落下の解剖学
(Vtuberの台本)
字幕:映画の感想
字幕:落下の解剖学
三寒四温、寒くなったり暖かくなったりを繰り返しつつ、着実に春に向かう今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか?
こんにちは。
まだ1度も動画を作っていないVチューバーの京モウソヲ潟郎です。
前々から気になっていた「落下の解剖学」を観て来ました。
映画が終わって映画館を出たら、街路樹の桜が咲いていました。
まだ3月が始まったばかりなのに。
去年から今年にかけて、本当に気温が高いですね。
「異常気象やなぁ」と心配になる一方、冬が終わって温かくなって桜が咲いているのを見ると、本能的にウキウキ嬉しくなってしまうのも事実です。
昔、北国に住んでいたころ、とある人と暖冬について話した事があります。
その人が、こんな事を言っていました。
「地球温暖化とか良く分からないけど、自分は冷え性だから、冬が寒くないのは嬉しい」
この言葉を聞いて、ああ、そんなふうに思う人もいるのか、まあでも正直、そうかもなぁ、と感じました。
さて、今日のお題「落下の解剖学」です。
カンヌ映画祭で大賞だったらしいです。
国際映画祭とかアカデミーとかの権威付けも、当たりの年もあれば、ハズレの年もあると思います。
この映画に関しては、個人的には「当たり」でしたね。
面白かったです。
日曜日の昼間の回を観たんですが、お客さんの入りは6割くらいだったでしょうか。
客層は老若男女わりと均等にバラけていたと思います。
さすがに中学生・高校生は見当たらなかったかな。
映画終了後の雰囲気は、わりと良かったように感じました。
ネタバレにならない範囲で映画本編の感想を述べましょう。
まず何より、主人公を演じたザンドラ・ヒュラーの演技が素晴らしかったです。
公式ホームページのキャスト紹介文を読むと、ドイツで幾つも賞をとっている大女優なんですね。
それから脇を固める、夫・息子・弁護士、この3人の男たちの演技も良かったです。
「人の心の曖昧さ」っていうのが、この映画のテーマの1つのような気がします。
娯楽作品のように「善は善、悪は悪」っていう風にカチッと決まっている訳じゃなくて、人は色々な面を同時に持っていて、その境界も曖昧なんだ、っていう見方が前提の映画だと思います。
「前提」といえば、ネットに上がっている一部のレビューを観たり読んだりして少し気になった点があります。
映画のあらすじを紹介する時に、
「小説家として成功している妻と、小説を書けない夫」
みたいに言っているレビュワーさんがチラホラ居ますが、これは誤解でしょう。
確かに主人公は一応プロ作家として活動していますが、それで「成功」しているかと言えば、違います。
「ハリー・ポッター」の作者のように大ベストセラーを物にして億万長者になっている訳ではありません。
主人公が作家として得ている収入は、せいぜい、カツカツで何とか生活して行ける程度の額だと思います。
詳しくは描写されていませんが、おそらく主人公が書いているのは、いわゆる純文学なのでしょう。
聞くところによると、実際ヨーロッパでも純文学系の作家は食えないという話です。
有名な文学賞を受賞した作家でさえ、専業で生活できている人は少ないらしい。
この映画の主人公も、「プロ・デビューしたけれど、生活は楽じゃない」というレベルの小説家なのでしょう。
そうじゃないと、この物語が前提にしている「金銭的な余裕の無さに起因する夫婦間のすれ違い」が成立しません。
仮に、主人公が「ハリー・ポッター」のJ・K・ローリングのような売れっ子作家なら、「私が稼いで家族を支えるから、おとーちゃんは執筆に専念しなよ」って言えます。
あるいは逆に、夫に愛想を尽かしているなら、サッサと離婚して、息子と一緒に出て行けば良いだけです。
主人公が、そこまで売れている訳でもない「程々のプロ作家」である事を暗示する描写は、随所に見られます。
例えば、冒頭のインタビュー・シーンです。
のちの裁判で、インタビュアーが大学生だったと分かります。つまり大学の課題で単独インタビューのアポを取った訳です。
もし主人公が売れっ子作家なら、たかが大学生の論文ごときに付き合って、大した宣伝効果もない単独インタビューを受ける暇なんて無いはずです。
確かに、この物語には作家夫婦の対比があります。
しかしそれは「作家として成功している妻と、作家になれない夫」の対比というより、「やっとこさプロ作家として食べている妻と、そのレベルにさえ達していない夫」という対比です。
では、これからネタバレに移ります。
字幕:ネタバレ注意!!!
(少し、間を空ける)
まず第一に、この映画は、
「夫が死んだのは、事故か、他殺か、自殺か?」
という謎を解決するミステリー作品ではありません。
探偵の名推理なんていう場面も無いですし、驚愕の真実が暴かれる事もありません。
「主人公は、夫を殺したのか? 殺さなかったのか?」
これが、物語を貫く縦軸なのは確かです。
ただし、それはミステリー的な犯人探しという意味ではなく、
「主人公は今でも亡き夫を愛しているのか? それとも既に愛は冷めていて、憎しみに変わっていたのか?」
という意味です。
人って、単純な生き物じゃないですよね。
例えば、ある女が男と交際している時、それが愛によるものなのか、それとも打算によるものなのかっていうのは、簡単には答えられないと思うんですよ。
たぶん、女自身にも答えられない。1人の人間の中にある様々な感情や打算って、AはA、BはB、CはCっていう風に、ハッキリと分離して存在している訳じゃなくて、ドロドロと渾然一体になって、分かち難く存在しているんだと思うんです。
愛しているのか、それとも憎いのか?……じゃなくて、愛していると同時に憎んでいる、憎んでいると同時に愛している、それが分かち難く混ざり合っているのが人という生き物なんだと思います。
じゃあ、男はどうすれば良いかと言えば、「その女を愛すると決める」事です。
誰かを愛するというのは、単に感情的に「愛する」という意味じゃなくて、「愛すると決める」事です。
つまり、大事なのは決断であり覚悟です。
別れ際も同じです。
誰かとの愛が終わるというのは、単に感情だけの問題じゃなくて、「その人をもう愛さないと決める」という決断でもあるのです。
女性は、そういう男の覚悟を無意識に見極めている気がしますね。
そして、もっとも強い覚悟で自分を愛してくれる男を愛する。
この物語には、主人公を中心に3人の男が登場します。
夫、息子、弁護士です。
この3人の中で、もっとも強い「覚悟」をもって主人公を愛すると決めた人物は、息子です。
たしかに弁護士も頑張って主人公を助けた。無罪を勝ち取るために尽力してくれた。
でも、いちばん強い覚悟を示してくれたのは息子だった。
母親が有罪である未来と、無罪である未来のうち、確固たる意志をもって、息子は後者を選んでくれた。
だから、中華料理屋の打ち上げパーティで主人公と弁護士が2人きりでイイ感じになった時、弁護士のキスを拒否したんですね。
その後、家に帰って、息子にハグされた。
息子をハグしたんじゃないんです。
母親でありながら、自ら、息子にハグされに行ったんです。
そして、「これで我が家も安泰だわぁ」って感じで、満足げに眠りにつく。
字幕:夫と弁護士
主人公を取り巻く3人の男たちのうち、息子役の少年も割と良かったんですが、個人的には夫役と弁護士役の演技に注目しました。
まずは夫から。
このキャラクターは、とにかく「ヘタレ」なんですね。
「明日から本気出す」系の、ヘタレ。
ヘタレのくせに、自分勝手。
家族を不幸にする系の、ヘタレ。
けっこう身近に「あるある」なキャラクターです。
「脱サラして、ラーメン王になる!」とか偉そうな事を言って、夫婦の貯金全部ブッ込んでラーメン屋開店したのに、ラーメン作りの技術も無いし根性も無いから、なんか途中で飽きちゃって別のこと始めちゃうタイプ。
そりゃ、奥さん怒るって。
しかも救われないのが、実は彼自身が、「俺には才能も無いし、努力も嫌いだし、飽きっぽいし、何もかも中途半端な最悪ヘタレ男だ」って自覚している事です。
だからと言って、堅実な人生を受け入れる覚悟も無い。
こりゃ、地獄です。
夫婦の修羅場を録音したUSBが再生されて回想シーンになった時、夫の目が、ずーっと潤んでいるんですね。
ずーっと涙目なんです。最初から最後まで半べそ顔です。
自分のヘタレさが全ての元凶だって、本当は分かっているんです。
でも、どうしようもない。
この状況から抜け出すだけの根性があるなら、そもそも、こんな状況には陥ってない。
ヘタレ人生から抜け出す才能なり根性が無いからこその、ヘタレなんです。
本人にも、他人にも、どうしようもない地獄です。
その地獄をさまよっている感じが、よく表現されていました。
弁護士も良かったですね。
ちょっと佐々木蔵之介に似ています。
若い頃、主人公の遊び仲間だったフランス人。
当時、2人の間に親密な関係が有ったのか、無かったのかは分かりません。
いきなり「ジュデーム」とか言って来そうなチャラい顔をしていますが、意外にも堅実な言動で、好感が持てました。
序盤は、あくまで嘗ての仲間に対する義理と友情から援助しているんだという雰囲気と、弁護士としてのプロフェッショナルで冷静な感じ漂わせつつ、物語が進行するに従って、徐々に、焼け木杭に火が付いていく感じが良かったです。
そろそろ締めに入りましょう。
結論。
人間の中には、いろいろな感情がゴチャ混ぜに存在している。
愛情も憎しみも打算も、何もかもが混ざり合っている。
その決定できない感情を決定するのは「覚悟」
女は、自分を愛すると覚悟を決めた男を、愛する。
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