「Leni Lugaw」に思うフィリピンのエリートの責任

ほとんどがバカバカしいほど根拠のない、というか低次元な誹謗中傷でしかないけれど、フェイクニュースでネガティブキャンペーン真っ盛りのフィリピン大統領選。
弁護士として政治家として社会活動家として生きてきたレニ・ロブレドの経歴を考えれば失笑に付するようなことばかりだけど、それでも、このネガティブキャンペーンはフィリピンを左右するような影響力を現実的に持っている。
もちろん比国内ではファクトチェックとか行われているし、日本でもそれがファクトなのかフェイクなのかにフォーカスがあたるけれど、ちょっと違った目線からこの「泥仕合い」を見てみようと思う。

記事のタイトルにしたLugaw(ルーガウ)は、「おかゆ」のこと。
日本では体調がすぐれない時やダイエット志向の人のメニューでしかお目にかからなくなった料理だけど、フィリピンではファストフードとして昼夜問わず屋台などで売られている結構ポピュラーな料理。トッピングにはゆで卵やガーリック、揚げ野菜や肉類など、一皿でとにかく小腹が満たせるというイメージ。
社会活動家として、貧困対策のためにお粥の炊き出しに精を出していたのを持ち出して、ロブレドのことを「(プレーンなお粥だと)中身がスカスカ」なLugawに擬えて記事タイトルのような揶揄がネットで拡散されている。

ロブレド候補を貶めるためのフェイクニュースは数多あるけれど、僕はその一つ一つについて、真偽を確かめるのと同じくらい重要なことがあると思う。

飛び交っているフェイクニュースは、ちょっと冷静に考えてみれば、すぐに眉唾とわかりそうな内容で溢れている。
あまりにも稚拙な、ただの(関西でいうところの)「やから言い」レベルのものだ。ロブレドの政策理念・信条に対して、また、これまで政治家として弁護士として社会活動家として彼女がやってきたことに対する不満や明らかな不備・不足を基にした「真摯な」反ロブレドニュースは見たことがない。

じゃあどうしてこんな稚拙な(フェイクもどきの)ニュースが飛び交うのか?

それは、前のnoteの投稿でも少し触れたけど、一にも二にもフェルディナンド・マルコス体制(今となっては姓名をきちんと書かないと混乱してしまう事態になってるけど(汗)後に、現在のロブレドに繋がるリベラル層・知識層が、フィリピン国内における、「自分達とは違う」貧困層・情報弱者層・社会問題や政治経済問題に深く関心を寄せる時間的・経済的余裕のない層に真面目にケアしようとする視線を注いでこなかったということに尽きると思う。

なぜこんなことを言いたいかというと、
今蔓延っている反ロブレドのニュース(フェイク)をあっさり信じてしまう層がフィリピンにはまだまだ選挙結果に大きく影響するほど存在しているということの裏返しだと思うからだ。
ロブレドが掲げる政策や実績の弱点・瑕疵を問う反ロブレド言説があまり発信されないことから、既に反ロブレド陣営は、ロブレドの姿勢を正しく理解し、支持するような「真面目な有権者」は端からターゲットにしていないのだろう。

そもそも選挙とは、「当選したものの考えやそれを支持した人たちの民意だけ」は通るが、冷酷無比に次点得票者をオミットするという、おおよそ民主主義的とは言い難い、言い換えれば、民主主義的な考えをほんのちょっとしか含んでいない意思決定方法と僕は思っているのだけれど(だからと言って僕は、選挙を棄権したり、わざと無効票になるような投票行動をすることは害悪でしかないという事も理解できてはいるのだけれど)、たとえフェイクニュースに躍らされた結果の票でも一票は一票。トップ得票しなければ大統領になれないシステムでは真面目に考えた末の一票と同じくらいの「重み」を持つ。つまり、「(数の上で)重み」として捉えられるくらい、そういった層が多いということだ。言い換えれば、そういった層を、フェルディナンド・マルコス時代からそのままにしていたということだ。

これは、直接的にいうと、アキノ体制を作り上げたリベラル層が、最下層の人たち、もっとも弱い立場にある人たち、を、いかに巧妙に見捨ててきたか、ということになると思う。

そこにきて大統領選が6年ぶりという予定通り行われることになったので、しっかり考えた上でロブレドを支持している連中に政策を説いて転向させるような七面倒くさいことをするよりも、なんにもわかっちゃいない夥しい数の最下層を煽る方が手っ取り早いと思うのは、良し悪しは別として、とにかく「選挙に勝つため」のやり方としては、至極「理にかなって」いるように思われる。

僕は、個人的には、フィリピンに関わる仕事をしているだけでもちろんフィリピンでの選挙権はないのだけれど、ロブレドが勝ってほしいと思う。BBMは大統領としては相応しくない人物と思っている。
だけど、ロブレドを攻撃するフェイクニュースが跋扈する背景には、今のロブレドの活躍に繋がるアキノ以降のリベラル勢が見落としてきた弱者への姿勢が今になってレニさん自身の障壁となっているような気がしてならない。


これは、フェイクニュースは悪なんだ。ファクトチェックもしたからファクトを拡散すればいいのだ。で済む話ではないように思う。



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