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【meepa成長記録】第4話:実験は焦らず・批判的に・小さく・急所から

僕はdotDに入社してmeepaの立ち上げを始めるまでは、コンサルタントとしてクライアントの新規事業の企画開発をお手伝いしていました。
リーンスタートアップに惚れ込んでいたこともあり、仮説検証の進め方をたっぷり勉強して、原理原則に沿ってクライアントと二人三脚してきたつもりです。

ただ自分の事業となるとコンサル時代とは勝手が違いました。
心から実現したい・成功させたいと思うが余り、どうしても客観視しきれず、典型的な落とし穴にハマってしまった気がします。

今日はその辺の話しを書いてみようと思います。

この記事は、meepaというEdTech系新規事業からの学びを言語化し外部発信していく『meepa成長記録』の第4話です。背景がよくわからんと言う方は、バックナンバーからどうぞ!(以下は前回のリンクです)

仮説検証の定石

ハマった罠をわかりやすくするためにも、まずは定石から整理していこうと思います。色んな考え方があるかもしれませんが、ここではシンプルに3点ほど言及します。

1. 反省しにいく

仮説検証のことを「実験」と呼ぶことがあるように、新規事業の仮説検証方法を理論化する試みの中で、科学を参考にするケースが多く見られます。

新規事業の仮説検証(実験)に臨む際の科学的な態度としてよく言及されるのが「反証可能性」。つまり、自分の仮説を反証(棄却)できるように実験を設計し、その実験を経ても生き残ったら仮説成立(あるいは、とりあえず「反証はされなかった」)と認識するということ。ある有名な起業家の口癖が「さて、今日は自分の仮説をどう殺そうか?」だったとか(誰かは忘れてしまいました)。

ここで大事なのが、仮説が正しいことを証明するのではないということ。いくら科学的な実験と言っても、結果の受け止め方は多分に解釈の余地があります。自分が頭を悩ませて生み出した、我が子のように可愛い仮説です。「正しいことを証明する」気持ちで結果を眺めると、実際はネガティブに捉えるべき結果でも、ポジティブに解釈できてしまうことがままあります。

2. ヤバイ仮定から潰す

リーンスタートアップ界隈では、真っ先に検証すべき仮説のことを要の仮説とかLOFA(Leap-of-faith assumption: 盲信している仮定)と呼んだりします。airbnbの立ち上げ初期のLOFAは「人は、見ず知らずの他人の家に泊まる際も、マナーやルールを守る」「人は、見ず知らずの他人であっても、自宅へ受け入れる」だったとか。

LOFAの見極めには、事業を成り立たせるあらゆる仮定(あるいは前提)をリストアップした上で、①仮定成立の不確実性 と ②仮定不成立のインパクト の二軸で評価をすることが多いです。①②の総合評価が最も大きい(=一番「ヤバイ」)仮定をLOFAと認定します。

そしてこのLOFAが成り立つかどうかを検証する(言い方を変えると、LOFAを反証する=LOFAが成り立たないことを証明する)ために実験を設計します。一度LOFAが成り立つ確信が得られれば(LOFAがLOFAじゃなくなり、次のLOFAが繰り上げ当選すれば)次のLOFAの検証に入ります。

このような形で仮説検証を繰り返していくことが、定石と言われます。

少し蛇足になりますが、『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』で、東大教授・ソニーCSL副所長の暦本さんは「決着をつける最短パス」というキーフレーズを提唱しています。間違った仮説の証明に長い時間をかけて取り組んでも仕方がないから、一番コアな仮定をなるべく早期に・簡易に検証して、さっさと見切りをつけよという意味です。上記で説明したことをたった一言で美しく表現しているので、一眼で気に入りました。

3. 最小限に試す

仮説検証は、階段を一段一段昇るように、ステップ・バイ・ステップで丁寧に実施していくことが大事だと言われています。言い方を変えると、完成度・作り込み度が低い段階でクリティカルな仮説を検証すべしということです。

例えば以下の図は、新規事業/スタートアップの成長ステージと各段階での検証ポイントをいくつかのソースからまとめたものです。

いまのmeepaは、いわゆるPMF(Product-Market Fit)ではなく、そのひとつ手前のPSF(Problem-Solution Fit)を目指す段階だと認識しているのですが、これを見ると、その段階に置いては、ユーザーの共感が最大の成果であり、訂正的な指標で仮説検証を進めることが定石だと読み取れます。

成長ステージと検証方法


こうした定石と照らし合わせる形で、以下ではmeepaのβテストを振り返ります。βテストに至る経緯や内容は第0話にまとめているので、こちらも合わせて読んでもらえると、より理解してもらいやすいんじゃないかと思います。

反省1:実験ステージを見誤った

上記の定石と第0話の内容を照らし合わせてみると、「そもそもあのタイミングでβテストを実施すべきだったのか?」という問いが浮かび上がってきます。【meepa成長記録】はmeepaが実施したβテストからの学びを整理する試みなので少し皮肉な感じがしますが。

というのも、βテスト以前のmeepaでは、ビジョンや方向性の正しさを問うような実験は複数実施していますが、要の仮説/LOFAを直接的に検証するような実験は行っていなかったためです。(第0話に掲載したβテスト以前の活動サマリをご覧ください。なんでそうなってしまったかは後述します。)

ちなみに、当時の要の仮説/LOFAを言語化してみると以下のような感じです。

親は、子どもが本当の好きに出会う手伝いをしてあげたい。自分のバイアスがその妨げになると自覚していて、子どもの性格などに合った習い事のレコメンドがもらえれば、積極的に体験に連れて行ってあげる。

今回のβ版はなるべくミニマムに作ろうと心がけたため至らない点も多かったのですが、それでもdotDの貴重なリソースを投入して作りました。前後の処理も含めたβ版を作る前に、この部分だけでもプロトタイプとして作ってインタビューベースの実験をしておくべきだったなと、いまは思います。そうすれば、開発・実験で計6ヶ月かけて得た学びを2~3ヶ月で十分得られたんじゃないかなと思います。期間が短い分、かける費用も少なくて済んだはずです。お金については大した投資は行っていないとも言える程度の金額ですが、一事が万事です。

反省2:反証すべき仮説の明文化を怠った

βテストは3ヶ月ほど実施していたのですが、今思えば、開始4週ほどで上記の初期仮説は反証されていました。でも当時はそれに気づけませんでした。

その大きな要因の一つが、仮説が明文化されていなかったことです。上記の要の仮説/LOFAの内容は頭の中には何となくあったのですが、文章化していませんでした。もしかしたら、明文化できるほどクリアに思考できていなかった・思考を怠っていたのかもしれません。それなのに、わかった気になっていて、ちゃんと書き出そうと思えませんでした。「自分が生み出したんだもん、わかってないわけないじゃないか」ってな感じで。

それで、実験の結果を「仮説に対する反証」だとすぐには認識できませんでした。「meepaには価値があることを証明」するために、当初仮説をねじ曲げるような形でどんどんとプロダクトを改善していき(だいぶデフォルメした言い方ですが)、結局あっという間に3ヶ月が経ってしまいました。

きちんと仮説を明文化しておけば、4週目とは言わずとも8週目くらいまでには仮説の反証に気づけて、新しい仮説の立て直しに行けたのかなと、今では思います。

罠にハマった理由は「想いの強さ」と「焦り」

上述のような知識・フレームワークを持ちながら、それに沿った実験設計ができなかった理由を、単純化すると「想いの強さ」と「焦り」の2点かなと思っています。第2話では「想いの強さ」に振り回されないための思考プロセスに関する学びを書きましたが、ここでは実験設計の観点での学びを整理します。上記の2点でいうと主に焦りに相当するかなと思います。

ここで言う「焦り」とは、「早くmeepaを成功させたい」「色んな方々の気持ちに応えたい」という感情(つまりは想いの強さ)が故に、「meepaに価値があることを証明したい」という態度で実験に臨んでしまう気持ちのことを指します。もう少し言い換えると、「心は熱く、頭はクールに」などと言いますが、科学的な実験活動をしていくために必要な批判的な思考を持てない状態のことです。

自分の性格と取り巻く環境を考慮していま振り返ってみると、当時は以下のような要因が焦りを生んでいたんだろうなと思います。

1. インタビュー相手からの強い共感コメントや色んな人からのお褒めの言葉を繰り返し浴びる内に、いつの間にか成功を盲信してしまっていたし、「成功させなければ」という義務感を感じ始めた

2. 「自分もいい歳だしそろそろ成功しなければ」というキャリア形成の観点での焦りが少なからずあった

3. 「成功するプロダクトは最初っから上手く行くものだ」という固定観念があった(そうでないのは知っていたはずなのに)

4. きちんと給料をもらいながら自分のビジョンにチャレンジさせてもらえているという、起業に比べて恵まれた今の環境への強い自覚と感謝が、逆に「早く独り立ちせねば」という恩返しの焦りを生んだ

5. イントレプレナー(社内起業家)を生かすも殺すも組織の論理次第だと過去の経験からよくわかっていたため、「早く止められないくらいの実績を上げなければ」と焦った

1番については、中々興味深い現象ですが、科学的・批判的に実施するべき実験の中から想いの強さが高まり、焦りが生まれた・批判性を失ったという構図です。これは誰にでも起こり得ることだと思います。
新しい実験を設計する際には、一度頭を批判的思考モードに切り替え直し、徹底して自分の仮説を「殺す」態度が必要なことを再確認できました。

2番・3番も割と誰にでも当てはまるものではないでしょうか。
過去は変えられないので囚われるだけ無駄な類の焦りだと思います。しっかり心を整えてから事に臨むのが大切ですね。また、整ったと思っても他人の活躍を聞いたりすると、ひょっこり顔を出すものでもあります。定期的に自分の心と向き合い、丁寧に心を整え直してあげることが、結局のところ最速でのプロダクトの成功につながるんだろうなと思います。

4番・5番は僕の置かれた環境(dotDという会社の中で新規事業をやらせてもらっている、いわばイントレプレナー的な状況)に近い人は、少し考えすぎるとハマってしまう心理状態なのかなと思います。これは所属する会社の経営者との関係性・信頼関係によるところかと思うので、定期的に会社経営における事業の位置づけを経営者と1on1などお互いに本音で話せる場で会話するのがよいかと思います。「しょっちゅう『私のこと好き?』って聞いてくる彼女みたいで面倒くさいと思われないかな?」と心配な場合は、このブログを引き合いに出して会話をセットしてもらえればと思います。w

こういった自分の心理状態をきちんとメタ認知しながら、焦らず・批判的に・小さく・急所から実験を実施していくのが、遠回りに見えて結局のところ近道だというのが、今回の最大の学びです。

今後の予定

第2話が思考編だったのに対して、今回は実験設計編でした。
起業/新規事業に必要なのは、テーマや方法論に関する知識だけでなく、自分のメンタルやバイアスをコントロールする力なんだなという認識を書くごとに高めています。
(書いた後に気づきましたが、この2話は根本原因が同じなので、連続して書くなどしてもう少し上手く伝える工夫をすればよかったなと、今更ながら反省しています)

次回はいよいよ最終話(の予定)です。次回もお楽しみに!

次回以降の予定
第5話:副業人材中心のチームで成功を目指す

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