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長岡の居酒屋にて


ちょうど1年前。日本海側を沿って、車で新潟に行きたい!と書いた。

有言実行。やっと叶った!

『大地の芸術祭』目的で新潟にログインした私は、『このまま帰るの寂しいな』と思い、Googleマップを開き、ここから近い街をさがした。

上越には寄ったし、次に近い街は『長岡』だと知り、ここで泊まってみようと即座に決定。

完全なノリでここに行こうと決めたのだけど、今でも、この日の余韻がシャボン玉のようにほわほわとしている。

知らない街に行くのは楽しい。それがたとえ小さな街だとしても、こんな素敵な夜に出会えるのなら、やっぱり旅はやめられないなぁと思う。


***

毎度お世話になっている『じゃらん』で、長岡市内のゲストハウスに空きがあったので、当日予約。

どちらかというとカプセルホテルに近い。ベッド、トイレ、洗面所、申し訳ないくらい綺麗。そして当日予約なのに3000円!ありがたいお値段に合掌。

受付をしていた男性に聞く。『この辺で飲みたくて、居酒屋探しているんですけど・・』

『太陽食堂』というお店を紹介してもらった。『ご夫婦で長くやられているお店で、いつも良くしてもらってて〜。』

ゲストハウスから徒歩30秒。外観は一軒家のような、こじんまりとしたドア。見るからに入りにくい。なので隣にあったオープンで明るい居酒屋のドアを開ける。満席ですと言われる。勇気を振り絞って、『太陽食堂』のドアを開けた。

奥のテーブル席には、20歳くらいの男女グループ。女の子の声が店内に響く。手前のテーブル席は、スーツ姿のサラリーマン3人。やたら茶色い紙袋が置いてある。カウンター席には、奥側からタバコを吸う50代くらいのおじさん、ラフな格好をした20代くらいのお姉さん、1席空いて、30代くらいの和やかなご夫婦。

目を泳がせて、右足を一歩引こうとした瞬間、お姉さんに『ここ空いてますよ〜』と空いていたカウンター席に手招きされた。転校生のような気分で隣に座った。

『お嬢ちゃんどうぞ〜。』店主のおばあさんに御通しの豚汁をもらう。『ビールがあそこから自分で好きなの取るんです、あ、栓抜きはあそこにあるんで。』お姉さんの手際良い説明に食らいつくように、ビールを取る。お姉さんはすぐさまおじさんとの会話に戻る。私はビールを注ぐ。

『おばちゃ〜ん、充電していい?』20歳の男の子が後ろから感じよく聞く。『おばちゃん梅干しちょうだーい。』お姉さんがいいちこにポチョンと入れる。私は刺身と串カツを頼む。まだ転校生気分が抜けない。


色とりどりの刺身。想像以上に大きい串カツ。これらは2人前だと知る。串カツを食べると、お姉さんとおじさんに声をかけられた。

『地元の人?』

『いえ、初めて新潟に来たんです。近くのゲストハウスの方にここを紹介してもらって。』

大地の芸術祭を見に行くために新潟に来たこと。車でゆっくり来たこと。それらの話をするとお二人は大変喜んでくれた。

『あ〜!あそこのゲストハウス!実は俺の知り合いなんよ。こんなご時世にオープンしたから大変だったろうに。』

その後話は盛り上がる。このお二人は、のちに親子だということを知る。お姉さんは、赤ちゃんの頃から『太陽食堂』に来ているのだとか。

『新潟に来たなら、米食べないと!』

串カツが乗った私のお皿に、少量のご飯が乗る。美味しい。お酒がすぐになくなる。

『美味しいですよね〜!私、前に京都行ったとき、お米がまずくてびっくりしました(笑)。』
『刺身も美味しいでしょう。まあ、サーモンは村上の方だけどね(笑)。』
『あ、そうだ。ぽんしゅ館行きました?私コイン持っているんで、もし行くなら使ってください!』


3人組のサラリーマンが帰る。続けて、隣に座っていた夫婦も席を立ち、お会計を済ませる。『愛知から来たんです』と告げ、ガムをいただいた。

『今日はほんと若い人が多いねえ〜!いっつもこのカウンター席はジジイしかいないのに!』お姉さんがなめろうを食べながら言う。店主のおばあさんは微笑みながら皿を洗う。おじさんはタバコを吸う。


『あーそうだ。長岡の花火大会を知っとるか?すごいんだよ。まあ、逆に花火しか自慢できるモンがないが』
『毎年、8月2,3日にやるんですよ』
『ええ、第一土曜日、とかじゃなくて、毎年決まっているんですね?』
『そうそう、長岡に空襲があった日で、復興を願った花火大会なんです。今年は平日なんですけど、もしお休みが取れるならぜひいつか来てくださいね!』

20歳のグループが席を立つ。ひとりの女の子が、男の子に背中をさすられる。だるそうに店を出る。長岡はゴールデンウィークが成人式だったそう。扉が閉まると、一気に店内が静まった。グラスに残ったいいちこをグイッと飲んだ。

いわゆる、地元の人が集まる居酒屋。店内にビッシリ詰まった、煙たい空気と地元の人の愛。決して広くないこの空間には、息苦しさではなく、長年培ったであろう温かさがあった。

『長岡のグルメだったらそうだなあ、青島ラーメン、フレンズとか?』
『B級グルメを食べたいなら、フレンズだね。青島ラーメンは、普通ってかんじ(笑)。まあでも、やっぱ、太陽が1番美味しいよ〜!』
『あーそうだ。せっかくな、芸術祭来たんだから、越後ビールを飲みに行くか〜!』

『太陽食堂』を出て、3人で2軒目に向かった。


***

翌日。もらったガムを噛みながら車を走らせる。長生大橋を通り、大きな信濃川を見る。ここから上がる花火を想像する。

『また来てね!おやすみなさい』2軒目が終わり、あのお二人と別れた商店街の交差点を思い出す。喉にガムがスースーと通る。窓を全開にする。寂しさと名残惜しさを噛み締めながら、長生大橋を通りすぎた。また行きたいなあ、大好きになった長岡に。


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