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No.68 - AI時代には、「仕事ができる人」と「仕事ができない人」の差が消えていく。


AIが、本当にすごいことになってきました。

アメリカのトイザらス公式が、動画生成AI「SORA」を使って企業広報ビデオを作成したことを発表しました。
俳優も、ロケ地も、撮影機材も録音設備も照明も要らず、撮影日の天候を気にすることもなく、PCだけでプロモーション動画が完成する時代になりました。



国内アパレル大手のファッションセンターしまむらは、ちょっと前から広告にAIモデルを起用しています。
しまむらの服を着こなしたモデル……ではなく「しまむらの服を着こなしてるっぽいAI生成画像」をチラシに載せるわけです。「人間のモデルとは異なりスケジュール調整や撮影に時間がかからない」のが利点だそうです。

Luna |るな しまむら公式AIモデル Instagramより



少し前にNVIDIAは台湾の展示会で、生成AIによってゲームキャラクターと会話をする技術を発表しました。
RPGの「村人」系のキャラクターなら、複雑なCG技術がなくてもこれで量産できてしまいますし、決まったセリフを話すだけではなく、双方向のコミュニケーションも可能です。ゲームの新しい可能性です。



全米レコード協会は6月24日(現地時間)、音楽生成AIサービス「Suno」「Udio」に対して、「AIが作る音楽は人間の創造的価値を低下させ、最終的には人間に取って代わる」として、著作権侵害訴訟を起こしました。


ちなみに、私がSunoでさきほど30秒くらいで作った「転職デビルのテーマソング」が、こちらです。
普通に店舗BGMとして流れていてもおかしくないクオリティじゃないですか? しかも、無料です。これは全米レコード協会も怒るでしょう。



もはや動画も、ゲームも、写真も、音楽も、大部分がAIで作れてしまいます。

権利の主張や利害関係などの話は、今後の法整備と政治に大きく左右されるので何とも言えない部分があります。まだAIの世界に、法律が追い付いていません。

注目すべきは、どちらかというとその成果物のクオリティーだと思います。

トイザらスやしまむらのような大手企業でさえ「もう、これで十分じゃん」と認めてビジネスに使ってしまうくらい高品質な制作物を、AIだけで作れるようになってしまいました。


AIでも、必要十分なレベルの仕事ができるようになってしまった


私も最近、AIを使って漫画を描くようになり、大手メディアから「漫画家」として取材もされました。


もちろん、真面目に漫画を描いている人たちから見たら「素人レベルのまがい物」だと思いますが、ぶっちゃけ、それでも多くの人から注目されて、大手メディアにも取り上げてもらえるなら十分ですよね?

見ている人からすれば、クオリティー的に「もう、これで十分じゃん」という話です。
その「真面目に漫画を描いている人たち」の99%は、メディアから取材なんて受けたことないですからね。結局は、結果を出した人の勝ちです。


ファッションモデルの写真なども、本職のモデルさんから見たら「フン、あんなもの……」という話かもしれないですが、スポンサー企業側が「AIで十分じゃん」と思ってしまったら、問答無用にその人が今まで受けていた仕事は無くなります。収入激減です。結果だけ見れば、そういうことです。

映画や広告動画の制作会社も同じです。自分たちがいかに「この仕事はAIにはできない」と強いプライドを持っていたとしても、視聴者側が「AIが作った動画でも良い暇つぶしになるなぁ」と思ってしまったら、需要は徐々に減っていきます。「AIに真似できないかどうか」は実はそれほど関係がありません。

逆に、「俺の仕事はAIなんかでは再現できないから一生安泰だぜ」と思っている人が一番ヤバい気がします。
「100%再現する」こと自体、別にユーザーから求められておらず、AIが作った60%の作品でも顧客がそれを受け入れてしまったら、もはや100%を追いかけても経済合理性が無いからです。


例えるなら、従来のテレビ番組と比べたら完成度=2%くらいのクオリティの動画しか作れないYouTubeが、今やテレビ番組の需要をゴッソリと奪いまくっていて、レガシー民法テレビ局が全部死にそうなのと似たようなものですね。

プロの仕事を100%再現する必要なんてないんです。最初から。


もちろん、話はこれで終わりではありません。

AIによる成果物が「もう、これで十分じゃん」というレベルに達してしまうのは、動画制作や音楽・漫画といったクリエイティブ分野だけに留まりません。

会社員の仕事の大部分においても、すぐに同じことが起きます。


仕事ができる・できないの境目が消えていく世界


簡単に言うと、AIによって「完成度60%の仕事なら誰でもできる」状態になります。
そして、会社員の仕事って常に100%の精度が求められるかというと意外とそうでもないので、半分以上の仕事は「もう、これAIでいいじゃん」となっていきます。

このとき起こるのが、「仕事ができる人」と「仕事ができない人」の差が消えるという現象です。


具体例を挙げましょう。

今や、PDFやCSVファイルなどをAIに読み込ませてデータ分析をさせ、分かりやすいグラフを作成してパワポ資料に落とし込む作業をすべて自動でやらせることも容易になりました。

GoogleのGeminiでは、マーケティングの宣伝キャッチコピーや商品名のアイディア出し、文章資料の校正作業などをAIにやらせるためのプロンプトが一般公開されています。



「会社の機密資料をGeminiやChatGPTに流すわけにはいかないだろ」と思う人もいるかもしれませんが、MicrosoftのColilotが普及すれば、将来的にOffice365導入企業はすべてAIで仕事をするようになることが予想されます。

  • Wordファイルで「たたき台」を作ったり、文章を分かりやすく改善したりする

  • Excelシートで元データの形式を整えて統合し、並び替えて見やすくしたうえで、その数値を詳細に分析して問題点を洗い出す

  • PowerPointのスライドを作成し、見やすい文字の大きさ・配色に調整し、イラストや写真、アイコンなどを入れて見た目を良くする

  • Outlookのメールソフトで、取引先へのメール返信文を考え、誤字脱字や不明瞭な記載がないかチェックする

  • Teamsでオンライン会議をした後、議事録を作成し、次回までの宿題と各担当者をメモに残して参加者に配信しておく


これらすべて、今後はAIで簡単にできるようになります。

ホワイトカラーのオフィス勤務社員や、事務職、総合職などの人は、仕事の出来栄えで差を付けるのがかなり難しくなっていきます。

というか、「めちゃくちゃズバ抜けた超優秀な人」以外は、大体みんなAIを使えば同じくらいの能力になります。
「見栄えの良いパワポを作るのが上手い」「丁寧で分かりやすい文章を書くのが早い」みたいなスキルは、もうほとんど要らなくなります。

AIで誰でも簡単に作れる成果物が「もう、これで十分じゃん」というレベルに達してしまうので、「仕事ができない人」でも、「仕事ができる人」と同じレベルで何でもこなせるようになります。

この流れは、確実に来ます。もう来ていると言ってもいいです。


AIによる仕事の変化は、もう始まっている


2024年に入って、大手企業を中心に、AIの業務活用はかなり早いスピードで進められています。

ほんのちょっと調べただけでも、これだけ事例が出てきます。めちゃくちゃ沢山あります。

  • パナソニックは、電気シェーバー用の小型電子モーター部品の設計に、AIを活用しています。

  • セブンイレブンは、AIを使うことにより、商品企画プロジェクトに必要な期間を従来の1/10に短縮しました。

  • ホンダは、業務で発生する非構造化データの処理に生成AIを利用し、社員の日々の業務効率を向上させています。

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