記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

評㉕猿之助と~『森の石松』@六本木トリコロールシアター8000円は妥当か

 (芸能界の「性加害」が気になって別稿で書きかけてはいるが、かなり頭を悩ましている最中)

 猿之助と愉快な仲間たち第二回公演『森の石松』 @六本木トリコロールシアター、全席指定8000円。脚本:横内謙介、演出:四代目市川猿之助。2022年4月13日 - 21日。上演時間2時間20分(休憩15分含む)、各回に日替わりゲストと猿之助のアフタートーク(約15分)あり。
 
まずは、六本木トリコロールシアター、を初めて知る。
 HPを見ると、2018年3月31日、六本木に誕生、座席数200。

ハコの話

六本木トリコロールシアターとスズナリを比較

 ふむ。この直前に書いた「評㉔二人芝居『命、ギガ長スw』再演スズナリ6500円は妥当か(2022年4月3日)」では、私見では5000円相場の下北沢のザ・スズナリでの二人芝居(劇団『大人計画』関連)で6500円は妥当か、を延々と論じ(?)、大人計画とはいえ二人芝居だし、結局自分には1500円の差が発見できなかった、と書いた。
 で、今回はお初の六本木トリコロールシアター、8000円。真っ先に「高くないか?」と自分に問う(自腹はケチだ)。
 六本木の劇場だと、新劇の俳優座劇場(300席)は6000円が相場。夜割だと4000円くらいもある。
 
スズナリは170席から230席、六本木トリコロールシアターは200席。スズナリとトリコロールは規模からすると、ほぼ互角だ。前も書いたが、観劇料金は「劇場(ハコ)で決まる」傾向があると思う。
 ならば、だ。比べねばなるまい。

観劇料金、利用料金ともスズナリより高め

 まず、六本木トリコロールシアターHPの「SHEDULE」で過去の上演作品が紹介されているので、観劇料金をざっと見る。5000円~9800円前後か。中に3人芝居で6800円というのがあった。5000円相場のスズナリより高めだ。六本木値段か。
 なお、六本木トリコロールシアターのこけら落とし公演はオーナー白樹栞(文学座研究所出身、「日仏評議会エリゼフォーラム」 オーナー兼事務局長)プロデュースによる、草笛光子、木の実ナナ、寺島しのぶら8人の女優による連続リーディングで、フランソワーズ・サガン『愛のゆくえ』(演出:鵜山仁)2018年6月9日〜27日。全席指定7000円、ユース3500円。

 次に利用料金。六本木トリコロールシアターHP「劇場資料」によると1日当たり215,000円(~14日)、207,000円(15日~21日)、197,000円(22日~)。
 スズナリは土日祝で1stage105,000円、2stage131,250円。
 こちらも、六本木トリコロールシアターがスズナリの1.6~2倍くらい。

 8000円は、この劇場利用だと、相場の範囲かも?

ホワイエ……? 椅子はパイプ椅子より良質

 HPの「FLOOR PLAN」によると、1階はホワイエ、2階は劇場とある。しかし、1階はカフェかバーのよう(この日は営業しているのかどうか不明)。
 と思ったら、芝居チラシ類に交じってこんなお知らせが。つまり、そういうこと、フォワイエ(ホワイエ)扱いらしい。

当日配布パンフやチラシに交じって入っていた

 トイレは1階のみ。女子は個室5室(男子は不明)、綺麗。結局この日は1階はトイレだけで利用し、チケットの確認などは軒下。軒下に列を作って並んで、階段を2階に上がりきって右側の入口から入ると、左が舞台、右が階段状の客席。
 ブラックボックス、いわゆる小劇場だった。ただ、天井はスズナリより高いように感じ、狭苦しい感は無い割に、客席から舞台への距離が近い、親近感のわく距離だ(席にもよるだろうが)。
 椅子が、パイプ椅子ではなく、赤い布張りで、小さなひじ置きがあった。クッション性はほぼないが、身体の曲線に沿ったモダンな感じ?

 ……ネット上でいろんな評価が出てるなあ。。。。。

芝居の中身の話

笑えない自分は、また置いていかれる? と最初は不安

 さて、芝居の中身である。
 例によって事前にあまり情報を仕入れない。市川猿之助がからんで若い役者を使う第2弾、歌舞伎役者もたくさん出てる。石橋正次が出る。『森の石橋』ならぬ『森の石松』なんだとさ。ふむ。
 観る。
 ※以下ネタバレあり

 役者が出てくる。拍手がわく。何かやる。客席からくすくす笑いが起こる。知ってる役者を「迎えに行ってる笑い」に聞こえる。むむ、今、笑う所なのか? 焦る。これは「お約束の笑い」、つまり客側が笑う準備をして待っていて、きっかけさえあれば笑うという、自分には極めて不得意な分野かもしれぬ。自分は、納得しないと笑えないのだ。損な性分だ。
 
このnoteに書いたうち以下の2つで、「迎えに行ってる笑い」「お約束の笑い」についていけず、笑えず、置いていかれた孤独感があった。
 
評⑰よしもとノンスタ石田明『結 -MUSUBI-』さくらホール7500円(2022年2月13日)
 評㉔二人芝居『命、ギガ長スw』再演スズナリ6500円は妥当か(2022年4月3日)
 今回もまた、自分は置いていかれるのだろうか。不安になる。
 そうだよな、歌舞伎役者って「推し」の元祖だもんなあ。その世界も役者も、よく知らない自分は。不安になる。

「馬鹿は死ななきゃ直らねぇ!」に、わくわく💛

 しかし、結果的に言うと、ほどなく進行中の芝居になじみ、その不安は消えたのだった。なぜ、なじめたか。

 コロナで瀕死の「劇場」を舞台にした現代演劇。そこに、昔の大衆演劇集団が時間を超えて登場し、その劇中劇で若手役者や歌舞伎役者たちが「大衆演劇・森の石松」を繰り広げる。最後に話がリンクする、という次第。

 ややシリアスな現代演劇の方は、筋を頭に入れるまで多少時間がかかるが、大衆演劇の方は着物着たちょんまげ姿が「前口上」を始めれば、「お、始まった」とわくわくし(単純だ)、「大仰な」その世界にすっと入りやすい(自分は)。言っちゃなんだが、筋は単純と言える(だろう)。
 だって、「馬鹿は死ななきゃ直らねぇ!」って台詞が出たら、わーい出た、ここの台詞かあ(何の芝居の台詞か知らなかったよ)、とわくわくして楽しい(単純)。意味なくわかりやすくて楽しい。自分が古い人間なんだろうけど。

現代演劇と大衆演劇、踊り、歌、殺陣を楽しめた

 そして、派手なキラキラした着物によるショータイム、ひとりや集団の踊り、舞い、歌など、レビューを見てるような楽しさも演出された。もちろん、殺陣もあり、石松がだまされ、大勢に囲まれ、刺されて、死んでいく。そこに、なかなか「おちゃめな」猿之助が加わり、自然とわくわく、そしてしんみりする構成だった。
 かつ、実際の石橋親子を、芝居では、親→子と子→親に逆転させ「お父さん」「息子よ」と逆転ハグさせたのはなかなか、妙。

 もちろん、「迎えを求める拍手」「迎えに行く拍手」もあるのだが、大衆演劇だったら(観たことないがww)、その「お約束」もまあいいか、みたいな緩いノリ。甘いか。実際、大衆演劇は、客席と舞台の「お約束」で成り立っているのではないのか。一度観にいくか。
 客席200で、舞台上の役者と「近い」小劇場の良さが生かされていた。

 ということで、つまり、現代演劇と、エンタメ感満載の大衆演劇を両方楽しめたので、お得感があった。
 そう、このnoteだと、「評⑱コクーン歌舞伎再演『天日坊』一等席12500円(割引)、素直に面白かった」(2022年2月15日)に書いたのと同じく、現代演劇と歌舞伎を両方楽しめたような。

現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」の流れだから当然だが

 それも当然で、もとい、この劇は三代目猿之助が仕掛け、四代目も引き継ぐ現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」の流れ。今回の脚本の横内謙介もがっちりからんでいる。
 スーパー歌舞伎は、現代語調の台詞回しと歌舞伎技法が同時に存在し、歌舞伎っぽい派手な衣装、最新の照明や舞台装置、音楽を取り入れるという、いわば、現代劇と歌舞伎のいいとこどりをしたもの。もちろん、宙乗りとかもある。
 いいと思う。歌舞伎は、江戸時代の現代劇、エンターテイメントだ。「伝統」を守ろうとして現代人に苦手意識を持たれるより、今時のものをどんどん取り入れて面白く楽しいものにしていく試みという方向は、間違いなく正しい。もちろん、伝統の意味も重く、それを残す努力も同時に必要だし、やってるが。

20年『ヤマトタケル』がコロナで中止、若手役者を救え!

 そのスーパー歌舞伎には、歌舞伎役者と現代劇役者が混在して出演する。

 2020年7~9月に豊洲のIHIステージアラウンド東京(360°回転劇場)で公演予定だった『スーパー歌舞伎II(セカンド) ヤマトタケル』が、コロナ禍拡大と緊急事態宣言を受け、主催者判断で中止となった。

 歌舞伎役者たちは本来の歌舞伎もあるし、松竹がある程度面倒見るとして、そうでない現代劇役者たちは、仕事がなくなった。そこで、猿之助は「歌舞伎役者はともかく、仕事がなくなった若手役者に舞台を!」ってんで、猿之助と愉快な仲間たち、を立ち上げ、今回は第二弾というわけだ。
 ……というのも、芝居を観た後に、調べて知る。事前情報は入れない主義だから赦せ。
 クラウドファンディングもやっていて、チラシよく見たら、猿之助が「私がプロデュースする若い役者たちの檜舞台を応援してください」とある。うむ、「泣ける設定」だ。

 で、ほんとに何も知らずに観たが、チラシがこんな感じなので、登場人物は7人くらいかとテキトーに観始めたら、あれ、たくさん出てくる。
 市川の姓を背負った役者が猿之助入れて9人。他にも石橋正次やゲストなどいて、この人たちは「助っ人」。あくまで、このチラシに並ぶ、市瀬秀和、石橋正高(石橋正次の息子)、下川真矢、穴井豪、松原海児、が主役なんである。石橋正高が実際に劇中劇の主役だが、まあ、最後には猿之助が全部持っていきましたが。

左が公演チラシの裏。右は当日配布パンフのキャスト表

猿之助「消えていく一瞬に命を賭けるバカ一筋」を語る

 で、芝居が終わると最後に、猿之助が語り始める。
 役者たちは白装束となり、化粧を落とす、かつらもとる。素の役者の姿に戻った彼らの前で、猿之助が続ける。
 ※手元見ないでメモリました、すみません。
 「(2020年の)ヤマトタケルをやるはずだった、歌舞伎以外の役者がコロナの公演で中止で、仕事なくなってお金なくなって」
 「僕らは生活していかないといけない」
 「僕らは、これ(芝居)しか知らないバカ一筋」
 「(役者は)粗大ごみ。何にも残んねえ。消えていく一瞬に命を賭ける」
 「ほんの一瞬でも輝けるものを」
 「劇場こそふるさと」
 「お客さんも(コロナ禍でもずっと)笑いたかったのでは」
 
……そして、今後の支援も呼びかけた。

 よかった。うん。
 実際には「世の中の全員を救う」ことは不可能。猿之助だって、関係のあった若手に援助の手で精いっぱい。でも、できることをやってるんだな。すごいな、と素直に感じた。人の情。
 若手の役者さんたち、まじに涙流して喜んだだろう。ありがたいよ。
 また、脚本の横内謙介が、コロナ禍で一度落ち込んで以来、ずっとSNSなどでつぶやいていることもほぼ同じだ。同志なんだな。

 さて、最後の最後に「演技」の話。
 つまり、どっかーん!の楽しい芝居なので、上手い下手の世界ではない(と言うと言い過ぎか)。が、歌舞伎役者たちの「乱れぬ姿勢、動き、を乱す」の美しさはさすが。小劇場の身近さで見られたのはラッキー。
 そして、猿之助の、プライドを捨てた(?)化粧とおちゃめな演技。それをすっとかつらごと化粧ごと早変わりし、中の人格も変わる見事さ。どうしてもそれも目がいってしまいました。。顔が大きいです。。
 なお、「演技」とは言えないけど、穴井豪は後から検索したらダンサーなんですねと知る。知らないで見たが、ひとりで踊る時間、空間は素敵で、ああ、この若手に発表の場があり、彼はそれを十分生かしているなと思った。変な感想だが。

結論

 で、結論。あーだこーだはある。ハコの評価は未だ不定の劇場だが、内容から見て、8000円は「(※後日追加)まあまあ」妥当だった、安くはないが(財布は痛い)。
 大衆演劇という、上手い下手より楽しめ!的な世界のため、正直「上手い下手」はいつもにまして不明だが(すみません)、面白いものを魅せてもらい、人の情を感じた。
 ありがとう。

 
 



 

 




 

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?