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5ws+1n 夢をあきらめない 最終話

〇(回想)SAKURAの部屋
ワインの瓶を持って泥酔しながら、慶喜に向かって罵声を浴びせているSAKURA。
SAKURA「慶喜、あの写真をマスコミに流せばあんたはもう終わり。ジエンドよ。わかってる? みんな、世界中の人が、み~~~んな不幸になればいいのよ」
ワインをがぶ飲みし、むせて、泣きながら高笑いをするSAKURA。

〇青山中学校・音楽室
典子「そんな・・・」
春樹「SAKURAが死んだとき、お前はどこにいたんだ?」
慶喜「彼女はリストカットや睡眠薬を飲んだりして、何度も死ぬマネをして俺を呼びつけていたんだ。リア王の初日の前々日、また彼女から電話があって、睡眠薬を一瓶呑んだから部屋に来いと言われたけど、行かなかった。次の日電話に出なかったから、心配になって彼女の部屋に行ったら・・・、バスルームで死んでた」
翔太「ヤッテないんだな」
慶喜「彼女が死んでいるのを確認した後、あの写真を消さなきゃと思って、ケータイを探して持ち出しただけだ」
典子「どうして警察を呼ばなかったの?」
慶喜「気が動転してて、早く写真を処分しないとと思ったから」
大輔「警察がお前を探していることは知ってるのか?」
慶喜「ネットのニュースで観た」
典子「何もやってないなら、さっさと出頭すれば済むんじゃない」
慶喜「大麻のことがばれると・・・」
春樹「今はやってないんだろう」
慶喜「うん」
春樹「じゃあ胸を張って警察に行けばいい」
慶喜「でも、舞台が・・・。ドタキャンしたから、もう俳優としてやっていけない。もうおしまいだ・・・」
典子「何弱っちい事を言ってるのよ」
翔太「そうだよ、何度ノックアウトされても立ち上がって、挑戦し続けるのが男じゃないか」
慶喜「翔太・・・」
春樹「もしお前に俳優としての才能があるのなら。例え才能がなかったとしても、好きならやり続ければいいんだ」
大輔「人気だけじゃなくて、お前の演技が本物ならば過去の過ちは消せると思う」
翼「そうだよ。俺ももう一度一からやり直してみるよ、春樹と一緒に。あ、マイナスからか(笑)」
春樹「そうこないとな」
翼と春樹ががっちりと握手する。
翔太「俺たちは不死鳥、イェ~~イ」
大輔「お~~」
    ×   ×   ×
(校舎遠景から)薄明るくなった音楽室から、「翼をください」の歌声が聴こえる。

〇青山中学校・校門前(早朝)
パトカー2台と阿部の外車が停まっている。警視庁のパトカーから、刑事の末永と仲村が降りてくる。

〇同・正面玄関前
末永がハンドスピーカーを口に当てて話し始める。末永と仲村の後ろに阿部が立っている。
末永「こちらは警視庁港警察署刑事課の末永です。本田慶喜君、そこにいることはわかっています。SAKURAさんの事件で君に詳しい事情を聴きたいので、出てきてください」

〇同・音楽室(早朝)
疲れて眠り込んでいる六人。
典子が末永の声で目が覚める。
末永の声「逃げたり隠れたりすると君にとって不利になります。大人しく出てきてください。繰り返します。こちらは・・・」
典子「みんな、起きて。警察が来たみたい」
五人がのろのろと起きる。
翔太「警察? どうしてここが・・・」
みんな一斉に窓の方へ駆け寄って、外を見る。
翼「わ、パトカーだ」
慶喜「社長!」
大輔「刑事ドラマのワンシーンみたいだな」
典子「のんきなんだから・・・、もう」
翼「カーテンコールみたいだ」
春樹「みんなで一緒に出ていこう」
慶喜「主役は俺だけどな」
翔太「俺たちは引き立て役か?」
みんなで晴れやかに笑う。
大輔「ここは慶喜にセンターを譲るしかないな」
典子「なんか、そんなドラマがあったよね」
翼「ま、いいんじゃない。行こうぜ」
典子「(外に向かって大声で)ここで~す!今、行きま~~す」
翔太「それ、なんか、かっこ悪いよ」
大輔「うちの店に荷物のトラックが付いた時と同じ口調だった」
みんな笑う。

〇同・正面玄関前
末永、仲村、阿部が音楽室の窓際で大笑いしている六人の様子を見て、不思議そうな顔をしている。

〇同・正面玄関内
慶喜の右側に大輔、典子、左側に春樹、翔太、翼が並んでいる。
大輔「じゃあ、行こうか」
ドアを開けて、五人が外に出ていく。
ゆっくりと歩いて、末永達の前に進み出て立ち止まる五人。
慶喜「(一歩前に出て頭を下げて)お手数をおかけし、申し訳ありませんでした(両手首を揃えて末永に差し出す)」
末永「重要参考人として話を聞くだけですから、手錠はしません」
みんなほっとした表情になる。
慶喜「社長、心配かけてすみません」
阿部「まさか、お前・・・」
大輔「社長、大丈夫です。のぶは何もしていませんから」
阿部「なにも? え、本当なのか」
慶喜大きく頷く。
末永が慶喜の肩をポンポンと叩いて、
末永「詳しくは東京に帰ってから聞こうか」
慶喜が末永と中村に促されて、警視庁のパトカーに乗り込み、発進する。
残された阿部、大輔、翼、春樹、翔太、典子がパトカーを見送る。
阿部「どうなってるんだ」
大輔「慶喜はSAKURAに脅迫されてたみたいです」
阿部「なんだって」
翼「SAKURAと付き合ってた時に、大麻やって、その写真をマスコミにばらすって」
阿部「大麻だって!」
翔太「だけど、のぶはSAKURAを殺したわけじゃないって。連絡が取れなくなって心配になって見に行ったら、もう死んでたって言ってました」
阿部「だったらどうして逃げたりしたんだ」
翼「怖くなって逃げたら、だんだん騒ぎが大きくなって、それに舞台をドタキャンしたからもう駄目だと思ったらしくって」
阿部「まったく馬鹿な奴だ」
春樹「のぶは俳優としてもうやってけないんでしょうか?」
阿部「さあな、それはこれからのあいつ次第じゃないか。才能がある奴はこれくらいのことじゃ潰れない」」
大輔「俺たち、昨日の夜、また昔みたいに競い合いながら助け合おうって決めたんです。それぞれ違う道を歩いているけど、心はつながってるから」
典子「ファイブウイングスはここからスタートしたんだから、昔、私がみんなに助けてもらったように助け合おうって」
翔太「俺は金もないし、大した力にはなれないけど、応援ソングはみんなのためにいつでも大声で歌うからって」
阿部「まあ、本当に何もやっていないなら大した罪にはならないだろう。問題は役者としてこれからどうなるのか・・・、それは俺にもわからない。城山の大御所を怒らせてしまったんだからな」

○典子の家
台所で夕飯の支度をしている典子。
瞳がテーブルでお絵描きをしている。
テレビがニュースを放送している。
テレビ音声「そろそろ俳優の慶喜こと本田慶喜がこの湾岸署から出てくると思われます。一時はモデルのSAKURAさん殺害の容疑者という憶測が流れましたが、あ、出てきました」

○湾岸警察著前(夕方)
阿部に付き添われた慶喜が正面玄関から出てきて、深々とお辞儀をする。
慶喜「ご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
カメラのフラッシュが光り、シャッター音がする。
典子の声「大麻には所持と栽培の罪はあるが、数年前に一度吸っただけでは何の罪にもならないらしく、翌日、のぶは解放された。しかし、マスコミは以前、のぶが大麻を吸い、しかもSAKURAさんの遺体を発見した後、行方不明になっていたことを大きく騒ぎ立てた」

○新橋演舞場・舞台
千秋楽の幕が閉まった舞台に向かって、拍手が鳴り止まない。
幕が上がり、リア王の衣装を着た役者たちが皆手を繋ぎ、観客の声援に応えてお辞儀をする。
城山が一歩前に進み出て、騎士のように右手を高くあげ下げて、お辞儀をする。
観客「ブラボー」「ブラボー」
拍手が一層大きくなる。

○同・楽屋前の通路
スタッフたちが拍手をしている中、大きな花束を抱えたマネージャーと城山が楽屋に向かって歩いてくる。
城山と書かれた楽屋に入っていく。
スタッフ「お疲れ様でした」「お疲れ様でした」

○同・城山の楽屋中
衣装を脱いだ城山が鏡の前で化粧を落としている。
ドアがノックされる。マネージャーがドアを開けて、阿部と言葉を交わした後、ドアを閉める。
マネージャー「先生、外に阿部社長と慶喜がお詫びをしたいと来てるんですが」
城山「何?」
マネージャー「どうしますか?」
城山「追い返せ!」

○ 同・楽屋出口
マネージャーと城山が出てきて、黒塗りの車に乗り込もうとする。
慶喜が走り寄ってくる。
慶喜「この度はご迷惑をかけ、大変申し訳ありませんでした(頭を下げる)」
慶喜を無視して、車に乗り込む城山とマネージャー。車が発進するが、慶喜はその場で頭を下げたまま動かない。
大輔の声「のぶはこの後しばらくして城山から許され、これまでの芸能活動を一旦中断して、城山の付き人となって演劇の世界で修行させてもらうことができた。城山の大事な一人娘がファイブウイングスの熱狂的なファンだったから、引退後の俺たち全員のサインと引き換えに、父親に慶喜を付き人にするように説得くれたらしい(苦笑)」

○城山の車
慶喜が運転して、城山が後ろに乗っている。

○翼のマンション
最後の荷物を作業員が運び出して、がらんどうになった部屋。
翼がスマホで電話をしている。
翼「終わったよ。今からそっちに行く」
春樹の声「翼は新宿のマンションを売り、借金を半分にしてから、自己破産の手続きをとった。僕はそのままでいいと言ったのだが、翼は男のケジメだと言って社会的な信用を一時失い、マイナスからのスタートの道を選んだ。僕と翼は広尾に新しい事務所を借り、映像と音楽の総合的なプロデュースの事業を始めた」

○広尾のマンション
作業を終えた作業員が部屋から出ていく。スマホで電話をしていた春樹が作業員に声をかける。
春樹「あ、ご苦労様でした」
春樹「(電話に向かって)こっちも終わった。早く来いよ」
翼の声「わかった」

○JAXA・研究室
翔太が白衣を着て、顕微鏡を見ながら作業をしている。
翔太の声「こうして、俺たちに起こった事件は解決の方向に進んでいる。え、俺の秘密? 知りたい?」

○(回想)青山中学校・音楽室(夜)
大輔、典子、翼、春樹、翔太、慶喜が輪になって楽しそうに話をしている。
典子「あ、翔太、あなた、まだ告白してないじゃない」
翔太「(頭を掻きながら)あ〜、バレたか」
大輔「なんだよ、お前、ひとりだけ言わないつもりだったのか?」
翼「ずるいぞ、言え〜〜〜〜」
慶喜「トリはお前に任せるって言ったじゃないか」
翔太が立ち上がり、話し始める。
翔太「え~~~、実は私、浦上翔太のJAXA一次試験合格は間違いでした」
大輔・典子・春樹・義信「え~~」
翼「(飲んでいた酒を吹き出す)」
典子「翼、汚い!」
翔太「今日までみんなを騙してごめん。同姓同名の奴がいて、事務局がそいつと間違えて二通合格通知を送ったらしいんだ」
大輔「え~、そんなことがあるのか?」
翔太「二次試験の日、つくばに行ったら、もう一人の浦上翔太が来てて、俺もびっくりさ」
春樹「でも翔太、お前JAXAで働いてるんじゃなかったっけ」
翼「何してるんだ?」
翔太「一次の書類選考の要件は満たしてなかったけど、俺の宇宙への思いをJAXAのお偉いさんがわかってくれて、今は研究室で働かせてもらってるんだ」
慶喜「そうだったんだ」
翔太「今更、間違いでしたって言えないし、ずっともやもやしてたけど、今日言えて良かった。すっきりした」
典子「慶喜の熱烈な宇宙愛、分かってもらって良かったね」
春樹「宇宙飛行士は無理なのか?」
翔太「実は研究室の助手をしながら、今、博士論文を書いていて、それが通れば、もう一度選考試験を受けられる」
大輔「おお~、何の研究をしてるんだ?」
翔太「ミドリムシ」
典子「え、ミドリムシ? あの臭いの?」
翼「バッカだな~、それはヘコキムシ。お前そんなことも知らないの?」
全員、大笑いをする。
翔太「学名はユーグレナ。藻の一種だよ。宇宙で食べ物を自給自足するための研究なんだ。最近ではバイオ燃料にもなるって注目されているんだ」

〇JAXA・研究室
翔太が顕微鏡を覗いている。
(ミドリムシが活発に動いている)
翔太の声「日本人の宇宙飛行士の平均年齢は50歳。だからまだまだチャンスはある。俺は俺が月に行けると信じてる。君はどう思う??」

〇スーパームーン
満月に向かって吠える翔太。
翔太「待ってろよ~~~~」


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