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今さら聞けない「覇権戦争」①:覇権(はけん)って何ですか?

現在、世界は米中覇権戦争の真っただ中と言われる。しかし、平和を愛する日本人にとってみれば、「覇権?何それ??日本に関係あるの???」という感じではないだろうか。だが、大ありである。

これを認識しているのとしていないのとで、世界のニュースの読み方が全然変わる。

そこで、今さら聞けない覇権戦争と題して、あまり世界のニュースに関心のない方たちにもなるべく興味を持ってもらえるように分かりやすくまとめてみたいと思う。

・・・と、大上段に振りかぶってみたはいいものの、当方、単なる素人の政治経済ウォッチャーです、すいませんw

覇権というのは「オレ流のやり方でやれ!」という権利

覇権というのはざっくりと言うと、「オレ流のやり方でやれ!」と言える権利だと思う。

19世紀の世界覇権国はイギリス20世紀から現代に至る世界覇権国はアメリカだった。そのせいで、世界の多くの事象は米・英ルールで動いている。

一般的に世界共通語とされるのは英語だし、世界の基軸通貨とされるのはドルだ。東京オリンピック2020が涼しい秋ではなく、酷暑の夏に開催されたのも、米国メジャースポーツが秋にあるからということなので、結局アメリカの経済覇権の影響とも言える。

もしも世界覇権が中国に移行したとしたら、我々も中国語を話さないといけなくなるし、ドルではなく元で取引をしないといけなくなる。国際的イベントも中国のカレンダーに合わせて開催しないといけなくなるだろう。日本人が覇権戦争の行方に無関係でいられるわけがない。

米英は様々な問題もありつつも、一応、自由と民主主義を標榜する国である。それと同様の価値観を有する日本では、菅首相の悪口を言っても誰も捕まったりしない。だが、中国が覇権国となり、世界のルールメーカーとなった場合、日本も大きく変わらざるを得ないだろう。総理大臣の悪口も言えなくなる時代が来るかもしれない。

覇権戦争の行方は、我々の未来に直結をする。

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日本の例でみる覇権戦争

日本は覇権戦争に全く関係ないどころか、実は過去に二度もアメリカの覇権に挑んだ歴史を持つ(と私は解釈している)。

一度目はもちろん、大東亜戦争(太平洋戦争)である。日本がこの戦争に突入していったのには様々な理由があると思うが、もとを辿ればアメリカのアジア利権を拒否したということが大きな要因の一つである。

大東亜共栄圏とは、まさに英米が確立した世界秩序の中で、アジアの地域覇権を取ろうという行為(=英米ルールではなく、日本ルールでやりたい)であったのではないかと思う。この結末は我々日本人の誰もが知る通りだ。

そして二度目は、バブル期の日本経済である。今から考えれば想像がつかないが、戦後高度経済成長を遂げた日本は、GDP世界二位となり、GDP世界一位のアメリカの約70%にまで迫った時期があった。成長速度からみて、日本のGDPがアメリカを抜くのは時間の問題だと、思われていた時期があったそうである。

ただ、この日本のアメリカの経済覇権に対する挑戦は、日本人が意図して行ったとはとても思えず、日本人の勤勉さによってもたらされた「たまたまの覇権への挑戦」だった。それでも、アメリカはかなり恐怖したようで、その恐怖心が1985年のプラザ合意をもたらした(アメリカの貿易赤字解消のためのドル高=円安是正)。日本にとって不利と言われる協定であったプラザ合意こそ、日本経済低迷の起点ではないかという説がある。日本の経済覇権は成り立たないどころか、その後ずっと低迷している。


覇権を生み出す仕組み:軍事力と基軸通貨と科学技術

「覇権」はどのようにして生み出されるのだろうか?それは軍事力と、基軸通貨(=経済力)と、科学技術によって生み出されると思う。

①軍事力

これは理解しやすい事柄だと思う。武器を突き付けて、「お前らオレの言う通りにしろ」というのである。古来より近世に至るまで、世界の覇権は軍事力によって現状変更されてきた。

現代においては、軍事力で相手国を征服するということはあまりないが、アメリカが世界中に軍隊を展開しているのは覇権の維持に直結する行為である。

少なくともオバマ大統領以前の時代までは、アメリカは世界の警察を自称していた。これこそ、「米軍が世界に秩序をもたらしている」という考えの現れでもある。

②基軸通貨(≒経済力)

「覇権」を生み出す第2の要因は、「基軸通貨」を取るということである。基軸通貨というのは、多くの日本人になじみのない言葉ではないかと思うが、実はこれこそ、アメリカが①の方法を補う形で世界覇権を持ち続ける力になっている大きな要因である。

基軸通貨とは何だろうか?

かつて世界の基軸通貨は「金(ゴールド)」であった。金(ゴールド)の価値は世界共通で、どこへ行っても使えるものだった。

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翻って現在の世界の基軸通貨は「米ドル」である。日本国内にいる限りにおいて、あまりそれを意識することはないが、国際的な取引の多くは「米ドル」で行われている。映画でどの国の犯罪組織も「米ドル」を欲しがるのは、それが現代の金(=ゴールド)に匹敵するものだからだ。

このように、基軸通貨とは、世界中で流通し、使用することができる通貨のことである。

米ドルを基軸通貨にしたことこそが、潜在的なアメリカの力の源泉である。

これは、1944年のブレトンウッズ協定によってもたらされた。戦後復興を支えるためという名目で、金(ゴールド)1オンス=35米ドルと設定したのだ。ここで、米ドルが金(ゴールド)に代わる基軸通貨となることが決定されたのだ。1944年という戦中にこの取り決めがなされていたことを、日本人は認識しておくべきである。日本人が戦っている間に、戦後ルールはちゃっかり決められていた。アメリカはしたたかで抜け目がない。

この体制は1972年のいわゆるニクソン・ショックまで続くわけだが、現在に至る米ドルの基軸通貨としての役割の土台を担っていることに間違いはないだろう。

だから、世界中の大金持ちの誰もが、米ドルでの取引を禁止されると困るのだ(我々庶民には関係ないがw)

なお、2021年8月15日の産経新聞にニクソンショック50年を記念した解説記事が載っていたので、補足として引用しておく。

ニクソン氏の発表により、金1オンス=35ドルの交換を保証し、ドルと各国通貨の交換レートを固定した国際通貨システム(ブレトンウッズ体制)は崩壊した。(中略) 金との交換という足かせが外れたことで各国の金融政策は自由度を増し、景気刺激のための通貨の供給量は膨張。世界銀行によると、ニクソンショック当時は国内総生産(GDP)比で6割程度であったが、今は1.3倍まで拡大している。(中略) 一方、マネーが投機の対象となったことで急激な流出・流入による混乱が続き、アジア各国の通貨が暴落した97年のアジア通貨危機や、米証券大手の破綻に端を発した2008年のリーマンショックにつながった。

「世界覇権」という観点を持つと、こういうニュースも興味深く読める。なお、同記事でも「基軸通貨が力の源泉」であるとし、現在はデジタル人民元による米覇権への挑戦が行われていると記載されている。日本にもこの荒波を乗り越えるための知見と覚悟を期待したい。

③科学技術

上記二つの要因に比べると潜在的ではあるが、おそらく最も根源的な国家の力の源泉となるのが、科学技術である。

19世紀にイギリスが世界覇権国となったきっかけは、イギリスにおいて産業革命(蒸気機関の発明)がいち早く起こったからである。(4ストローク・ガソリン・エンジンの発明はイギリスの世界覇権に挑戦したドイツにおいて成されたという点も興味深い)。そして20世紀以降、基幹産業を生み出す科学技術の多くの発明はアメリカにおいて成されることとなる。

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19世紀末~20世紀初頭にはモールス、ベル、エジソン、ライト兄弟ら多くの発明家が活躍し、原爆やトランジスタも戦中戦後にアメリカで開発され、インターネットもアメリカにおいて生み出された。そして、こういった科学・技術こそが、軍事面でも経済面でも国家に反映をもたらす大きな要因となるのだ。

恐らくアメリカはこの価値を誰よりも認識していて、ずっと莫大な科学研究予算を投入している。科学技術へ使われた金は、国の赤字ではない。将来の国の繁栄をもたらすための礎なのだ。

残念ながら、日本人はこれを理解していないようで、日本の基礎科学研究予算は年々減少の一途をたどっている。政府・財務省は、科学技術に使われる金を投資ではなく無駄遣いと考えているようだ。これは、自ら先細りの運命を選択しているということに他ならない。

そういう意味でも、日本は覇権というものの考え方をよく理解しておく必要があると思う。

ヴァレンタイン大統領は知っている

ジョジョの奇妙な冒険の「スティール・ボール・ラン」というシリーズに、ファニー・ヴァレンタイン大統領という登場人物がいる。架空のアメリカ大統領で、愛国者だが悪役という難しい役柄になっている。

そのヴァレンタイン大統領は、「テーブルに並んだナプキンの、右を取るか、左を取るか」というルールは誰が決めているのかという問いかけを行う。

その答えは、「最初に取った者に従う」ということである。

お金の価値を最初に決めている者がいるはずだ
それは誰だ?
列車のレールのサイズや電気の規格は?
そして法令や法律は?
一体誰が最初に決めている?
民主主義だからみんなで決めてるか?
それとも自由競争か?
違うッ!!
ナプキンを取れる者が決めている!
この世のルールとは「右か左か」?
このテーブルのように均衡している状態で一度動いたら全員が従わざるを得ない!
いつの時代だろうと………この世はこのナプキンのように動いているのだ

これこそ、「覇権」の持つ意味を如実に表している言葉ではないだろうかと思う。


次の記事では、世界の力のバランスを考える上でもっとも根源的な要因となる「技術覇権」についてもう少し掘り下げて考えてみようと思う。

(本記事の写真は写真ACから試用しています)

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