掌編小説 時間と感情

 昔よく聴いていた音楽を久しぶりに聴いたら違和感を覚えた、なんてことはよくある現象なのだと思う。
 価値観が変わったからのか、精神的に成熟したからなのか、分からない。正体不明なあの違和感を真正面から受け止めてしまうと過去の自分を否定してしまうような気がして、無理やりにでも曲の最後まで聴いてみるが、やはり違和感は拭えない。
 おもむろにイヤホンを外し、ベッドの上に寝転がった。

 決して曲が色褪せたわけではなくて、どちらかと言うと何十年ぶりに旧友に出会ってついよそよそしくなってしまうあの感じに似ている。メロディーを聴くと懐かしさで胸がいっぱいになるが、歌詞を聴くと何かが違うと考え、心のどこかで寂しさを感じるのである。

 時は常に一定の速度で流れているのに、心の一部だけが「あの頃」に取り残されたかのような錯覚に陥る。当たり前だが、あの頃はあの頃のままである。月日が経つにつれてあの頃と今の距離は遠くなっていき、いつかこの微妙な感情は引き裂かれてしまうのだろうか。