見出し画像

「自分に慣れる」ということ

自分を客観的に見てしまう癖がある。
何をきっかけに客観的に自分を見るようになったかは分からない。

記憶を遡れば、小学校高学年の時にはその違和感に気づいていた。友達が楽しげに過ごしている中で、どこか客観的で馴染めない自分に。
幼少期に親の顔色を伺って生きていたせいみたいな話だと思うが、それが分かったところで、何かが解決するわけでもない。一度を踏み入れてしまった「客観的な自分」と共に生きる生活から抜け出すことはできない。
爪を折ってしまったVHSのようにもう後戻りはできない。なんでこの例えが浮かんだのか自分でも気になるが置いていく。



客観的な自分との共同生活は、プラスの面で働くこともあるし、自意識過剰という言葉で片付けられるときもある。

プラスの面で言えば、客観的な自分がいつも自分を律して、人生をそれなりの方向に導いてくれている気がする。
それなりの成績で中高は過ごしたし、部活もそこそこの成績を残した。大学にも推薦で入ったし、バイトでも褒められることの方が多かった。会社も希望のところに入れたし、社内で表彰されたことだってある。周りから褒められることがあったって、自分のことを優秀とは思ってもいない。「優秀な自分」であるように客観的な自分が指示をくれていただけであって、自分がすごいとも思ったことは一度もない。

もちろんプラスなことだけではなく、マイナスな面もある。
特に自分を客観視する”自分”は過度な抑制もしてきた。
おしゃれ代名詞のスタバに行く自分を許してはくれなかった。
SNSで気軽に思ったことを呟く自分を許してはくれなかった。
大学で少しでもハメ外して遊ぶ自分を許してはくれなかった。

客観的な自分は調子乗っていると周りから思われるような言動を止めてくる。周りとは違って頑張ってるんだと自分を正当化するために抑制をしてくる。
そんな自分ことを見てる人なんていないし、そんなことぐらいで浮ついていると思う人がいないことも知っているが、それでも自意識過剰に自分を守る客観的な自分がいる。

僕は、過保護な客観的な自分と、一緒に過ごしていた。


先日、服を買いに行った。片付けついでに勢い余って捨てすぎた。
新しいお店に行く勇気はないからいつも同じお店に行く。
そこで、普段は着ないようなちょっとおしゃれな服が売っていた。

いつもなら何も思わないのに、とても惹かれた。きっと前日に見たテレビで、憧れの人が似ていたものを着ていたせいだと思う。

客観的な自分はいつものようにやってくる。そんなおしゃれなものを着ている自分を許してはくれない。


脳内で客観的な自分に丸め込まれそうになっていたるところで、店員に話しかけられた。「良かったら試着してみませんか」と定型分の誘い文句で。
「憧れるんですけど、こういうの着たことがなく・・・」と正直に話してみる。ついでに店員さんと話せるようになったのもちょっと前から。ふと、相手もプロなんだから相談して良いんだと割り切れた。

「とりあえず着てみましょうか」と言われ、店員さんの圧がすごかったので、言われるがまま試着をした。着てみると案の定、違和感がすごい。客観的な自分が描く自分とはあまりにもかけ離れていて、試着室でひとりで苦笑いするしかなかった。

「どうですかー」と試着室の外から店員さんに呼ばれ、試着室から出て「やっぱり違和感がすごいですねー」と自分を卑下しながら言うと、店員さんが若さあふれる口調でながらも、当たり前のような言った。

「あーそれは見慣れていないからっすね。2〜3回着れば慣れますよ。」


この言葉が瞬時に何度も何度も、頭の中を反芻していった。

僕はずっと、客観的な自分がいなくて、何も思わずに色々とできる人が羨ましかった。自分もそうなりたくて、客観的な自分を無理に追い出そうとしたけども、うまくはいかなくなった。無駄に精神をすり減らしただけだった。

でも無理矢理に、何でも受け入れられる人にならなくても、自分というものを少しずつ広げて、自分に見慣れていくことで、
客観的な自分も少しずつ認めてくれるのかもしれないと思った。ずっと一緒に過ごしてきた客観的な自分を変える可能性に気づけた。


僕は、そのままちょっとおしゃれな服を買った。そしてその服を着て街を歩いた。窓ガラスに映る自分に違和感は感じるし、「ほらね。変だよ。」と頭の中で言ってくる客観的な自分もいたけども、それ以上にその服で街を歩いている自分に喜びを感じた。
きっと何回か着て街を歩いたら、客観的な自分も見慣れて何も言わなくなる。そして来年には、また可能性を広げられるかもしれない。


客観的な自分との共同生活の中は、生きにくいことは多々ある。
だけども、何でも最初からできるのではなくても、できることが増えていく日々だって、愛おしいと思えた。

これからまた、少しずつ新しい自分に見慣れていこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?