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分断の時代,繋がりの時代へ

ー分断の時代に在って,私たちにできること,しなくてはならないことー
31 December, 2019-1 January, 2020

 今年の11月9日で,ベルリンの壁崩壊から30年が経過したー.
 1989年11月9日,東西イデオロギー対立の象徴であったベルリンの壁が
崩壊し,翌1990年にドイツは再統一された.
まさに自由民主主義の勝利であった.
だが,この華々しい勝利から30年,世界は未だに“分裂”しており,
人類社会はいま,新たな「分断の時代」の中にある.


 ベルリンの壁は,自由民主主義と社会主義という,東西二つのイデオロギー対立を象徴する「壁」であった.ウィンストン・チャーチルはWW2後,欧州が東西に分断されていたことを「鉄のカーテン」と表現した.これは,目には見えなかったが,確かに存在していた「壁」であった.だが,この二つの壁は何れも,1989年の東欧革命で崩壊することになる.さらに,その2年後には社会主義圏の盟主,ソビエト連邦が崩壊した.東西冷戦は自由民主主義の勝利に終わり,世界は「自由,民主主義,平等,法治主義,人権」という普遍的価値の下で統合されるかと思われた.

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 ソ連崩壊と同時期には,先進国で商用インターネットサービスが始まった.世界中の人々は,インターネットを通じて“繋がる”ことができるようになった.人々はインターネットを通じて,「アイデア,文化,価値観,思想,感情」を瞬時に共有できるようになった.
 他者への理解は寛容性を生み,多様性の価値観を形成し,多文化共生社会を構築するための礎石が置かれた.「自由民主主義」「世界を繋げるテクノロジー」が,21世紀という新たな時代を照らすための「炬火」だった.
――だが,そう上手くはいかなかった.

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 いまや世界的にポピュリズム,ナショナリズムが台頭し,
イデオロギー対立によって社会の分断や乖離が進んでいる.

 直近の出来事だけでも,懸念すべき点は至るところで散見される.米中貿易摩擦は,世界的な不確実性を高め,相互不信を誘発させた.トランプ米政権のユニラテラリズムは,同盟国の結束を弱体化させ,全体主義国家の躍進を看過した.ブレグジットは英国社会を分断し,3年以上にわたり政治を混迷の渦に追いやった.ドイツでは,移民や難民受け入れに反対する極右勢力が台頭しつつある.フランスでは,ジレ・ジョーヌ運動の発生から1年をむかえるが,問題は未だに収束していない.スペインでは,カタルーニャ自治州の独立をめぐる騒動が分断を招いた.中東では,シリア内戦とクルド人武装勢力,IS,レバノンの大規模デモ,イスラエルとパレスチナの問題,そして核合意に端を発するイランと米国の対立など,様々な懸念すべき問題が噴出している.南米では,ベネズエラが経済危機に陥り,キューバでは石油危機が起こり,チリでは反政府デモが史上最大規模にまで拡大した.そして,中国は自国社会の監視統制を強化し,ナショナリズムの高揚を煽り,ディストピアの様相を呈している.今年後半には,国際的に非難されている新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧政策に関する文書がリークされた.
―そして,中国における民主主義の最後の砦,香港では今もなお,民主化を求める人々が戦いを続けている―.

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 また,テクノロジーの進歩は私たちの生活を豊かにしたが,一方でそうしたモノ・サービスによる莫大な利益を享受しているのは,一握りの富裕層が大半を占めている――そうした人々は概して,社会の僅か1%を占めるだけに過ぎない.米国社会では現在,米国民の上位1%の超富裕層の富が,中流層の合計資産を上回ろうとしている.富の再分配は適切に行われず,経済格差は拡大を続けている.テクノロジーの進歩は格差を助長し,中間層は衰退しつつある.
 そうした結果,高所得層と低所得層の間には乖離が生じ,異なったイデオロギーや価値観を形成しているのである.そして,進歩したテクノロジーは「新たな問題」を引き起こした.世界を“繋げる”はずのインターネットは,国家により統制され,検閲される.あるいはSNSの普及は,人々の「感情」を容易に顕在化させ,共感の場となった一方,フェイクニュースの拡散などといった深刻な弊害を生み出した.フェイクニュースやディープフェイクといった,新たなテクノロジーが生み出した問題は,人々の対立を助長し,社会の分断に貢献している.
 低所得層の人々は,社会への不満をナショナリズムという歪んだイデオロギーの熱狂に任せて,社会を「支配」しているリベラルなエスタブリッシュメントに対する敵意を剥き出しにする.富裕層の人々は,低所得層の現状に目もくれず,環境問題や技術進歩による社会の前進にばかり関心を示し,そして巨額のリターンを求めてとどまることを知らない.

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 社会は分断され,乖離し,そして人々は盲目的になっている.民主主義はその効力を失いつつあり,資本主義の過剰な競争思考は経済格差を助長する.人々は取り残され,あるいは独り歩きしていく――.議会は社会の分断を反映し,不毛な口論を続けて,真に求められている政策を打ち出せずにいる.政府は金権政治のぬるま湯に浸かっているか,人々の不満を明後日の方向に捉えているか,あるいはポピュリズムの潮流を狡猾に利用し,誤った孤独と衰退の道へと進んでいる.


 人類の行く先は厚い雲に覆われ,
どこまでも闇ばかりが横たわっているように見える.
――だが,未来を決めるのは常に「いま」を生きる人々である.
私たちの手には,眼前の闇を照らす「炬火」が握られている.
炬火を高く掲げるか,あるいは灯火を消し去るかは,
私たちの行動次第なのだ.
-私たちには何ができるのだろうか-

 11月9日の記念式典にて,
アンゲラ・メルケル独首相は以下のように警告している.
「自由,民主主義,平等,法治主義,人権といった欧州の基礎となっている価値は自明のものではない.時を経て何度も改めて命を吹き込み,守らなければならないものだ.私たちはどんな言い訳もせず,自由と民主主義のために責任を果たす必要がある」[1]

これは何も政治家だけのものでも,欧州の人々だけのものでもない.
民主主義国家に属し,自由民主主義の価値を信じる
全ての人々に課せられた義務である.

先人たちが築いた遺産の上で寝ているわけにはいかない.
私たちがいま,謳歌できている自由とは,
先人たちが遺した財産である.
私たちは,先人が築いた遺産を継承し,
それを後世の人々のために,
より良いものへと洗練させる義務がある.
子供や孫たちへと,私たちが愛する価値と,
それがもたらす幸福を継承しなければならないのだ.

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私たちはいま,この「分断の時代」にあって,
どのように人々や社会の繋がりを取り戻し,
繋ぎ止めることができるのか.
「いま」を生きる私たちは,真摯に考えなければならないだろう.
そうしなければ,私たちの未来は闇に呑み込まれるだけだ.

2019年も残り僅かとなり,新たな2020年代の到来を待っている.
次の10年の間に,私たちは自分と子供たち,孫たちの世代のために
何ができるだろうか.

[1]BBC News Japan,https://www.bbc.com/japanese/50370805 (ベルリンの壁崩壊から30年 独首相、民主主義の擁護訴える,11月11日)より引用


今日よりも素晴らしい明日のために――. まず世界を知り,そして考えること. 貴方が生きるこの世界について,一緒に考えてみませんか?