【スイング速度を向上させる〇〇バットの科学的根拠】
〈カチカチバットって知ってますか?〉
みなさん、突然ですがこのようなバットをご存知でしょうか?
通称「カチカチバット」と呼ばれるものです。
2017年夏の甲子園でホームラン6本を打って一躍有名になった、広陵の中村奨成捕手(広島ドラフト1位)がこのカチカチバットであるカウンタースイング(アシックス)で素振りをしていたことで一気に知名度が上がったみたいです。
カチカチバットはバットの中央を筒状のものが上下に動く構造になっており、スイングすると筒が先端に移動し、「カチッ」と鳴ることからその通称で呼ばれています。
その中でも、中村選手が使っていたカウンタースイングは筒が2個あり、2個の筒が振り出した時に同時に「カチッ」となるスイングが良いとされているようです。逆に2つの筒が動くのがズレて2回音が鳴るスイングは悪いスイングだそうです。
実はこの「カチカチバット」、私も中学生の時に持っていました。
中村選手より先に取り入れていました笑
私が持っていたのは筒が1つのもので、当時は「インパクトの時に音がカチッと鳴るのが良いスイング」と言われていました。
音がタイミングよく鳴るように繰り返し素振りしていたことを覚えていますが、
「なぜインパクトの時に音がカチッと鳴るのが良いスイングなのか?」
「そもそもこのバットはどういう効果があるのか?」
など考えもせずにひたすら振っていました。
しかし、今ならこの「カチカチバットはどういう特徴があり、どういう目的のために使用し、どういう効果があるのか?」を科学的な知見から説明することができます。
実はこの「カチッ」と音を鳴らすタイミングよりも、このバットの形状自体が”ある効果”をもたらすことが分かっています。
今日は「カチカチバットの特徴とその効果」について科学的根拠を用いて説明したいと思います。
SNS
■Instagram:https://www.instagram.com/yabe.kazuki/
■Twitter:https://twitter.com/yabe_kazuki
〈スイング速度とバットの特性〉
これまでスイング速度の向上のために、体重・除脂肪体重を増加させたり、筋力やパワーを向上させたりと自分の身体を改善する重要性は解説してきました。
==========================
〈関連記事〉*オンラインサロン内のみで配信
【スイング速度向上のためのトレーニングプログラム】
以前開催したセミナーのアーカイブはこちら↓
==========================
それ以外にも道具であるバットの特性も重要な要素となります。
バットの特性にはバットの重さや慣性モーメントなどがあります。
慣性モーメントとは「物体の回転しにくさを表す量」と定義されています。慣性モーメントが大きいということは回転にくいということです。
つまり、バットの重さよりも『回転しやすいバットかどうか』がスイング速度に影響するということです。
先程の先行研究では、「慣性モーメントが小さいバットほどスイング速度が速い」ことが分かっています。
言い換えると「回転しやすいバットほどスイング速度が速い」ということです。
〈慣性モーメントを決める要因〉
ここで、バットの慣性モーメントはバットの重さ×回転半径によって計算されます。
重いバットと軽いバットでは重いバットの方が慣性モーメントが大きくなり、バットは回転しづらく(振りづらく)なります。軽いバットの場合は逆です。
ということは、同じ重さのバットを使った場合は”回転半径”によって決まるということです。
この回転半径が今回の肝です!
回転半径は「回転軸と重心の距離」のことです。
回転軸はバットを持つ手の位置になりますので、同じ位置でバットを握る場合は重心の位置が回転半径を決めることになります。
スイング速度を高めるためには、スイングを開始するときに回転半径(慣性モーメント)をできるだけ小さくして、振り始めに加速させやすいようにする必要があります。
フィギュアスケート選手がクルクルと超高速回転する瞬間を思い浮かべると良いかもしれません。
ここまでの話で、ピンと来た方もいるかもしれません。
そうです。「カチカチバット」はこの回転半径(慣性モーメント)をできるだけ小さくしたバットなのです。
〈動的慣性モーメントバット〉
先行研究によるとHungらが初めに「カチカチバット」を設計したようです。2)
カチカチバットは研究の世界では「動的慣性モーメントを特徴とするバット(DMOI バット)」と言われています。
DMOIバットはスイング初期は筒がグリップに近い部分にあるため、回転半径が小さい状態です。つまり、振り始めは慣性モーメントが小さく、バットを加速させやすいということです。
一方で、スイングをしてインパクト付近で筒が先端に移動し、「カチッ」となる頃には重心が通常のバットと同じになるため、インパクト付近の軌道や感覚は変えずにスイングをすることができます。
そして、重さは通常のバットと同じように設計されています。
つまり、バットを軽量化せずにスイング初期の慣性モーメントを減少させることが「DMOIバット」の特徴です。
このようにスイング動作自体を変えずに速く振ることを繰り返すことで神経系の機能が向上し、スイング速度が向上することが考えられます。
〈動的慣性モーメントバットの効果〉
2011年にこのDMOIバットでの素振りの効果を検証した研究があります。
このことから、DMOIバットを用いた素振りトレーニングは、打撃パフォーマンスに良い影響を与えることが示唆され、DMOIバットは野球における新しいトレーニングツールとして利用できる可能性があることがわかったとされています。
もう10年以上も前ですけどね。
ネクストバッターズサークルで、マスコットバットを振るよりカチカチバット(DMOIバット)を振っていた方が良いかもしれません。
〈カチカチバットの特徴と効果のまとめ〉
カチカチバットの特徴
通常のバットと同じ重さでありながら、スイング初期の慣性モーメントを減少させ、振りやすくなっていること
カチカチバットの効果(科学的知見)
カチカチバットでの素振りは、通常のバットでの素振りよりも8週間後のスイング速度や打球飛距離が向上する。また即時的にもマスコットバットでの素振りよりもスイング速度が向上する。
〈当時を振り返って…〉
ちなみに当時の私はこのカチカチバットを使うことに飽きて、なんと友達の”マスコットバット”と交換してしまいました。ちょうど先程の「カチカチバットでの素振りは通常の素振りよりスイング速度や飛距離が向上する」と報告された年くらいですね….
今考えると惜しいことをしたなと思います。今の私なら当時の私に「カチカチバットで素振りした方が良いよ」と自信を持って言えると思います。
このように科学的な根拠を知っていたり、物理学的視点を持つことで、パフォーマンス向上につながるのはもちろん、「なぜこの練習やトレーニングが必要で、どういう効果があるのか?」を自信を持って説明できたり、その練習やトレーニングを続けられる理由の一つになると思っています。
noteではそのような私が「選手の時に知っておきたかった」ことや治療家やトレーナーとして「選手に伝えるときに根拠となる知見」を学べることを今後も発信していきたいと思います。
矢部和樹(やべっち@野球トレーナー)
【活動】
・理学療法士(スポーツ整形外科勤務)
・中学硬式・高校野球部トレーナー
・公認野球指導者(U-15)
・バッティングに関する研究で修士号(保健学)を取得
これまで得た私の知識と経験をもとに皆様の野球のレベルをワンランク上げていきたいと思います!
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?