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評㉔二人芝居『命、ギガ長スw』再演スズナリ6500円は妥当か

共に嗜好(品)、芝居の好みは珈琲の好み、のようなもの

 珈琲☕は、家で頻繁に飲む。焙煎する店で豆を買い、家でグラインダー(ミル)で都度ゴリゴリ挽き、湯温90度を多少意識して淹れる。
 少し前ぶらぶら歩いて見つけた、初めての珈琲豆店。店の人とひとしきり珈琲豆の話をし、雰囲気も良さげだし、「当店一番のおススメ」の豆を買って家に帰った。ゴリゴリ挽いて淹れる。わくわく。うーむ……。
 美味しくないわけではないが、自分の好みとは違う、残念。ちゃんとした豆だし最後まで飲み切る予定だが、好みではないといったん認識した豆の珈琲を飲むのは、至福の時間とは言い難い。再訪するかはさておき、あの店であの豆を買うことはないだろう。

 芝居の好みも、こんな珈琲の好み、のようなもの。共に嗜好(品)だ。
 芝居も珈琲も、「不要不急」の、観る側にとっては少なくとも「不急」ではあろう。
 でも、自分には珈琲のない人生は考えられない。と言いつつ、豆(焙煎方法も含めて)に好みがある。
 芝居のない人生も、そう長期間は我慢できないだろう。と言いつつ、芝居にも好みがある。

 以下は、東京成人倶楽部vol.2、作・演出:松尾スズキ『命、ギガ長スw(ダブル)』の下北沢ザ・スズナリ公演が終わった時点で公開する。
  
ギガ組、長ス組のダブルキャスト、どちらの組を観たかはとりあえず明記しない。

「スズナリ二人芝居6500円」は妥当な料金か?……人気劇団「大人計画」とは言え

 前置き長いが、今回の芝居は「自分の好みではなかった」模様人それぞれだ、買ってみた自分の責任だ、勝手に思っておけばいいのでこんなことに書くな、だろう。それはそうだ。

 ただ、「費用対効果」を重視する人間として、今回は観る前から「ザ・スズナリで、二人芝居で6500円」は妥当か、という価格設定の観点が頭をずっと離れなかったし、観た後もずっと離れない。
 さらに、自ら蒸し返すが、評⑰よしもとノンスタ石田明『結 -MUSUBI-』さくらホール7500円(2022年2月13日)で、自分は「『習作』に見えたので、7500円は高過ぎる。3000円かせいぜい4000円で。おまけで5000円!」と、吉本興業の芝居に対して書いた。さくらホール(735席)に対して(席数の問題は後述する)。ならば、費用対効果にこだわる「公平さ(?)」を期して、書くこととしよう。
 ケチかもしれん。が、ここ数年で300本くらい(その程度だが)は自腹で芝居を観ているので、その一本一本に支払う金にはシビアだ。フツーは払ってしまった金、払ってしまった自分を後悔したくないので「この芝居はこの金を払う価値があった」と自分に言い聞かせたいところだが、それはごまかしのwinwin(自分と芝居主宰者側に)。芝居のためにもならないだろう。主観、私見と明記しているので問題はないはずだ。
 以下の調べたことの大半は観劇後に調べたことだ。観劇前にはあまり情報入れないで観る。

観劇料金は劇場でほぼ決まる、っぽい

 自分の観劇は、東京や近郊の劇場を中心に、特別な「推し」もなく、現代演劇っぽくて、チラシで目についてチケットのとれるものなら、あまり分野に関係なくそこそこ観る、というスタイル。
 で、最近は①劇場(ハコ)とその芝居がマッチしているか②構成(作品、演出、照明、音楽等)がしっかりしているか③役者の演技、雰囲気――の順に、観た芝居を判断することが増えた。

 そして、観劇料金は、芝居のメンバーや内容よりも、どこの劇場を使うかでほぼ決まっていると思う。前に知人に「コクーンに観にいく」と言ったら、「コクーンは高い。私は紀伊国屋ホールがそこそこ」と言われたことがあり、そういや、劇場(の大きさ)でだいたいの観劇料金は決まってるなと再認識した(海外からの来日、舞台装置や大人数出演だと∔α)。
 ざっくり(席数はネット検索、間違いもあろう)、一番高い席で
 新国立劇場オペラパレス(1814席)のオペラは2万円以上
 帝国劇場(1897席)や日生劇場(1334席)、歌舞伎座(2600席)、東急シアターオーブ(1972席)、東京芸術劇場プレイハウス(834席)、シアターコクーン(747席)などのS席は1万数千円(A席、B席など区分あり)
 世田谷パブリックセンター(立ち見入れて最大700席)の商業公演で7000~8000円
 紀伊国屋ホール(427席)や俳優座(300席)など新劇系の劇場は6000円(夜割4000円)
 小劇場系はアマプロ交じり3000数百円~5000円以下
 が、だいたいの相場に感じる。

 また、アマチュアの芝居は4000円以下(未満?)が妥当と感じる。
 収益重視の商業演劇か、公的機関や文化団体の助成が出ているかにもよるだろう。
 大きめの劇場は、ロビーやホワイエの雰囲気、トイレ個室の数など、芝居以外にも客に快適に過ごしてもらうための「場」としての工夫があり、そこに金や人員がかかっている。

小劇場ザ・スズナリは5000円までのイメージ(私見)

 さて、ザ・スズナリ。下北沢・本多グループの最初の劇場。小劇場、ブラックボックスだ。トイレは女子個室が3室(男子は知らない)。あまりおしゃれでない、もそもそした演劇人とその客が集う「こや」だ。
 椅子の上に座布団みたいな。
 ここで芝居を打つのは一種のブランドだし、小劇場の“頂点”とも言えなくないが、だいたい観劇料金は5000円以下のイメージ(主観)。
 スズナリの利用料金はHPによると、土日曜で1ステージ105,000円、2ステージ131,250円などだ。

 で、今回の『命、ギガ長スw(ダブル)』。6500円、なんだ!!

 大人計画・東京成人倶楽部vol.2、作・演出:松尾スズキ『命、ギガ長スw(ダブル)』(再演)、ギガ組(宮藤官九郎×安藤玉恵、公演回数20回)、長ス組(三宅弘城×ともさかりえ、公演回数19回)のWキャスト。上演時間1時間45分(休憩なし)。東京公演(3/4~4/3)は下北沢のザ・スズナリ、全席指定6500円、22歳以下ヤング券3800円。
 その後、大阪(4/7~11)@近鉄アート館(6800円、ヤング3800円)、北九州(4/15~17)@芸術劇場中劇場(6000円、24歳以下ユース3000円、高校生的1500円)、長野(4/23~24)@まつもと市民芸術館実験劇場(4800円、18歳以下2000円)、と控えている。

2019年初演5000円~5500円→2022年再演6500円

 2019年初演、松尾スズキと安藤玉恵。松尾による「劇団を新たに作ってみます。いや、劇団ではないな。部です。ほぼほぼ演劇部です。部活です」の触れ込み。東京では同じザ・スズナリで一般前売5000円、当日5500円。
 今回は6500円。スズナリで6500円。二人芝居。といっても工夫はあるが、かつ、吹越満の「効果音」出演あり。

初演時のHPより

 なぜ、1000円~1500円値上げしたのか
 2020年、第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。
 だから、1000円~1500円値上げしたのか。
 だから値上げしたのか?
 (※もしかすると、パンフレットや公式HPのどこかで説明をしているのかもしれないが、それは読んでいない。それを前提に書く)

「スズナリで6500円でも客を集める自信」は否定しないが……

 一つの答えとして、これは結果論からの想起だが、「スズナリで6500円でも客を集める自信があるから値上げした」というのが考えられる。今回の東京成人倶楽部、のもともとの母体である劇団大人計画はチケットのとりにくい人気劇団だし、実際に客は集まっているようだし(自分の行った時は当日券やキャンセル待ちの列あり)、需給の関係を見込んだ経営判断としては正しいだろう。

 ちなみに、今回芝居の劇場客席収容人員(ネットなどによる)。
ザ・スズナリ 170席や230席の表記バラバラ
近鉄アート館 可動席だが320席くらい?
北九州芸術劇場 700席(1階・2階)
まつもと市民芸術館実験劇場 360席

『大人計画ができるまで』は買って読んだ、1400円+税

 なお、大人計画のファンではない。別に嫌いでもない。人気集団とは知っている。また、松尾スズキ『大人計画ができるまで』(文藝春秋、2018)は買って読んだ。1400円∔税。

 といってもじっくり読み返す余裕はないが、大人計画は、松尾スズキと宮藤官九郎の頭で、阿部サダヲ、荒川良々、平岩紙ら各メンバーをうまく使って映像などメジャーどころに売り込み、ピンでもどんどん使われるまでに至らせたのが成功の源でもあると思う。

いざ、現場へ……補助席を待つ20分余り

 ……と、長い長い前置きを経て、「では、スズナリ二人芝居6500円は、人気劇団大人計画の派生なら妥当な価格として観られるのか? 自分の思う5000円との差額1500円の価値はあるのか?」の現場百遍を観劇自腹の自らに“使命”と課し(誰も頼んでいない)、チケット入手。いざ、現場へ。
 開場前から、当日券、キャンセル待ち組が並ぶ。人気だな。
 さて、2階の劇場に上がると、補助席を割り当てられ、開演5分前までロビーで20分ほど、突っ立っている。“お仲間”は慣れた様子にも見えるが、6500円出して突っ立つのは、あまり若くない身としては何だかもの悲しい。間を仕切る黒幕の向こうから関係者の声が聞こえてくる。ふむふむ、内容は書かない。6500円の価値があるのか、自問自答しながら立っている。
 物販では、パンフレット1400円(長寿お守り付き)、マスキングテープとセットだと2000円、で売ってるようだが、頭の中は6500円なので買わない。後で読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞と知り、台本は買っておいてもよかったかと思ったが、まあ、そうやって時間が過ぎた。

 開演直前に場内に入る。補助席だが、まあ、見やすい場所なのでその点は不満はない。舞台美術はそこそここだわってるっぽい。「効果音」担当の吹越満の声も流れている。
 さあ、上演時間1時間45分(休憩なし)の始まりだ。
 
※以下ネタバレ?

8050問題を醒めた視点で笑いを混ぜて描く

 80代で認知症気味の母親と、ニートでアルコール依存症の50代の息子。2人を撮影する、ドキュメンタリー作家志望の女子大生。その指導教授。この人間関係をうまく入り乱れさせながら、「8050問題」(80代の親が年金などで無職の50代子どもの生活を支える)を堅苦しくなく笑いを交え、かつ醒めた現実的な視点を加えた作品。
 ふむ。読売文学賞は戯曲・シナリオ賞で受賞し、松尾スズキの着眼点はなかなかジャーナリスティックかつ大所高所でないし、そこが評価されたか(と、観劇後に受賞を知った、その後に思った)。

ポツン、とそこにいた自分

 で、観劇中、自分はぽつんとそこに置いておかれた。あまりに醒めた視点で見過ぎた罰か。
 ※4/6追加 コント、のようだ。台本は8050問題とシビアなテーマだが笑いを交え、かつ舞台上では役者のちょっとした動きが、「ここ、笑うポイントだから」と言っているかのよう。~※ここまで4/6追加
 客の多くは、笑っている。ああ、笑いたくて来てる。受けてるのかな。大人計画のファンなのかな。へえ。横も前も後ろも笑っている。何が面白いんだろう……。そう、評⑰よしもとノンスタ石田明『結 -MUSUBI-』さくらホール7500円(2022年2月13日)と同じような感覚を味わっていた。違うのは、劇場ももっと狭くて密で、客の大半は笑っていることだ。
 ファンなのか、応援しようとしているのか。

 自分が唯一、意図せずに笑えたのは、「赤ちゃん」が、生まれる時にへその緒が首に巻き付いてしまって「青ちゃん」。
 それ以外は、ああ、こんな風に演技しているんだな、ここでこう見せようとしているんだな、受けようとするポイントはここだな、など思っていた。なんて嫌なやつだ、自分。ま、自腹だし。

 舞台に出る役者ふたりとも、役替わりで、表情や声、背中の曲がり方も変えてくるのはさすがだったと思う。また、吹越満の「効果音」(しゅっぽー、とか、べたべたとか、声で表現)は、なかなかツボ。

発見できなかった自分を孤独に発見した

 だが、6500円の価値、自分の思う5000円との差額1500円の価値、はついに発見できなかった。そんな自分を孤独に発見した。
 (地味な?)二人芝居とはいえ、裏方、スタッフは大勢関わって手間暇かけているだろうとは、わかる。ただ、先日観た『手紙』のように役者たちに音楽バンドも加わっているとか、歌舞伎みたいに全体が派手で夢の世界、あるいは劇団新感線みたいにとにかく大人数が走り回っている、というのとは違うのだ。客には、見た目で「金がかかっている華やかさ」も料金を払う自らのへの立派な言い訳になるのだ。
 
ちなみに、2019年に観た一人芝居×2のこまつ座『化粧二題』(内野聖陽、有森也実)は6500円だったが、場所は紀伊国屋サザンシアター(468席)だったし、一人芝居とは言え、衣装などが華やかに飾られていた。単に内野聖陽(の演技の)ファンなので、甘いだけかもしれないが。。

 馬鹿だな、笑いに身を任せればよかった……のか?

 まあ、所詮好みなのだ。
 大人計画は民間経営者として正しい選択をしたのだと思う。それを支え、受け入れる人たちが観るのだ。ファンなのだ。好きな人が観るのだ。
 自分は好みではなかった。そういうことだ。
 これが5000円で観たら違ったのか、とも思うが。
 
 そういや、この文章の冒頭に書いた、新しく買ってみた珈琲豆、何杯も飲んでいたら、段々慣れてきて、結構いい味ではないかとも思い始めている。
 芝居も、好みは変わるかも、しれない。

 
 

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