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本屋の片隅で出会った、フィンランドの暮らし


2020年のある日のこと。

ドアを開けると雑貨がていねいに並ぶ。右側には可愛いプリンが食べれるカフェ、奥に行くと一般的な本がずらり。店内にはいろいろあるけど決して広くはない、街の本屋さんに私は居た。

さらに奥に進み、トイレに寄る。トイレから出た正面に、地方イベントの宣伝コーナーと衝突。大きなポスターが貼られたその下に、フライヤーがたくさん置かれていた。


フィンランドを好きになったきっかけが、このフライヤーとの出会いだった。

ザ・フィンランドデザイン展。開催地は鳥取県立博物館。

失礼極まりないけど、地方でデザイン系の企画展は珍しい。私は何度デザインやアートの企画展のために県外へ出たことか。それはそれで楽しいけど、近場で開催されると聞いて胸が躍らないわけがない。

そのフライヤーを手に取る。

そう。そのときは、『フィンランド』ではなく、『デザイン』というワードに惹かれていただけだった。

この企画展に行くと決める。フィンランドデザインの予備知識といえばせいぜい『マリメッコ』くらいで、あとはなにかとていねいな暮らしの代名詞である『北欧雑貨』が並んでいるんだろうな、と思いながら車を走らせ、会場に向かった。


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たしかに日本で呼ばれている北欧雑貨はオシャレだなあとは思う。けど、あまりにも名前だけが先行しすぎてて、

なんだよ、北欧雑貨、って、

何がていねいな暮らしだよ、

って、なんとなく苦手意識があった。

さらに北欧雑貨を買う人というのは、肌が白くてワンピースが似合う、のんびりとした気取らない人という絶大な偏見を抱えていた。つまり自分と真反対な人物像すぎて嫉妬していた。だから苦手意識を持っていたのか。

みたいなことをぐるぐると考えていたら、会場に到着。


かなり衝撃を受けた。

雑貨、テキスタイル、もちろんそれらも素敵だった。だけど私が本当に衝撃を受けたのは、フィンランド人のライフスタイルだった。

まず、大いなる自然を大切にするという考え方がベースであるということ。

それは建国前から、自然の豊かさを生活に取り入れているそう。首都・ヘルシンキからでも、森に行ってハイキングやベリー摘みを楽しめる。群島に行けば、島を巡りながら海を泳ぎ、冬は凍った海上をスケートで滑る。カモメ、リス、ウサギなどの野生動物も生息している。

自然が常にそばにあるからこそ、自然からインスピレーションを受けた美しいデザインの展示が並ぶ。

それだけでも感動したが、私はいつの間にか、フィンランドの暮らしに関する文章の展示にも夢中になっていた。


フィンランドには天然資源がない。だから人に投資をする。税金をたんまり取るが、子どもや社会弱者にたんまり投資している。大学生までの教育費、高度医療、キレイな図書館の設備。すべて無料。

私が特に印象的だったのは、『ベイビーボックス』。子どもを産むと、政府からベイビーボックスという、生まれたばかりの赤ちゃんのお世話に必要な衣類やおもちゃなどが入ったマタニティキットが支給される。そのベイビーボックスも展示されていた。男女どちらでも使える可愛いデザイン。生まれた瞬間から、デザインがはじまる国。

北欧雑貨、すなわちフィンランドデザインとは、肌が白くてワンピースが似合う、のんびりとした気取らない人だけのものではなかった。

国民全員に投資する、すばらしき資源だった。


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さらに深ぼりたく、家に帰ってデータを調べる。

国連が発表した幸福度ランキング世界第1位。ジェンダーギャップ指数世界第2位。現首相のサンナ・マリン氏は34歳でフィンランド最年少首相。世界でも、最も若い在職中の国家指導者。

女性がかなり自立しているせいか、離婚率は6割。長い冬があるため太陽を浴びる時間が少ない。うつ病になりやすい。体を温めるためにアルコールを飲む人が多い。


***

あの企画展会場で知ったことは、大したことじゃないと思う。フィンランドのすべての1%くらいしか、知れなかっただろう。

だからこそ現地の空気が知りたいと思った。

ヘルシンキの街並みを歩いて、ヘルシンキ大聖堂を生で観たい。

『みんなのリビングルーム』と呼ばれているヘルシンキ中央図書館に行きたい。

アルヴァ・アアルトの建築巡りをしたい。

ハカニエミ・マーケットホールでアンティーク雑貨を買いたい。

本場のフィンランドデザインが知れる博物館に行きたい。

足を伸ばしてタンペレに行き、フィンレイソンの紡績工場跡地をまわりたい。ラップランドへ行き、オーロラを観たい。

トラムに乗りたい。サウナに入りたい。シナモンロールを食べたい。

できるなら、フィンランド人と、話してみたい。

あの企画展に行ってから3年が経つ。あのころはまだ流行病真っ只中。フィンランドについて調べれば調べるほど、フィンランドに行きたくてたまらなくなったのだ。

ワクワクしながら飛行機を調べる。現時点では直航便は羽田空港からしか飛んでいない。宇露情勢の影響で、航空ルートが遠回り。14時間の空の旅。むくむく上がり続ける物価と燃料費の高騰。

まだまだ、頭を抱えてしまうことはある。

だけど、やっぱりどうしても、今年行きたい。

今年の夏で私は25歳になる。なんとなくキリがいい。今の会社で波に乗ってきた。独身彼氏子どもなし。コンディションは最高潮。スーパーハッピーフリータイム。どんなに世界が暗くても、私が最高潮ならば、行くしかないと思っている。

私の人生は世界の情勢に左右されたくない。

そんなことを思いながら、フィンランド旅を楽しみにしている。



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