DV家庭でみられる特徴的な虐待その1-差別心と教育虐待
DV家庭から避難できた子どもたちの中に、回復の早い子どもと、遅い子どもがいます。色々な要因があるので一概に言えませんが、傾向として、差別的な発言の多い親から心理的虐待を受けた子どもの後遺症が残りやすいように思います。差別的な言葉は、子どもに直接向かうものでなくても、それを見聞きする子どもの心を蝕みます。
職場のパワーハラスメントの事案において、本人は気づいていなくても、周囲で見ている人の心が傷つく現象は、「間接パワハラ」と呼ばれ、社会的にも認知されるようになってきました。裁判例においても、「部長の部下に対する非難や叱責等は、課長に向けられたものではなかったといえるが、自分の部下が上司から叱責を受けた場合には、それを自分に対するものとしても受け止め、責任を感じるというのは、平均的な職員にとっても自然な姿であり、むしろそれが誠実な態度というべきである。」と認定されたものがあります(名古屋高裁平22.5.21判決)。
面前DVもこれと同じです。自分に直接の暴言が向かわなくても、父親が母親に対して、「頭膿んでんな」、「バカなの?」、「俺と同じだけ稼いでから意見言ってくれる?」、「ママは頭が悪いから似なくて良かったよ」、などという夫婦間の差別的な発言を目撃することで、子どもの心は壊れます。それは、きょうだいでも同じで、きょうだい間で差別がある場合に、溺愛されている子どもの方が、差別されている子どもよりも傷ついているという例もあります。
自分が何もできない無力さ、さらには、自分も加害に加担しているのではないかという罪の意識を感じたと説明する子どもを何人もみてきました。前述の裁判例の言葉を借りれば、「誠実な態度」が毀損されたと言えば伝わるでしょうか。「差別」を見せつけることは、子どもの心を壊します。それは、直接受けた暴言や暴力と比べて、軽い虐待ではないということを認識する必要があります。
そして、「差別」を見せつけることが子どもの心を壊すという事実は、その差別が家族に対してではなく、第三者に対するものであっても、重篤な被害をもたらします。DV家庭に特徴的にみられる虐待のひとつである「教育虐待」もその例に入ります。「教育虐待」とは、教育を理由として、子どもに理想を押し付け子どもに無理強いをする心理的虐待を言います。教育虐待は、「自分だけを特別と思いたいコンプレックスの病」であるという意味でも、家族のメンバーに対する過干渉という意味でも、DVの構造と非常に親和的で、DV家庭に特徴的に見られる虐待の一つです。
「教育虐待」というと、殴ったり蹴ったりして勉強を強要するような方法を思い浮かべる方が多いと思いますが、一見するとわかりにくいソフトな方法による虐待もあります。他者に対する差別心をあらわにするという方法です。具体的には、「学歴のない人間は話が通じない」、「使われる側の人間になりたくないだろう?」、「偏差値が低いやつが言いそうなことだ」、「〇〇大学くらいに入れないようだと人生詰むぞ」、「文系は出来そこないが進む進路だ」、などの差別心むき出しの発言を子どもの面前で述べることがそれに当たります。
表面上は子どもの勉強を見てあげている育児熱心な親であり、直接の加害行為が子どもに向かうわけではありませんので、加害者は、加害意識を持ちにくいように思います。「子どもからは慕われていた」などと言って、子どもが書いた「いつも勉強をみてくれてありがとう」などの手紙や一緒に解いたワークブックなどが証拠提出されたりします。
常に差別的な言動を吐きまくっているような親に育てられると、その言葉が、直接に子どもに向けられたものでなかったとしても、加害者の有していた差別の物差しが子どもの脳裏に刻み込まれ、後々まで抜けません。大切にされているように見えても、道を踏み外したら、軽蔑されてしまうかもしれないという不安が常につきまといます。ソフトな方法による虐待と書きましたが、殴ったり蹴ったりして勉強を強要するような方法と比べて、軽い虐待ではありません。
教育虐待の被害は重篤で、別居後、加害者から逃れた後においても、勉強しようとすると頭が痛くなる、難しいことが考えられない、寝る時に叫び出すなどの症状が出てしまう子どもがいます。教育虐待の加害者が、学費を出すことを条件に、面会交流を要求するようなことも、子どもの心を壊し続けます。子どもを手段とする加害者の自己実現となっているような場合には、子どもに対する執着心も大きく、親子間ストーカーになりやすい類型でもあります。
子どもが子どもらしさを取り戻す過程で、不登校になったり、成績が下がったりすることもありますが、それは、回復のための過程であり、同居中に傷ついた子どもが、別居によりようやくその傷を表に出せるようになったというべき事案も多々あります。しかし、そのメカニズムを知らないと、そういう「弱い」自分を責めて、自己嫌悪に陥る悪循環から抜け出せず、長期にわたって苦しみかねません。
いじめの事案でも、転校後に不登校になることはよく見られる自然な現象です。抑圧が強ければ強いほど、そこから離れてみないと、症状すら出ません。離婚後の子どもの不調を招いている原因は離婚それ自体ではなく、同居中の家庭の虐待が原因となって時間差で症状が生じることを認識する必要がありますし、離婚後の子どもの養育のあり方は、必ずしも積極的関与が正義ではありません。 以上
(kana)
*本稿は、執筆者が別のブログで発信したものを修正のうえ転載しました。
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