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フリーランス新法成立 ~発注者に求められる対応とは?~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 山本雄一郎(第一東京弁護士会所属)
弁護士 岸知咲(第二東京弁護士会所属)
弁護士 志村翼(第一東京弁護士会所属)

  会社や団体などに所属せず、請け負った業務を遂行する、いわゆるフリーランス。働き方が多様化する今、フリーランスという働き方が注目されています。

 しかし、政府が実施した調査[1]によれば、フリーランサーと取引先との間でトラブルが多発しておりました。この問題は、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」においても、取り上げられました。具体的には、2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」[2]において、フリーランサーは下請代金支払遅延等防止法といった旧来の中小企業法制では対象とならない方が多いことが指摘されました。その上で、「相談体制の充実を図るとともに、取引適正化のための法制度について検討し、国会に提出する」こととされました。

 それ以前も、フリーランスを保護する法整備が求められていましたが[3]、今般、内閣官房を中心に、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、厚生労働省で検討を行い、閣議決定のうえ、法案が国会に提出され、2023年4月28日、ついに、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」といいます。)が成立しました[4]。

 今回は、このフリーランス新法に焦点をあて、フリーランサーに業務を委託する事業者が留意すべき点について解説します。

 なお、この記事は2023年5月12日時点で執筆されたものであり、同時点の状況を反映しています。今後の状況を踏まえた解説については、フリーランス新法施行時に別途公開する記事等をご確認いただけますと幸いです。

1. フリーランス新法の目的とは?

 フリーランス新法を制定した目的は、次の2点にあります。

①フリーランスの取引適正化
②フリーランスの就業環境の整備

 ①に関して、上述した実態調査によれば、フリーランサーとその取引先との間で発生したトラブルの具体例としては、発注時点で報酬や業務の内容などが明示されておらず定額で何度もやり直しなどをさせられることや、報酬の支払いが遅れたこと等が挙げられていました。このようなトラブルは、フリーランスの取引先が発注者という優位な立場を利用し、受注者に不当な条件を受け入れさせているという両者の力関係に起因すると考えられています。そこで、優越的地位の濫用に該当するような取引を規制したうえで、フリーランスの取引を適正化する必要がありました。

 また、②に関して、発注者とフリーランサーのような受注者との間には、原則として雇用関係はないことから、労働基準法が適用されず、その結果フリーランサーの就業環境も整っていませんでした。そのため、法律によるフリーランサーの就業環境の整備についても対応が求められていました。

 これらの点に着目し、優越的地位の濫用に該当するような取引を規制し、取引適正化を図り、就業環境を整備するため、フリーランス新法は成立しました。

 フリーランス新法の成立に伴い、今までフリーランサーに発注する際に求められていなかった事項について別途対応を取る必要が出てくる場合があります。そのため、フリーランサーに発注する法人や個人は、今までの運用や取引条件について見直す必要が出てくるかもしれません。具体的なところは、次の2.以下で見てゆきましょう。

2. フリーランス新法の内容とは?

(1) 適用場面

 フリーランス新法は、「特定受託事業者」に業務を委託[5]する場面で適用されます。新法では、フリーランスやフリーランサーという単語は使用されていませんが、この「特定受託事業者」が、嚙み砕いて言えば、フリーランサーに相当します。

 より厳密には、「特定受託事業者」は、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの、である必要があります。

 言い換えれば、雇人もいない自営業主等であって、自身の経験や知識、スキルを利用して収入を得る者をいい、例えば、エンジニア・プログラマー、ライター、コンテンツクリエーター、コンサルタント等が該当します。

(2) 義務の内容

 次に、フリーランス新法では、業務を委託する事業者の義務について規定しています。業務を委託する事業者は、上述の2つの目的を踏まえ、主に、以下の事項を遵守する必要があります。

 なお、列挙した義務のうち、書面等による明示義務は、業務を委託する事業者(発注者)すべてが遵守すべき義務です。これ以外の義務については、業務を委託する事業者のうち従業員等を使用している特定の委託事業者のみが遵守すべき義務です。前者については、次の3.で詳細を解説します。

取引適正化

  • 給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法(書面等)により明示する(3条)。

  • 給付の受領後60日以内に報酬支払期日を設定し、報酬を支払う(4条)。

  • 政令で定める期間以上の業務委託に関し、通常相場に比べ著しく低い報酬額を不当に定める等の特定の行為をしてはならず、また、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる等の特定の行為によって委託先の利益を害することをしてはならない(5条)。

就業環境の整備

  • 広告等の募集情報に虚偽の表示等をせず、正確かつ最新の内容を表示する(12条)。

  • 妊娠、出産、育児、介護に対する必要な配慮をする(13条[6])。

  • ハラスメント行為に係る相談対応等に必要な体制を設ける(14条)。

  • 継続的業務委託を中途解除する場合には、原則として中途解除日等の30日前までに相手方に予告する(16条)。

(3) 違反に対するペナルティ

 フリーランス新法では、定められた義務を遵守せず、違反行為を行った場合の措置等についても定められています。

 具体的には、公正取引委員会等が、委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、必要な措置をとるべきことの勧告、勧告に係る措置をとるべきことの命令及び命令をした旨の公表をすることができます。また、命令に従わないなどの場合には、当該違反行為をした者及びその者を使用する法人若しくは個人に対し50万円以下の罰金が科されます。

3. 発注者すべてに課される義務-書面等による明示義務-

 発注者が業務委託をした場合、原則として、①給付の内容、②報酬の額、③支払期日、④公正取引員会規則で定めるその他の事項を直ちに書面又は電磁的方法により、明示する必要があります。

 当該4つの事項のうち、内容が定められていないことについて正当な理由がある場合には、明示を必要としませんが、後に内容を定めることができた場合、直ちに書面等により明示する必要があります。

 また、当該4つの事項を電磁的方法により明示した場合、受託者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付する必要があります。

4. フリーランス新法の影響とは?

 取引条件を明記した書面等の交付は下請代金支払遅延等防止法上で義務付けられているものの、資本金1,000万円以下の企業からの発注など同法の適用対象とならない取引について、フリーランス新法では、これまで求められていなかった給付の内容等を書面等により明示することが義務化されました。発注者は、フリーランス新法が施行されるまでに、同法が規定する要件を充たす内容の契約書フォーマットを作成するなど、具体的な対応が求められます。

 新法の具体的な施行時期は確定していませんが、公布の日から1年6か月を超えない範囲内において施行するとされています。まだ、少し余裕がありそうですが、取引条件の見直しが必要になる場合などは、一朝一夕には対応が難しいかもしれません。

 フリーランス新法への対応に不安がある場合は、早い段階で、一度、弁護士に相談の上、対応を検討されることをお勧めします。

以上


[注釈]

[1] 内閣官房 日本経済再生総合事務局 「フリーランス実態調査結果」(2021年5月)

[2] 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(2022年6月7日)

[3] 「成長戦略実行計画」(2020年7月17日)において、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者とフリーランサーとの取引について、独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これらの法令に基づく問題行為を明確化するため、実効性があり、一覧性のあるガイドラインを策定することとされました。

これを受け、2021年3月26日に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。

また、同実行計画において、立法的対応の検討としては、資本金1,000万円以下の企業からの発注などフリーランスの保護を図る上で必要な課題について、下請代金支払遅延等防止法の改正を含め立法的対応の検討を行うとされていました。

[4] フリーランス保護法が成立、報酬減額など不当な取引是正 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

[5] 業務の委託は、製造委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託に限定されます。

[6] 継続的業務委託以外の場合は努力義務とされています。

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