割だった。中盤の役割の再構築の随分と時間はかかったが。

2021年作成のフォールディングセブンの概念図(荻車、飯車……)

「フォールディング・セブン」的な概念の喪失もまた、組織としてチャンスを作り出せなかった原因のひとつかもしれない。点を取るための、チャンスを作るための考え方は、来季以降アップデートし直す必要がある。

【砦】苦しい時を支えた守護神

最終盤に至るまで、チャンスメイクにモノ足りなさのあるチームだった一方、守備面はそこそこJ1レベルに慣れてきた印象もあった。失点数は去年が38、今年が45なので、失点自体は増えているが、大量失点はあまりなかった(最大は12節vsマリノスの1-4)。残留争いの世界では得失点差で優位に立っていた理由でもある。アディショナルタイムの失点で勝ち点を失う悪癖は治ってないが。

守備面で気になったのは、攻→守が切り替わって相手の攻撃を受けた時に、全員が全力で戻りすぎていた点。4~5人でゴール前は固めるものの、バイタルエリアがポッカリと空いてしまい、そこに折り返されて失点するパターン。ただ、この手のパターンはJ1、J2含めリーグ全体で増えた気もする。あれは1人くらいはちょっと遅れ気味に戻れば防げたりするのでは?

今季の京都の守備を語る上で避けては通れないのがGKの話。昨オフに上福元直人という絶対的守護神を引き抜かれたが、スリナム代表・ハーンを補強。ウッドと合わせ、なぜか代表クラススの外国人GKが2人もいる陣容だったものの、両者ともチーム(あるいは日本)にフィットできず。そしてルヴァンカップの最終節で若原智哉が大怪我を負う。大ピンチを救ったのは京都に来て以来ずっと第4GKの立ち位置だった苦労人・GK太田岳志だった。

太田は正直なところ、技術的・身体的に特段に秀でているGKではない。持っていたのは、最終ラインとの意思疎通の良好さと、冷静沈着さ。そして少しの勝ち運。主に6月末くらいからゴールを守りはじめたが、第21節の名古屋戦では抜け出したユンカーがフリーで放ったシュートを指先で弾き、第24節札幌戦では決められれば同点だったPKを止めるなど、崩れそうなところを勝ちゲームに変えてしまうような働きをみせた。

夏移籍でクソンユンを獲得(期限付き)したが、太田が出ることもあり、GKは競争状態のままだった。CB陣も(怪我等の理由で)最後までスタメンが固定されることがなく、試行錯誤とスクランブルが繰り返されたままシーズンを終えた。それでも守備で大崩れしなかったのはまあまあ不思議ではある。やはり太田のような選手がしっかり準備していたからとも言える。コツコツと積み上げた見えない努力は、いずれどこかで誰かを救うかもしれない。サッカーには夢がある。という理由で、今季の個人的なMVPは太田岳志に贈りたい。

今季MVPは…

数字では見えぬものがある。

【とりあえず】1年間おつかれさまでした。

最後に、来季に向けて。「やっぱり行き詰まり感はあるので再構築したいよね」というのと、「最終盤で見えてきた希望の光を、もっと」というのと、両方ある。今季はポゼッションを志向したチームがふるわず、神戸が脱イニエスタスタイルでリーグを制したことなどをかんがみると、「走ること」や「フィジカル」の位置づけはJ2時代に近づくような気もするんだけど…。あとは、編成のバランスの悪さはどうにかして。ろくに使えない外国人とかも勘弁してヨ。


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