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ほしいものを『ほしい』と言えない私の、ホームゲーム最終戦とサインボール

2024年3月17日、日曜日。

Vリーグ23ー24、レギュラーラウンド最終週、最終日。

パナソニックパンサーズのレギュラーラウンド最後の試合が、枚方のパナアリで行われた。


パナソニックパンサーズは、今年の6月にチーム名が変わることがすでに公表されている。

Vリーグそのものも、来シーズンから『SVリーグ』という新体制に移行するらしくて、今日の試合は、Vリーグの試合としても、パンサーズとしても、枚方でやる"最後のホームゲーム”だった(来週からのファイナルラウンドは全部東京)(行きます!!!)。


そういう背景もあって、最終週となる16日、17日の試合はイベントが目白押しだった。


チームが所有しているバスの展示。実際に中に入って、席に座ったり写真を撮ったりもできる。(座ってきた!!)(写真も撮った!!)

ファンクラブの一部会員限定で、コート内で写真を撮れる企画もあった。(もちろん参加した!!)

その写真撮影の時、以前会場で会ったことのある仲本選手推しの人にたまたま再会して、お久しぶりです!!ってご挨拶できたのも嬉しかった。(でも相手の方は私のことを今までもちょいちょい見かけてたらしい)(お互いにホームゲーム通い詰めるタイプ)


試合自体も、もちろん盛り上がった。それまでは控えのことが多かった選手たちがスタメンに起用されて、兒玉選手や中村選手のプレーしてるところずっと観たかったから私はとっても嬉しいです!!!!!(10月の紅白戦は行けなかった人)



ただ、


試合が終わるその時になるまで、すっかり忘れていたことが一つだけあった。



ホームゲームでは恒例の、選手によるサインボールの投げ込み。


それもこれで最後になるんだ、と、その時になってようやく気がついた。





会場に試合の応援に行くようになって、私が立てた目標の一つ。



それが、『サインボールを"ほしい”と言えるようになること』だった。



◆◆◆



私は、ほしいものを欲しがれない人間だ。



特に、こういう"他人が絡むもの”、


『人から与えてもらわなければ手に入れられないもの』、


そういうものは、どうしても、『ほしい!』『ちょうだい!』と、素直に欲しがることができない。



オタクをやっていると、この手の客席にものを投げ入れるタイプの演出って、どこの界隈でもそこそこ見る。

バレーファンになる前、V6のオタクをしていた時期があるのだけれど、V6のライブでも、サインボールの投げ込みってやっぱりあった。


もちろん、私は貰えたことはないし、『こっちに投げて!』みたいなアピールができたこともない。


投げられたボールが幸せな誰かのところに飛んでいくのを観ながら、どうしてこの世には、選ばれる人と選ばれない人がいるんだろうな、と思っていた。


『どうして私は選ばれないんだろうな』と、いつも思った。


◆◆◆


私は、三姉妹の長女だ。

子供の頃、両親が私たち姉妹に、新しいバスタオルを買ってきてくれたことがある。


ピンクのバスタオルと、緑のバスタオルと、青いバスタオル。


『この中から好きな色を選んでね』と、両親は私たちに言った。



私は、青いバスタオルが欲しかった。



だけど、妹も同じように青いバスタオルがいいと言って、結局、それは妹のものになった。



私の欲しかったものは、私のものにはならなかった。



◆◆◆


それが全ての原因だ、なんて決めつけるのも違うかもしれないけど、"お姉ちゃん”をやっていれば、そういうことは何度だって起こる。


結果として、私はこの通りの、『ほしいものが欲しいと言えない人間』に育った。


だって、どうせ与えては貰えないから。


私のほしいものは、私のものにはならないから。


最初からほしくないフリをしていれば、恥をかくことも傷つくこともない。



だけど私は、男子バレーのファンになった時に、これからはもう、そういう自分からは変わろうと決めていた。


スポーツ観戦っていう、今までの自分だったら興味を持たなかっただろうことを好きになったのは、きっと、何かの"きっかけ”なんだと思ったから。

全く新しい世界に飛び込んで、観たことのなかったものを見に行くのだから、自分自身のことも、これからは変えていこうと。


初めてホームゲームに行って、サインボールのことを知った時、私は『これはきっとチャンスなんだ』と思った。

きっと、私が今までの自分から変わるために、神様とか運命とかそういうものが、殻を破る機会をくれているんだって。




"今年のシーズンが終わるまでに、声を出してアピールできるようになろう”

"一回だけでもいいから、勇気を出して、『山内選手!』って呼んでみよう”



実際にボールがもらえるかどうかじゃなくて、

たとえ『もらえた!』っていうわかりやすい"ご褒美”がなくても、結果が伴わなくても、


それでも、他の誰でもない自分のために、勇気を出すことができたら。


今までにできなかった、できないと思っていたことが、一度だけでもできたなら。


私は、今までとは違う自分になれる。


もっと、自分で自分を"素敵だ”と思える自分に。


そう思った。










だけど怖かった。






何度ホームゲームに行っても、どうしても言えなかった。







"お前じゃないよ”



ほしいものを欲しいと言ったら、そう返される気がする。


それは、私のものじゃない。

私のために用意されているものじゃない。



私は選ばれない。

だから私は欲しがってはいけないし、『欲しい』と言ってもどうせ貰えないし、欲しがるような真似をすれば叱られる。


欲しがる資格もないのに、もらう権利もないのに、『私はそれが欲しいんです』なんて言うのは、とても恥ずかしくて醜くてみっともないことだ。

人から白い目で見られて、「何こいつ」と蔑まれて、『恥ずかしくないの?』と責められ、嫌そうに顔を顰められて背を向けられるようなことだ。


何かを欲しがっていいのは、 その資格がある人であって、じゃない。



『私は何も欲しがってはいけない』




それは、いわゆる"思い込み”や"潜在意識のブロック”とかいうもので、カウンセリングの場なんかだと"インナーチャイルド”とか呼んだりもする。

私たちが生きていく中で、無意識に自分の中に作り上げ、知らず知らずのうちに己の行動を縛って人生を生きづらくさせる、『不合理な信念』。

私の中にも、これを読んでいるあなたの中にもきっと無数にある、いくつもの"呪い”の一つだ。


私は、呪いから自由になりたかった。


ほしいものをちゃんと欲しがれる自分になりたかった。


そうじゃないと、これから先もずっと、何も手に入れられないままになると思ったから。


◆◆◆


――結論から言えば、私は目標を達成できなかった。


タオルは掲げられたけど。手を振ることはできたけど。


結局、声は出せないまま。周りの人がただ楽しそうに「山内選手ー!」って呼びかけるのを聞きながら。隣の席の人が、二つもサインボールをもらっているのを横目に見ながら。

山内選手が投げたボールが、全然違う方向に飛んでいくのを、ただ見ていた。



"結局、言えなかったな”



そう思う気持ちがなかったと言えば嘘になる。


また、いつもみたいに、頑張れなかった。

半年もあったのに、パンサーズのホームゲームはいつも欠かさず観に来ていた(一回だけ堺のホームゲーム行ったけど)のに、結局私は、何も変われなかったなって。


――でも、それで自分を責めるのはやめにしようと思った。


変わりたいと願ったのは本当だ。

こんな自分を変えられたら、もっと人生が生きやすくなると思ったし、それは間違いではないと思う。


でも、"変われなかったら幸せになれない”なんて思い込んでしまったら、それこそ『呪い』だ。


言える人。

できる人。

目立てる人。


頑張れる人。


そういう一部の人ばっかりが得をして、そうじゃない人間は何も得られないなんて、そんな世界は嫌だ。


ほしいものがほしいと言えなくたって、

目立つことがうまくできなくたって、

『自己主張することは強欲でみっともないことだ』って、植え付けられた思い込みから自由になれなくたって、


それでも、私は私のままで、ちゃんと幸せになれると信じたい。


勇気が出せない、頑張れない私のままでも、願ったものを手に入れられるって思っていたい。


それは、半年前に『こうなりたい』と思って掲げた、理想の形とは違ったけれど。


でも、確かに、この半年で私に起きた"変化”だった。


『頑張れなければ幸せになれないし願いは叶わない』っていう思い込みの"呪い”から、少しだけでも自由になれたんだから。


だから、今は多分、これでいい。


このまま声を出せずに終わってしまっても、きっと苦い思い出にはせずに済みそうだって、


そう思って、




でも、




『これでいいんだ』って、そうして肩の力を抜いて、ふと正面を見た時。


何気なく向けた視線の先に、大塚選手がいた。


最後の一つらしいサインボールを持って、どこに投げるか思案するみたいに、客席を見回していた。他の選手はあらかた投げ終わっていて、まだボールを持っているのはもう、大塚選手だけみたいだった。



それを見たら、




「大塚くん!」




今まで一度も口に出せなかった、『私にちょうだい!』が、初めて声になった。



”ここにいるよ”



”私もそれ、欲しいよ”



”私だって、ほしいものをほしいって言ってもいい!!”





そんなに大きな声は出せなかった。きっと聞こえはしなかったと思う。

大塚選手の投げたボールは、私の頭上を越えて、そのままどこかに飛んでいった。


◆◆◆


これでもう、パナアリで試合を見る機会は、当分なくなる。

次にここへ来るのは、4月のファン感謝祭だ。


その時にはもう、サインボールを投げ入れてもらうことはないかもしれないけれど。


でも、もしまた、そんな機会が巡ってきたら。


その時には、今日よりもう少しだけ声を張って、『私にちょうだい!』が言えるかな。


今度こそ、一番言いたい人に。



サポートありがとうございます!!幸せになります!!!!