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カイルの放浪手記

それは青い空の様に果てしない世界の話。

水面に映る青髪を、青藍の瞳に焼き付け、故郷に思いを馳せる一人のエルフの放浪記。

序章

俺が“カイル”という名前で生を受けたのはもう遠く昔の事だ。約200年くらいはずっとエルフという…そう…長寿の生命が住む里で暮らしていたな。
水守という“水の神様”との繋がりと、守護を保つその任を長老から受けて幾星霜…今はこうして不思議な“人間”という生命の世を…
ただ…清流の様に漂っている。

「あぁ、そうだった…」

一つ大事な事を怠惰の中で思い出した。エルフの里には大きな…神木がある。といっても…人間の見ている木とは大きく見た目が異なるものだが…
透き通るガラス細工のような艶やかな皮に…中は
“魔力”の“源”である“聖水”が緩やかに流れている。
その神木…大樹アルカナが静かに病に蝕まれて…エルフの伝承にも無いそれを止める為の旅でもあるのだ。
広い世界を渡り、必ず術はあるはずだと信じてな…

第1手記~儚き地を~
人の世に踏み出した頃の記憶を辿ると、20年近く経過している。人はきっとそれを“長く”感じるだろうが…俺たちにとっては“そうでもない”時の事だな。
初めて踏みしめた人の地は…なんというか…
儚く感じたのを覚えている。

―最初のその土地はアデリアという町だった。
実を言えば、当時は人の世界を全く知らずに来てしまったものだから言葉も文字もなにも分からなかったがな。町の名前を知ったのも後の事だった。
大きな海という水溜まりの畔に白い壁の家が何軒も連なっていて…耳の小さな…それこそエルフと見た目は耳以外変わらない“人”が世話しなく動き回っている…時が儚い町。
この大きな耳では目立つと思い咄嗟にフードを被り、まず“人”の情報を集めることにした。
見ていると不便そうな生活を“人”というものはしていることがわかった。

「人は耳が小さいな…あと…言葉も違う…そして…
魔法も使えないらしい…わざわざ水を汲んだり…火を時間をかけて起こしたり…不便そうだな…」

1人ぶつくさとエルフの言葉を呟くと、人が近寄って来たんだ。
「~~~?」
何かを問いかけていたんだが全く分からなかったな…。白い髪を高く束ね、赤い瞳できょとんと見るその青年はもう一度同じ言葉を吐いた。
「たびのひと?」
その時はハッキリとした発音で聞こえたがやはり意味はわからなかったので、仕方なくエルフの言葉で
“わからない”と答えた。するとその青年は優しく笑い、手にしていた道具で絵を描き始めたんだ…

彼は絵で物を説明しようとしていた。当然この世界に来たばかりの俺は、産まれたばかりの赤子と同じようにものを知らないので、彼も流石に困惑した様子だったな。そして一瞬目を輝かせ、一件の家を指指し…俺の手を取って歩き出した。
…けれどそれと同時に、海からの強い風でフードが捲れて…
俺の大きな耳は人々の前に晒される事になったんだ…





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