VUCAの時代のキャリア形成を考える

 前回に引き続きこのような時代にどう生きていくのか。01 Nigtで話した内容の今回は前回に関連する海外事情についてです。今回は関連する主な理論と主な事例を紹介することとします。前回の宿題を手元において今回お読みいただければ幸いです。

 テーマは引き続きVUCAの時代という変化と不確実性の激しい時代に何を指針にするのかです。変化と不確実の時代に人生計画や夢の実現というような、なりたい職業から逆算して自らの進路を考えていくことは成り立つのか。 この問いは、そもそも変化と不確実しかない起業家の世界で何を指針にするのかでもあります。01Nightの問いはそういうことです。

 今回は、01Night後いろいろと質問をいただいたことを中心に(=当日は語っていない)話をしたいと思います。それは、米国でも同じ事が言えるのか?です、なぜか。
 そこでまず一般論としてのキャリア論に触れてから、次に起業家論に触れ、最後に米国の企業の例について触れたいと思います。

↓ 01Night配信の様子です。これだけの方々のご尽力を得て無事...
 配信中の2人は、でかい酒の瓶おいてまるで下宿談義(*^ー゚)。

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  まずは古典から。「わたしの時はまだ来ていません。・・・わたしの時がまだ満ちていないからです。」(新約聖書ヨハネ7章6~9節)「天の下では、何事にも定まった時期があり、すべての営みには時がある。生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。・・・愛するのに時があり、憎むのに時がある。戦うのに時があり、和睦するのに時がある。」(伝道者3章1~8節)と数々の時の例を挙げていることからも時がいかに重要な概念であるのかを知ることができます。
 時により運命が変わる。これはキリスト教でも考え方は同じです。それを米国の研究者はどう考えたのでしょうか。

命に従い時をつかむ ~理論編~

Planned Happenstance Theory

 スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア理論です。個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。偶然をつかむことができるのか否かはその偶然に出合うまでの行動特性によるという理論です。

その行動特性には5つの要素があり、

 Curiosity  好奇心 学習の機会を模索し続ける
 Persistence 持続性 失敗に折れず努力し続ける
 Flexibility   柔軟性 信念、概念、態度、行動を変える
 Optimism  楽観性 新しい機会は必ず来ると考え行動を続ける
 Risk Taking 冒険心 不確実下でも行動を起こす

 出典『その幸運は偶然ではないんです!』ジョン・D・クランボルツ、A.S.レヴィン著 花田 光世, 大木 紀子, 宮地 夕紀子訳 ダイヤモンド社 2005

 クランボルツ教授がキャリアカウンセリングで最重視していることは、What-you-should-be-when-you-grow-up need not and should not be planned in advance.(大人になったときに何をすべきかは、事前に計画する必要はなく、計画すべきではありません。)ということです。
 キャリアカウンセラーにとって重要な4要因の内最重要視することは、

 The goal of career counseling is to help clients learn to take actions to achieve more satisfying career and personal lives?not to make a single career decision.(単一のキャリア決定をすることではありません。)と言うことなのです。(John D. Krumboltz(2008),The Happenstance Learning Theory.

effectuation theory

 次は起業家のキャリア構築です。effectuation theory とは、バージニア大学ビジネススクールのSaras D. Sarasvathy教授が優れた起業家を調査して発見した事実。起業家は機会は発見するものではなく、自らの手で創造するもの。自分が持っている既存の能力、専門性、人脈などに基づいてまず動き出しているという認識に基づいた理論です。 
 ここで重要なことは、優れた起業家は外部にある何か(これからの時代は・・・等々)を求めて学習して獲得するのではなく自らの内にある考えに基づいて行動するということです。

 彼女の理論の骨子となるのが、Bird in Hand(手中の神)です。

Who am I:自分が何者であるのかを温める。
What I know:自分の特徴を支えているのはなにかを温める。
What do I know:自律をささせてくれる社会的関係資本を温める。

 このように自己の内面に既に存在するものに磨きをかけ仲間を創っていくという理論です。

 クランボルツ教授の理論をサラスバシ教授と合わせてクランボルツ教授の理論に戻してみると以下のようになると私は思います。

・あなたを助ける立場にある人々の目に止まるようなやり方で仕事をやる
・自分の恐れや希望、夢について他の人に話す。
・他の人の希望や恐れに耳を傾け、必要とされるときには──場合によっては頼まれなくても──積極的に支援することで、他者の人生に対する興味や関心を示す(出典:『その幸運は偶然ではないんです!』日本語訳 ダイヤモンド社 p.113)

命に従い時をつかむ ~実践編~

Google社
 Google社はSearch Inside Yourselfという人財育成プログラムを実践しています。(↓開発者の説明)

 プログラムの背後にはマインドフルネス文化の醸成があります。この組織文化養成のために同社はハーバード大学公衆衛生チームのDr. Lilian Cheung と組んで食堂の食事メニューの開発など広範囲の社内全体の環境整備をしています。

 そして組織文化へと定着させるためにベトナム出身でフランスに寺院を持つ僧侶Thich Nhat Hanh氏を呼んで半日かけた研修まで行いました。

Google社はなぜSerch Inside Yourselfにここまで力を入れるのか。それを解く鍵は創業者の想いにありそうなので後ほど。

ビル・ゲイツ氏
 起業家として氏の名言を見てみましょう。

・私は起業家という言葉をいつも拒否してきた。「会社を始めよう、何の会社にしようか」では決して成功しない
・自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない。それは自分自身を侮辱する行為だ
・人と比べると、劣等感や優越感など大して役に立たない感情に振り回されてしまいがち。自分は自分。同じ人間はいないのだから、まわりに左右されることなく、自信を持って突き進むべきだ。

出典:Forbes JAPAN 2020/02/15 12:00 ビル・ゲイツの名言10選 「自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない」

Patagonia Founder Yvon Chouinard
PATAGONIAN 100ヶ条に起業家精神が述べられています。

・ルールは盲目的に使うものではなく、自分たちで創るものである。
・人は誰しも何らかの使命をもって生きるべきだと思い、それを実践している。
・前例のないことでも、正しいと思えばやってしまう。
・他人の意見を尊重するが、自分の意見は曲げない。
・東洋的、日本的な文化や精神世界への関心がある。
・何であれ、他人のことをうらやましいと思ったことがない。

(出典:エスクァイア日本版 臨時増刊 Patagonia PRESENTS
  HOW TO BREAK THE RULE. A to Z:遊ばざる者、働くべからず(1998))

起業家は卒業式で何を述べたのか。

 さらに起業家はどのように考えているのか。米国の大学ではCommencement Speechという卒業式来賓祝辞という儀式があります。次にそのスピーチの台詞を見ていくこととしましょう。

Larry Page's commencement address at Michigan
 I had one of those dreams when I was 23. When I suddenly woke up, I was thinking: what if we could download the whole web, and just keep the links and… I grabbed a pen and started writing! Sometimes it is important to wake up and stop dreaming. I spent the middle of that night scribbling out the details and convincing myself it would work. (23歳のときに夢を見ました。突然目が覚めたとき、Web全体をダウンロードして、リンクを保持するだけでいいのではないかと考えていました。ペンをつかんで、書き始めました!時々、目を覚まして夢を見ることをやめることが重要です。私はその真夜中に詳細を書き、それがうまくいくと確信しました。)Google社の創業者の想いは自らの内にあったと。


Mark Zuckerberg's Commencement address at Harvard
 Look, I know a lot of entrepreneurs, and I don’t know a single person who gave up on starting a business because they might not make enough money. But I know lots of people who haven’t pursued dreams because they didn’t have a cushion to fall back on if they failed.(私は多くの起業家知っている。その中で十分なお金が稼げないかもしれないので起業をあきらめた人を知りません。しかし、失敗した場合に頼りになるクッションがなかったために、夢を追い求めなかった多くの人々を知っています。)

 We all know we don’t succeed just by having a good idea or working hard. (私たちは皆、良いアイデアを持っているか、一生懸命働いているだけでは成功しないことを知っています。)

 Change starts local. Even global changes start small with people like us. ・・・your ability to build communities and create a world where every single person has a sense of purpose.(変更は足元から始まります。世界的な変化でさえ、手のひらから始まります。・・・コミュニティを構築し、一人一人が目的意識を持つ世界を作る能力が成功をもたらすのです。)


Jeff Bezos's graduation speech at Princeton
【私は自分の情熱に従うために安全性の低い道を進みました。そしてその選択に誇りを持っています。】
I took the less safe path to follow my passion, and I’m proud of that choice.

Will inertia be your guide, or will you follow your passions?
Will you follow dogma, or will you be original?
Will you wilt under criticism, or will you follow your convictions?
Will you be clever at the expense of others, or will you be kind?

慣性があなたのガイドになるでしょうか、それともあなたは情熱に従うでしょうか?
あなたはドグマをフォローしますか、それともオリジナルですか?
あなたは批判の下でしおれますか、それともあなたの信念に従いますか?
他人を犠牲にして賢くなりますか、それとも親切になりますか?

 そして彼は最後にこう締めくくっています。
In the end, we are our choices. Build yourself a great story. Thank you and good luck!最後に、私たちは私たち自身を選択するのです。自分にぴったりの最高のストーリーを作りましょう。幸運を祈ります!

S.Jobs's Commencement address at Stanford
 you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. (将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。)

 Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life. Don’t be trapped by dogma ? which is living with the results of other people’s thinking. Don’t let the noise of others’ opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.(あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。)

 以上の理論と実践例で述べられていることは外部環境分析や競合分析などのフレームワークを用いた市場分析に合致するものでしょうか。ロールモデルという誰かを後追いすることを示唆しているのでしょうか。

 我が国では伝統的に内なる声「命」に従うと考えてきました。米国の理論や実践例もあるときからパタゴニア創業者のイボンさんがおっしゃるように「東洋的、日本的な文化や精神世界への関心」をもって転換したと言えます。「禅」を中心とした思想とも言えるでしょう。例えば、相田みつをさんは「道はじぶんでつくる 道は自分でひらく 人のつくったものはじぶんの道にならない」とおっしゃっています。

 そこで、宿題についてです。「人々貴き物の己に存在するを認めんことを要す。」(吉田松陰)を英語に訳してみてくださいとお願いしました。それは、Search Inside Yourselfでしょうか、keep listening for that little voiceでしょうか、your own inner voiceでしょうか、Bird in Handでしょうか。それらはカタカナではなく松陰先生曰くでは駄目なのでしょうか。我々にとって他人のドグマに従うのか、それとも自らの歴史と伝統に則った自らの価値観から始めるのか。

 最後に、慶應義塾大学殿町タウンキャンパスでは、禅的対話による「ウェルビーイングイノベーションTonomachi Edge(強化コース)zenschool@Tonomachi」を開催しています。毎秋募集をかけておりますのでご興味があれば是非。(リンク先は先年秋の要綱


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