AppStoreの価格帯(tier)とは その4
さてこのテーマも4回目ですが、前回の続きです。
今回は、tierが存在する理由と、それがあることによるメリット・デメリットを考えたいと思います。
Appleがtierを決める理由
これまでtierという価格帯があることを説明してきました。
ところで、なぜAppleはこういったtierを定めているのでしょうか?
その2で挙げた規約関係を見ても、その理由について記載している箇所が見当たりません。(もしかするとどこかにあるのかもしれないですが、見つけられませんでした)
ここ最近のtier変更時の通知文を見てみます。
関係箇所を抜き出すと下図のところになります。
チリ、エジプト、日本等のApp内課金の価格が上がる旨の記載はありますが、なぜ上げるかについては書いてありません。唯一、ベトナムに関しては付加価値税等の徴収がある旨の記載があります。
ここで、前回の変更時、2019年10月以降の変更に関する通知文を見てみます。
関係箇所を抜き出すと下図のところになります。
この時の通知文には冒頭にこう書いています。
2019年の通知時にこの記載しているなら、今回の通知にも書いておくべきじゃないですかね?っていうか、規約の別紙2の3-1にも、これを記載しておいたら良いのでは?と思うが、まあ、これはいったんおいておきましょう。
さて、税率(消費税等)変更や為替の変動によりtierが変更になるようだということがわかりました。
2019年10月は、消費税が8%から10%に変更になった時です。
一方、今回は、消費税は特に変わっていません。しかし、為替相場はどうだったでしょう。
これはニュース等でも普段から報道されているのでわかると思いますが、今年に入ってから円安方向に大きく動いています。
下図が今年のUSDと円の価格のチャートです
今年初めは、1ドル=115円くらいだったのが、3月頃から円安に動き出して、10月には一時150円をつけることもありました。11月に入って落ち着きを見せ、140円前後まで戻ってきていますが。
今回、tier1が160円になりましたが、この辺りの為替の動きが関係しているということでしょう。
他国のtier
USドルと円
ここで、これまでtierは日本円でしかみてきませんでしたが、他の国地域との関係ではどうなっているのでしょうか?
下表は、現在の日本円(JPY)とUDドルのtierの比較表です
このように、USDは0.99ドル(約1ドル)から始まって、tierの数が増えるにつれて以下1ドルずつ足していった金額が増えていきます。
これは、少なくとも日本のAppstoreができた2008年以降、USDのtierは変わっていないようです(過去資料探してみたのですが、調査範囲ではtier10までは変更はありませんでした)
おおよそ円ドルの為替レートに近い数値です。(直近また円高方向に触れていますが、9-10月は140-150円近辺で推移していました)
160円だと、ちょっと円安方向にプラスアルファされている感じですが、tierの金額は税込なので、160円の税込みは税抜きにすると、約145円となります。つまり、為替レートにおおよそ近い金額になります。
USドルとユーロ
2022年10月のtier変更では日本円だけでなく、他の地域の通貨もtier変更がありました。EU圏で使用されているユーロもその一つです。
下表がUSドルとの比較表になります。
そして、ユーロの対USドルの為替レートの変動が下図になります。
ユーロに関しても、2022年の初めくらいから、ユーロ安ドル高方向に動いていて、10月にピークを迎えて、直近ややユーロ高に戻りつつあります。日本円と似たような動きになっています。
そのため、tier1 = 1.09ユーロだったのが、10月の改訂でtier1 = 1.19ユーロと1割ほどユーロベースでの金額が上がっています。
このように、USドルを軸に各国の通貨のtierを変動させているような実態のようです。
ちなみに、ユーロでの販売金額はユーロ利用エリアでは上記tierで統一されているのですが、EU圏内では各国ごとに付加価値税(VAT)の税率が異なり、アプリ事業者の所在地によって税控除後の取り分が異なるのですが、それはまた別のところで触れられればと思います。
tierと為替の連動
日本円やユーロのtier設定をみて、多くの人は感覚的に理解していると思いますが、Appleはおそらく、為替ベースでtier 1=1ドルの販売金額に設定したいという意図があるのだと思います。
このようなtier設定をすることによって、管理上、tier1で設定されたアプリが世界で1万個売れていれば、どこの国(通貨)でいくら売れたかに関わらず、100万ドルの販売量があったと捉えることができます。
一方で、事業者側としても、世界で販売している場合には、Appleのtierに沿って販売価格が設定されるので、世界各国の為替レートをチェックして、自ら価格変更する工数をかけずに、Appleが設定してくれるので楽だ、という点もあります。
ただ、表面上の価格が一致していても、国ごとに物価・購買力が異なるので、必ずしもそれが良いかどうかは不明です。
つまり、今までtier1の120円で販売していたものが、160円になった時に、従来と同じ量が購入されるかどうかはわかりません。金額が上がったことにより、売れなくなる可能性も当然あります。
そのため、Appleがこういったtierという枠を決めてそれを強制させる点について、アプリ事業者からの反発の声もあります。
また、販売価格が他者によって変更される場合の影響については前回触れた通りです。
Appleの決算書
ちなみに、なぜUSドルを基準にしているのかといえば、Apple本社の所在地はUSであるためという理由でしょう。
実際にAppleの決算書もUSDベースです(当たり前ですが)
開示上も、社内管理上もUSドルベースになるべく合わせていきたい、というのがAppleの経営方針なのでしょう。
まとめ
このように、AppleがUSドルを基準にして他通貨の国地域でも、USドルに沿った価格設定をしてきたい、という経営思想を持ってそうだ考えられます。
一方で、グローバル展開している企業は、同じような方針なのでしょうか。
例えば、Appleとの対比で語られるGoogle playを運営するGoogleでは、App Storeのtierのようなルールはなく、アプリ事業者が自由に価格設定できます。
つまり、Google play上ではアメリカで1ドルで販売しているアプリを日本で1000円で販売することも可能です。
先ほども述べましたが、表面上の為替レートを合わせたとしても、その国の物価や購買力の観点から、価格差をつけることは合理的な場合も多いと思います。tierが存在することによって、そういった自由な企業活動が阻害されている点も大きいですが、今後もこれが続くどうかもポイントの一つと思います。
また次回以降に続きます。
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