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自宅で点滴と注射

ルルちゃんの声を聞いて妻も輸液に同意してくれたので、さっそくいつもの老獣医師に状況を説明して皮下輸液について相談。果たして必要なものを売ってもらえるかどうか。

残念ながら、状況は悪化するだけなのでそのことは認識する必要があります。
それでも、もう少しLULUを保たせたいなら、皮下から水分や栄養を与え、注射で薬を与えることも検討してみましょう。
当院に必要なものは全て揃っていますし、お望みであれば提供できます。

まずはひと安心。その日の午後に予約が取れたのでコロナショックの外出制限が続く中、ふたりともマスクをして家を出る。25日ぶりの外は人より鳩の方が多かった。

実はこの病気は大抵の場合、食べることができなくなって飢えと乾きで死ぬんだよ
「飢えと乾きで……。何か痛みを和らげる方法はありますか?」
組織が破壊されて痛みはもうあまり感じないんだよ
実際どうなのかネコになってみないとわからないけれど、確かにヒトよりは痛みに鈍感かもしれない感じはする。そうであって欲しい。

抗生物質の注射を2日おき、消炎剤の注射を4日おき、そしてリンゲル液40mlを1日2〜3回、ブドウ糖40mlを1日2回皮下点滴という指示。針が人間用で普通に太い。
「点滴ですか…トンボ針はありませんか?」
あいにく無いそうで、点滴でもちゃんと落ちるよ、とのこと。
注射器に短めのトンボ針ならシンプルだけど、点滴だとちょっと工程が増えるので難しそう。けれどこの際贅沢は言っていられない。

普段はこういう対応はしてないんだけど特別だよ!本当なら入院してするような治療だよ」と老獣医師。きっと世の中はコロナショックで外出規制中だし、ぼくが車イスで来るのが大変そうだしとか勘案してくれてのことなのだろう。料金も約一週間分の注射と点滴セットが一回分の診察料程度で済んだ。
「本当にありがとうございます!感謝します」
「頑張って!」

急いで帰ってさっそく妻が点滴を湯煎で温める。
注射器とトンボ針を使う皮下輸液のやり方ばかり調べていたので、点滴の方法を改めて検索。今までの人生で点滴された回数ならハンパないけど、自分が点滴することになろうとは。

セッティングして、点滴がポタポタ落ちる部分を指でむぎゅむぎゅっとやって三分の一ほど液を溜め、クレンメのローラーをゆるめて針先から液が出るのを確認。
常備していた消毒用アルコールを化粧用コットンに染ませて点滴のゴムキャップとルルちゃんの肩甲骨の間の辺りを消毒。消毒用アルコール類はもうほとんど買えないので残りはルルちゃん専用だ。
竹槍のようになっている注射針の断面を上にして、三本の指で背中の皮をつまんで引っ張り皮膚にプスっと刺す。気付いていない様子。人間だったら痛いよねこれ。

緊張の初点滴はうまくいった。輸液が終わるとすぐ、ルルちゃんは本当に久しぶりにぐっすり眠った。

ところが二回目の点滴で問題発生。最初こそ点滴がポタポタ落ちるものの、すぐに全く落ちなくなってしまう。クレンメ全開なのに。針の刺さり具合を調べても問題なし。う〜ん何故だろう。
悩んで点滴のチューブをよく見ると、緑色のベントのところにヒビが入って割れてしまっていた。これは点滴の瓶を替えるときにぼくが力が弱いからなかなか抜けなくて、つい出っ張った部分に指をかけて引っ張ったために無理な力がかかってヒビを入れてしまったのだった。
「ぎゃーー頼りないおとうにゃんでごめんっ!」
ほんと何やってんだドジ!と反省。すぐ動物病院に電話して新しいものを買い求め、事なきを得た。ついでに少し容量多めの注射器も売ってもらい、もしも点滴がうまく行かない場合の保険に。

それにしても抗生物質と消炎剤の注射の効果は絶大で、それまでのつらそうな様子がピタッと収まった。皮下注射は吸収が遅い代わりに効果が持続するらしい。

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浅かった呼吸が深くゆっくりになり、立ち上がることもおぼつかなかった足もとがしっかりして、歩けるように。
日向ぼっこをしたり、断食の5日間とは比べものにならないくらいリラックスした様子だ。
何より、よく眠れるようになったことが良かった。

この延命措置を施すことで苦しみを長引かせてしまうのではないか?という懸念があって、正しい判断だったのかどうか今はまだわからない。
けれどもルルちゃんの様子が劇的に改善されたことで、ぼくたち夫婦の精神状態もとても楽になったことは確かだ。そういう意味では、飼い主のエゴかもしれないけれど、現時点ではやって良かったと思っている。

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ルルちゃんがぼくの車イスの下にやって来てくつろいでくれたのが何より嬉しかった。



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