ソフトウェアの資産化について⑦
前回は、各社の税務上のソフトウェア資産を推測した上で、会計と税務の違いが大きい企業を取り上げてみました。
(ちなみに、ソフトウェア資産にはいくつか区分があるのですが(こちらなど参照)、このシリーズでは、自社利用ソフトウェアという想定で話を進めています。区分による違いなどは、また気が向いたら別のところで書くかもしれません)
今回は、会計も税務もあまりソフトウェアに資産計上をしていない会社についてみてみようかと思います。
前回も掲載した資産の比較表です。
ユーザベースとグノシーの2社が、税務上の資産計上の比率も1%未満となっており、非常に少ない金額です。
改めて2社の箇所だけピックアップしてみました。
まず、ユーザベースをみてみましょう。
ユーザベースは、SPEEDAやNewspicksといったウェブ・アプリサービスを制作、提供している会社です。
有価証券報告書の固定資産明細はこのようになっています。
このように、会計上は、会計ソフトいった内部の業務用システムを資産計上して、自社サービスの制作費などは資産計上はしていないようです。
ホームページ上からだと、エンジニアやデザイナーといった人々もそれなりにいるようです。とすると、税務上の資産計上金額も18百万円程度であることを考えると、社内の人件費などは資産計上していない可能性が高いです。(何度も繰り返すようですが、あくまで推測です)
おそらく会社として、何らかのロジックを立ててソフトウェア資産に計上しない方向性で処理をしているのではないかと考えられます。そのあたりは専門家の見解を踏まえた上での対応に必要な内部管理体制の構築など、諸々の対処事項があると思いますので、管理部門の人たちの腕の見せどころと言えるのかもしれません。
では、次に、グノシーをみてみましょう。
テレビCMなどでもお馴染みとなったニュースアプリの制作・配信をしていますね。こちらの会社も会計・税務もあまり資産計上としていません。
この会社もここやここを読むと、それなりのエンジニアがいるようではあります。税務上のソフトウェア資産は40百万円弱なので、もしかしたら多少はエンジニアの人件費分を計上しているのかもしれませんが、原価上の労務費が3億円を超えていることを考えれば、ほとんど資産計上していないといっても良いかと思います。
こちらも、社内で何らかのロジックを作り対応しているではないでしょうか。
ユーザベースやグノシーといった企業は、テクノロジー重視というイメージもあるので、そういった企業がソフトウェアを資産化をあまりしていない、というのもなかなか興味深い点である気がします。
以上みてきたように、自社制作でウェブサービスやアプリ、システムなどを作っていても、それらの人件費が資産計上されるとは限らないです。
よく、日本のIT産業は、自社の人件費も資産計上するため、税金負担が大きくなり、海外企業と比較して競争力に劣る、というような見解も目にしたりすることがあります。
果たしてそれは本当でしょうか?これまでみてきたように、会計処理としては資産計上していない企業が多いですし、税務処理としてもおそらく資産計上していない可能性が高い企業も少なからずあります。
また第1回で述べたように、資産計上してもいずれは費用化されます。
そういった現実をよく見つめ直してみて、本当の課題がどこにあるのか、を考えてみる方がよいのではないでしょうか。
今回のソフトウェアの資産に関するシリーズはいったん、これで終わります。
もしかしたら、おまけでまた何か書くかもしれませんが、また興味ありましたら、読んでみてください。
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