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世界の共同親権ーフランスから(1)

離婚事件をかなり手がけている弁護士です。
最近の共同親権の議論では、海外が共同親権なのだから日本も!という声が大きくなっています。私は、たまたま、友人がフランス在住で「交代監護」をしていて、いろんな制度が日本とものすごく違っているし、フランスで何も問題がないわけではないと思っていたので、その友人から聞いた話を以下にまとめてみます。皆さんのご参考になれば幸いです。
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 離婚の時は、必ず裁判所で、弁護士をつけてということで(当時)、弁護士は資力に応じて、収入がない人であれば自己負担なしで利用できる。

 離婚に際して決めることは、18歳未満の子がいる場合は監護に関すること、財産分与、一方配偶者が片方より収入が低い場合は扶養料。
 フランスでは、離婚後も子は両方の親と接して成長すべきという考え方から、基本は、この交代監護ということになっていて、1週間、2週間、1ヶ月など交代までの期間やバカンスをどう過ごすか等かなり細かいことを決める。フランスは、働く母親が多く、父親も育児・家事するのが当たり前の社会で、基本的に週35時間労働。それを超えるレストランやホテルに勤務する人などは交代監護に適さないと言われることも。小学校は親の送り迎えが義務で、学童は、私の地域では18時ごろまでなのと、課外活動の送り迎えもあるので、それがちゃんとできる人(お金出してシッターさんに頼むことも含む)ということになる。また片方の親が子どもへの虐待などで交代監護に適さない場合には、一方当事者はそのように主張して争ったりすることになるが、その場合は、母親が監護者になることが多い。
 そういうことなので、実際のところ、両親が離婚した子どものうち、交代監護はマジョリティじゃなくて(2020年調査では12%にすぎない)、割合として多いのは、定期的な面会(私の周りでは、毎週とか隔週とかで、宿泊を伴うことが多い)とバカンス(私の周りでは半分ずつが多い)と思う。面会もダメと言われている人もいる。
 養育費は、交代監護の場合は、基本的にはそれぞれが負担して互いへの支払いなしとなるが、収入差がある場合には支払われることもある。
 そのような取り決めを全て決め、その取り決めを問題ないか裁判所が認めて、初めて離婚となる。

 交代監護では、子どもの学校のプリントがなくなったとか、重い荷物を持って行ったり来たりするのが大変というような問題がつきもので、荷物を持って移動するのがとても大変なため、じゃあ2週間ごとにしようかと最初の取り決めより長くしたりすることもある。子どももこうしたいと言い出すことがあるし、再婚相手が子どもを受け入れてくれず、今までのような監護ができなくなることもある。そういうことを臨機応変にできる互いにリスペクトのある関係でないと、もめてしまう。
 また、子どもの住居など大事なことは両者で決めるということにもなっているので、いちいちもめてしまって何かあるたびにしょっちゅう裁判所に行っている人たちもいる(強引に引っ越しして現状追認ということもなくはないが)。
 あと、フランスでは、学費はほぼ無料で、収入が低ければ奨学金も家賃補助などもあり、児童手当のようなものも手厚い。雇用制度も、今回のコロナでも、学生バイトであっても無期限契約の人なら収入の6、70%が保障されていた。日本のように、夫と離婚すると生活できなくなると我慢に我慢を重ねるということは少なく、離婚自体のハードルは低い。その例外はDVで、支配により洗脳されているような状態のため、我慢に我慢を重ねることがある。DVは収入や社会的地位に関わらずあると言われており、もちろん、シェルターもあって、子どもを連れて逃げる母親もいる。そのような場合、児童相談所や児童精神科医も日本よりずっと利用がしやすい。

 私の交代監護は、ストレスや不満もなかったわけではないが、なんとかできていた。それは、別れたとはいえ、お互いに常識と優しさを持ち、子どものためという方向性が同じだったことが大きい。フランスでもスムーズにできている人はそう多くなく、友人たちからは「あなたのところは例外中の例外」と言われている。フランスでも困難とされるこのようなやり方を、女性の地位も、男性の働き方も、婚姻の意味も、雇用や教育費など社会制度が全く違う日本で、皆がやってうまくいくと考えない方がいいと思う。
 日本は、友人たちから話を聞いても、SNSなどを見ても、子育ては、ほとんどお母さんがやっていて、お父さんは「手伝い」とか言っている。あとは、モラハラとか、もちろんフランスでもそういう夫はいるけど、日本は女性へのリスペクトが圧倒的に足りないと感じる。もし交代監護をしたいなら、子育てや家事を妻と同じぐらいすることと妻や女性へのリスペクトは必須と思う。
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 「共同親権の国フランス」と言われますが、このような交代監護は10%程度と実はそんなに多くないのですね。大多数は、片方が監護をして、その監護者は多くが母親ということのようです。それでも、面会の頻度は、月1、2回が多い日本より多いようですし、宿泊つきも多いようです。ちなみに、6歳未満の子どもを持つフランス人男性が家事や育児をする時間の平均は1日当たり2時間30分。一方、6歳未満の子どもを持つ日本人男性の平均は1時間7分で、家事などに割く時間の差は、なんと83分。 フランス人男性が日本人男性の2倍以上(2014年の内閣府男女共同参画局調べ)。子どもと一緒に過ごす時間が多ければ、子どもも父親と一緒に過ごすことに慣れているでしょうし、小さい子どもの面倒も見られますよね。
 そして、日本では共同親権が養育費を増やすとか紛争をなくすとか言われることが多いですが、交代監護だと養育費は基本なし少なくとも減少する方向ですし、お子さんについての決めごとなどでモメてしまう人たちは度々裁判所のお世話になるということで紛争がむしろ長期化するといえるでしょう。
 それにしても、今でも離婚には全件弁護士、元夫婦の収入差を是正するような扶養料、学費無料、女性の地位の高さ・・・フランスと日本は、社会の制度が様々なところで違うのだと感じます。大学進学費用は今の日本とても高くて、監護親が養育費にその費用をプラスして欲しいと言っても別居親が渋ってもめてしまうことがよくありますが、それがほとんどかからないフランスは、その点でもめることは殆どないわけですね。日本で共同親権を導入し、進学などについて別居親の了解が要るようになったら、進学を拒否されるお子さんが出てきそうです。本当に「共同親権」だけ導入していいのでしょうか?                           以上

(弁護士mishima)

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