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映画「AWAKE」と「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」


もう昨年のことになるが、将棋の電王戦を題材にした映画「AWAKE」を見てきた。これまた主演の吉沢亮さん目当てに見に行ったのだが、いままで全く知らなかった電王戦のことが気になって家に帰ってからも当時の記事などを読み漁ってしまった。あらすじは以下。

大学生の英一(吉沢亮)は、かつて奨励会(日本将棋連盟の棋士養成機関)で棋士を目指していた。降格したら奨励会を去らなければならない大一番、同世代で圧倒的な強さと才能を誇る陸(若葉竜也)に敗れた英一は、プロの道を諦め、普通の学生に戻るべく大学に入学したのだった。幼少時から将棋以外何もしてこなかった英一は、急に社交的になれるはずもなくぎこちない学生生活を始めるものの、なかなか友人もできない。そんなある日、ふとしたことでコンピュータ将棋に出会う。独創的かつ強い。まさに彼が理想とする将棋を繰り出す元となるプログラミングに心を奪われた英一は、早速AI研究会の扉をたたき、変わり者の先輩・磯野(落合モトキ)の手ほどきを受けることになる。自分の手で生んだソフトを強くしたい―将棋以外の新たな目標を初めて見つけ、プログラム開発にのめり込む英一。数年後、コンピュータ将棋の大会で優勝した英一は、棋士との対局である電王戦の出場を依頼される。最初は申し出を拒否する英一だったが、相手がかつてのライバル・陸だと知り―。https://awake-film.com

私自身は将棋についても人工知能についても全くのど素人なので、奨励会のシステムのことも映画を見て初めて知ったし、コンピューター将棋のプログラムをつくるのにあんなに人間が自分の手でパチパチとキーボードを叩いてプログラミングをし続けなければいけないことも初めて知った。

結果としては浅川は100万円チャレンジでも使われた2八角の手を誘い、英一はあっさりと負けてしまうのだが、ルールとして事前にAWAKEのプログラムを渡されたあとの浅川の焦り、強いプレッシャーを感じている描写がとてもよかった。英一にとってはプログラムの穴をつかれてあっさり負けてしまったと思っただろうけど、本戦で浅川が勝てたのは、AWAKEが強かったから。強かったから家で何回も何回も対局を重ね、苦しんで得た作戦だった。

映画を見たあとにこちらの記事を読んだのだが、実際の電王戦で対戦された阿久津さんも、100万円チャレンジで2八角戦法が使われた前から、この方法を考えていたとのことだった。

悔しい思いをした栄一がかわいそうになり、浅川もたくさん努力した結果だったんだよと伝えてあげたくなったが、奨励会での浅川からの「強かった」の一言と、最後の空港での光景を見て、あぁ、これでよかったんだな、と思って涙が止まらなくなってしまった。頑張っている人を見るとすぐに泣いてしまう…。

もうひとつ、子供のころに負けを認められずに王将をとられるまで投了できなかった英一と、電王戦で2八角をうたれたところで投了を選んだ英一の対比がとてもよかった。コンピュータ将棋ではもちろん全てプログラムが将棋を打つので、プログラムの開発者に与えられる選択肢は投了のタイミングだけである。対局しているのはコンピュータだけど、そのプログラムを作ったのは人なんだよなあと思った。

この作品で吉沢亮さんが暗くて人付き合いの悪い変人を演じていることがネットニュースになっていたけど、もはや変人の役の吉沢さんをみることのほうが多い気がしてきた。どんな役を演じていても顔がめちゃくちゃかっこいい…好きです。吉沢さんのファンの人が多いのかなと思ったけど私が観に行ったときはどちらかというと将棋のファンなのかな?という中年〜年配の男性の方が多かったのも印象に残った。


そして、人工知能について少し知っておきたいなと思って読んだのが、松尾豊さんの「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」

人工知能の研究の発展、人工知能がいまできること、これからできるようになるかもしれないことについて順序立ててわかりやすく説明してくれる本だった。わかりやすいといっても、知識ゼロから読み始めた私にはよくわからないこともあったけど、なんとなくの雰囲気はつかめたからよかったと思う。

うまくいけば人工知能は急速に進展する。なぜなら「ディープラーニング」、あるいは「特徴表現学習」という領域が開拓されたからだ。これは、人工知能の「大きな飛躍の可能性」を示すものだ。もしかすると、数年から十数年のうちに、人工知能技術が世の中の多くの場所で使われ、大きな経済インパクトをもたらすかもしれない。つまり、宝くじでいうと、大当たりしたら5億円が手に入るかもしれない、ということだ。 一方冷静に見たときに、人工知能にできることは現状ではまだ限られている。〜略〜人工知能が人間を支配するなどという話は笑い話にすぎない。要するにこれは、宝くじでいうと、いま手元にある10枚のくじで平均的に受け取れる金額―現状の期待値―は300円にすぎない、ということだ。

映画AWAKEのなかで英一がひたすらにキーボードをたたいてプログラムに学習させていたこともなんとなく理解ができた。(AWAKEがどのくらいの人工知能なのか私にはわからないが、プログラムに知識を与えるにしても勝率をあげるために特徴量を調整するにしても人間の手を借りないといけない部分がたくさんある?)

2章〜5章は人工知能の発展についての話だったが、6章からの話が人工知能は人間を超えるかの話がおもしろかった。

人間の社会がやっていることは、現実世界のものごとの特徴量や概念を捉える作業を、社会の中で生きる人たち全員が、お互いにコミュニケーションをとることによって、共同して行っていると考えることもできる。

特に人間は社会的な動物であり、コンピューターが膨大な量の計算をしてやっているディープラーニングを、人間は昔からの教えとしてや、隣の人との関わりのなかで学習して手に入れているという考えに、なんか古臭い言葉になってしまうけど人と人との繋がりの大切さを感じることができた。コンピュータみたいな計算ができなくてもいままで人はそれをやってこれたんだな、と。逆に言えばこれまで人が長い時間をかけてやってきたことがコンピュータでできるようになることはやっぱりすごいことだなとも思う。そしてそれをできるようにした人工知能の研究者のかたたちもほんとうにすごい。

コンピュータのことを考えると、人のあり方についての話になるのもおもしろいなとおもった。(人工知能はコンピュータで人の脳を再現しようとしているものなので当たり前といえば当たり前なのですが…)

そしてこの本を読んで、まさか自分が泣くとは思わなかったのだが、あとがきがとっても好きだった。作者の松尾豊さんがされてきたこれまでの努力と、人工知能に対する思いを読んでいると勝手に涙がでてきた。この先何年かかって人工知能が実現されるのか、それは私達が生きている間なのか、そうではないのかわからないけど、松尾豊さんが研究してきたことはこの先の研究者の方たちに受け継がれていくのだなと思い、この研究の壮大さに胸がいっぱいになった。この本は初版が2015年に出版されたものであり、この5年で人工知能の研究はさらに進んでいるはずなので、新しい本もまた探して読もうと思っている。

今年はノンフィクションの本もたくさん読めるといいな。おわり。

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