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収益認識 クラウドサービス

前回前々回、ライセンスについての収益認識の考え方に触れてみました。

ここで、こちらの書籍に実際の業種別についての具体例などが書いてあるので、IT関連のサービスの取り扱いについてみてみましょう。

第Ⅱ部・第2章・9の項目で『ソフトウェアのクラウドサービス』ということで述べられています。近年は、SaaSビジネスが流行でコロナ以降、SaaSビジネスを展開している企業の株価も大きく上昇している会社が多くなっています。こういったSaaSモデルのビジネスを手掛けている企業にとっては、新収益認識基準は何か影響を受けるのかという点は気になります。

クラウドサービスについてはソフトウェア・ライセンスとホスティング等のサービスがそれぞれが区分して識別できる履行義務かどうかを、収益認識会計基準32項から34項、収益認識適用指針5項から7項により判定することになる。 (P263)

ライセンス部分、つまりそのサービス固有の特徴、例えばチャットツールのチャット形式やスケジュールツールの形式とホスティングがバラバラで使えるかどうか、という点でいうと、一般的なSaaSは基本的にそれらを別々に使うことは想定せず、一体として提供しているものが多いと思います。

最近のSaaSのようなクラウドサービスにおいては、利用者側はアプリケーションソフトのライセンス供与だけでなく、それを利用するためのハードウェアを含めたシステム環境の設置に自ら投資することなく一体として提供されることを期待しており、企業側もその利便性を強調していることが多い。このような場合には、アプリケーションソフトのライセンス供与とその他のサービスは別個のものでなく、統合された単一の履行義務と考えられる (P264)

本書でもこのように記載があり、SaaSは基本的にソフトウェア・ライセンスとホスティングが別個の履行義務ではない場合が多いとしています。

収益認識に関する会計基準の適用指針』の61項は下記の通りです。

ライセンスは、企業の知的財産に対する顧客の権利を定めるものである。ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合には、ライセンスを供与する約束と当該他の財又はサービスを移転する約束の両方を一括して単一の履行義務として処理し、会計基準第35 項から第40 項の定めに従って、一定の期間にわたり充足される履行義務であるか、又は一時点で充足される履行義務であるかを判定する。

これを踏まえて本書ではこのように分析しています。

クラウドサービスの契約においては、契約期間が定められていることが多く、企業はホスティング等のサービスを通して顧客に契約期間中はソフトウェアを利用可能にするという義務を履行することになる。これは、収益認識会計基準129項(5)における「顧客が使用を決定した時に顧客が財又はサービスを使用できるようにするサービスの提供」に該当するものと考えられる。
この場合、企業が顧客にソフトウェアを利用可能にするという契約に基づくサービスを提供するにつれて、顧客はサービスの便益を同時に受け取って享受することから、一定の期間にわたり収益を認識することになると考えられる。

そのため契約期間に渡って収益に計上していく形になると思います。

SaaSビジネスも様々な形がありますが、最近のものは、月単位で利用できるものが多く、基本的には月額料金を受け取ったらその月はその分が収益となる形で問題ないと思います。

ただ、年間契約にすると12ヶ月分よりも安くなるような契約プランを用意しているケースもよく見かけます。

例えば、上記はクラウド会計のfreeeのプランです。ベーシックプランを月払いにすると4,780円(税抜)ですが、年間払いにすると47,760円(税抜)で月割りすると、1月あたり3,980円と安くなります。

この場合は、月払い契約の場合は、4,780円を月々収益計上して、年払いの場合は、月割りに按分した3,980円を収益計上する形でしょうか。

おそらく、これは新しい収益認識基準を適用するまでもなく、現行ルールでも同じ処理をしていると考えられるので、収益認識基準が適用されても大きな変更はないような気がします。


本書の開示事例で、IFRS適用会社の注記事例もいくつか掲載されています。

そのうちの一つがホットリンク社で、SNSのマーケティングツールの提供などのビジネスの会社です。

有価証券報告書(2019年12月期)の連結の注記にはこの記載があります。

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サービス提供期間で収益認識すると書かれています。

基本的には現行の日本基準にそった会計処理から大きく変わることはないと思います。

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