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いずも・かがの空母化に関する雑感:シーパワー国家日本の復活へ向けて

海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」「かが」が、F35搭載のための改装作業に入っているとの報道があった。

いろいろな意味で感慨深いので、雑感をまとめつつ、日本再興の道を考察してみたい。

拍子抜けするほど反発のなかった「空母化」

かわぐちかいじ氏のマンガ、「空母いぶき」というのがある。作中、日本の航空母艦建造について、左派から大きな反発があったと描かれていたと記憶している。

が、空母いぶきで描かれた世界からは拍子抜けするほどに、いずも・かがの「空母化」については反発が少なかった。(注:いずも型護衛艦は、ヘリコプター搭載型護衛艦として建造されており、もともと事実上のヘリ空母ではあった)

もちろん「空母は攻撃型兵器であり、憲法違反だ!」と訴える議員はいるが、マスコミこぞっての大バッシングには至っていない。

これは大変興味深い事実である。

左派が席巻していた戦後日本の空気感が、少しずつ変わってきているというのだろうか。

リアル世界でのいずも建造よりも前に発表された「空母いぶき」での描写は、作者の慧眼を表していると思うが、現実は少しずつリアリズムに目覚めつつあるようだ。

いずも・かがの空母改装の意義

とはいえ、いずもが空母に改装されたとしても、最大でF-35B 10機程度しか搭載できないため、実戦で役立つかと言われれば大いに疑問符がつく。

どちらかといえば、以下の二つの意義が大きいように思う。第一に、「戦後日本が初めて航空母艦を運用する」という事実。第二に、将来的に本格的な航空母艦を保有するための経験値を上げる練習艦となること。

そういう点においては、極めて大きな意味がある。

ただ、実際に日本が本格的な空母を運用するべきかどうかについては、個人的には、(あくまで現時点で)懐疑的な立場である。

空母は巨大な金食い虫であるという事実・・・

空母の運用費用は、一日あたり数億円、年間9000億円近くかかるという試算がある。

実戦になったら数日で弾薬が尽きるという現状の自衛隊の金欠状態を考えて、それほどの予算を空母維持のためにぶっこめるだろうか?また、30年間ほぼ経済成長していない日本において、空母の運用がさらなる財政圧迫の要因にならないだろうか。

空母はどちらかといえばプレゼンスを示すための、示威的な存在感にこそ意義がある。国力衰退の著しい現在の日本に、そこまでの余力があるとは到底思えない。

経済力に見合わない軍事力は国を亡ぼす。示威のためだけだと考えれば、空母保有より核のほうがよほどコスパが良いのは、某近隣諸国が示す通りである。

ただしこれは、未来永劫、日本が空母を保有するべきではないという意味ではない。むしろ、本格的な空母艦隊を運用できる程度にまで、まず日本経済を成長させるということが重要であると言いたい。

経済の成長なしに、真の日本の復活はありえない。

”シーパワー国家”日本の復活

時世がら、「地政学」という言葉がやや流行気味である。

シーパワー(=海洋国家)か、ランドパワー(=大陸国家)かと言えば、日本がシーパワー勢力であることに意義を挟む人はまずいないだろう。しかし、日本に「シーパワー国家である」というという自覚がどれほどあるかと言われれば、ほとんどないのが現実だと思う。

目下のところ、世界は米中新冷戦を中心として、民主主義陣営VS権威主義陣営の抗争が、あらゆる階層で起こっている。民主主義陣営は、主にランドパワーであるEUと、シーパワーであるアメリカ・イギリス・日本・オーストラリア等によって構成されている。

民主主義陣営が生き残るために、ランドパワー国家にはランドパワー国家の、シーパワー国家にはシーパワー国家の果たすべき役割があると思う。

そして、イギリスのEU離脱が持つ地政学的な意義は、まさにランドパワーからシーパワーへの回帰であり、19世紀の世界覇権国イギリスと20世紀の世界覇権国アメリカが共にシーパワー勢力であるという意義は大きい。日本は、世界の流れを見誤らず、そこについていくべきだと思っている。

日本が目指すべきは、民主主義陣営のアジアのリーダーにして、シーパワー国家のアジアの盟主という立場である。TPPや日米豪印QUADはそのための”仕掛け”であると思うし、TPPへのイギリスの参加はまさにそういう流れを踏まえてのものだろう。

日本はアメリカのポチと言われて久しいが、アメリカの力は今後弱まっていく。いずれ、アジア太平洋地域から手を引くかも知れない。そのときへの準備を、一歩ずつ行っていくことが、今の日本に求められることである。ポチの地位を利用して、着々と力を蓄えていくのだ。

いずも・かがの空母化は、そんな100年マラソンを見据えた上での一里塚だと思いたい。

アメリカの第七艦隊の能力を補完しつつ、今世紀末にはアジア地域からの撤退もありえる国力衰退トレンドのアメリカを見据え、最終的には第七艦隊に変わる新たな日本の”連合艦隊”を作っていくということが、日本の長期戦略に必要だと思う。

そのためには、まずは地に足のついた経済成長からだ。日米金利差で低金利を維持する日銀をバッシングしている場合ではない(海外ほどインフレが起きていないから金利を上げられない)。むしろ批判するべきは、あらゆる面で財政出動に反対を続ける財務省であり、有効な経済政策を打ち出せないでいる政府ではなかろうか。

原潜保有と参院選

国民民主党の玉木代表が、参院選に向けて日本の原子力潜水艦の保有に言及している。何事にも玉虫色でイマイチ何を考えているのかよく分からない玉木さんだが、立憲民主党と決別してからの言動にはまれに目をみはるものがあるので、評価すべきは評価しておきたい。

現在の日本の国力を考えて、空母艦隊の創設よりは、原潜を数隻保有する方がはるかに現実的だろう。

もちろん、現行の日本のディーゼル型潜水艦は極めて優秀であり、原潜は静音性で現行の潜水艦に叶わないのは百も承知である。

しかし、原潜は半永久的に潜水していることができるということが最大の利点である。核を搭載するかどうかについての議論は、現実的にはかなりハードルが高いだろうが、仮に通常兵器のみの搭載であった、どこから反撃がくるか分からないというのは、日本を攻撃しようという意図を持つものにとっては相当な脅威である。

21世紀末にアジアのシーパワー大国として生き残っている」という長期戦略を立てるとするならば、原潜保有は無視すべき案ではないように思う。こういう比較的現実的な案を提案する野党は歓迎したい。

そういえば、日本の原潜保有というテーマに先鞭をつけたのも、かわぐちかいじ氏の「沈黙の艦隊」であった・・・

(画像は写真ACから引用しています)

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