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フィリピン音楽と僕 8 - さらっと答える「Because we love music」のカッコ良さに参った

2007年より以前はCD/DVDの買い付けのため、ほぼ毎月のようにマニラへ渡航していたけれど、2007年からはレコード会社から直接送ってもらえるようになったので、約3、4ヶ月に一度くらいのペースまで落とすことができた。そして、年に3回〜4回の渡航の目的は買い付けではなく、レコード会社とのミーティングにシフトしていった。
基本的にミーティングはオフィス内でしていたけれど、簡単な打ち合わせなどは社屋に併設されたStarbucksなどのカフェで行うこともある。お昼の時間帯にかかる時には早めに行って一緒に昼食を摂ることも。
そこでは仕事の話ではなく、音楽とは離れたプライベートな話題や、ライバル会社含めたミュージックシーン全体の最新情報などを話してくれるので、ミーティング以上にエキサイティングな時間でもあった。

ABS-CBN(Star music)本社の一階にあるスターバックス

ゴシップからライバル会社のアーティストの最新情報も

タレントの恋愛話は一番よく聞いた話だった。今、誰と誰が付き合っているとか、あの二人はそろそろ別れそう・もう別れてる、とか、映画やテレビ番組での共演で噂される交際についても、あれは本当に付き合ってる、あれはテレビだけ。。。
僕がフィリピンのショービズ界の人間でもフィリピンのマスコミ人でもないからこそ話してくれたんだろうとは思うが、現地の新聞やネットニュースにも載っていない仰天の最新情報やセレブに関するセンシティブな話題まで、ランチを食べながら事も無げに話された時はこちらが仰天した。

なんでフィリピンには優秀なシンガーが多いの?

現地のスタッフとの食事は情報収集の機会としてももちろん貴重だったけど、やっぱり打ち解けあってくると、お互いの趣味、好みの話題になってくる。フィリピンのアーティストについて、好みのシンガーや、以前からよく聞いている音楽ジャンルなどについて話すなかで、こんなニュアンスの質問をしてみた。
なんでフィリピンには優秀なシンガーが多いの?
間抜けな質問だ。
テレビのフィリピン紹介番組じゃないんだから。。。と聞いてしまってから少々焦ったけど、
問われたレコード会社担当者が食事を口に運びながら答えたのが
Because We Love Music
の一言だった。

Because We Love Music

正直、この一言に萌えた(笑・汗
めちゃくちゃカッコいい答えだな、と思った。
それは、言われた文章自体もそうだけど、言うときの素振りが素敵だったからだ。
食事の手を止めて、僕の方をちゃんと見据えながら言ってるのではない。
俯き加減に食事の乗った皿の方を見ながら、料理を口に運びながら。。。
まるで、
このパスタ、いい塩加減ね。。。
とでも言っているかのように何気ない調子で出た言葉だ。

その時、僕は多分、
So many talented singers are here in the Philippines, right?
みたいな訊き方をしたと思う。
僕が訊いた相手は、アーティストでも、コンポーザーでもない。音楽を扱う会社のスタッフではあるけれど、クリエイティブ部門ではなく、販売部門の一スタッフだ。
その彼女が、プライベートな会話の中で「We」を使って答えたのだ。

フィリピンではビサヤ語、タガログ語という話者の多い言語をはじめ、何十もの言語が話されていて、「方言」というより違う言葉と言った方がいいような個性がある。各々の言葉の辞書も編纂されている。
そのどれもが人称代名詞をきちっと使うし、人名や固有名詞など、何(誰)が主語なのか、対象は何なのか、がはっきりと表現される言葉なのだ。
もちろん、彼らの第二言語とも言われる英語は言わずもがな。
そして、I, We, She/He, Theyをきっちり正確に使い分ける。(更に、タガログ語には、話しかけられている目の前の人を含む「Tayo(私たち)」と、目の前の人は含まない「Kami(私たち)」があり、区別がはっきりしている)。
だから、Because we love…と言った彼女は、ぼんやりとしたニュアンスでweと言っているのではない。フィリピン(人)はみな音楽を愛しているの、と訳すこともできるけれど、そのフィリピン(人)の中にはしっかり「I(私)」も含まれているのだ。
自分以外の音楽をやっているフィリピン人たちを指してTheyというのでもなく、一般論に導くFilipino are…でもない。
自分もしっかり巻き込んだ「We」なのだ。

例えば日本で、日本の特徴(好意的)を聞かれた時、
日本は〇〇ですね。。。
の問いに、
ええ、「私たち」は〇〇なんですよ。
と、自分も含まれる主語を立てて堂々と答えられる場面がどのくらいあるだろうか?
(一般的に見て)日本人は〇〇ですから。
や、
(そのことをやっている)彼らは〇〇ですから。
と答えることが多いのではないだろうか?
仮に、
私たちは。。。
としても、なんとなく
自分は特にそういうわけでもないんだけど。。。
のような小っ恥ずかしさを感じることもあるんじゃないだろうか?
(〇〇のところには、例えば、勤勉とか、お箸の使い方が上手とか、素晴らしい伝統芸能がある、とかを代入してみるとわかりやすいと思う)

音楽のことに戻ってもそう。
世界で活躍している日本人アーティストもいっぱいいるので、彼らを引き合いに出す形で、
日本は素晴らしいアーティストがたくさんいますね?
との問いに果たして、
ええ、「私たち」は音楽を愛していますから。
のように答えられるだろうか?

彼らは、自己紹介の欄に「音楽鑑賞」と書くことはそれほど多くない。あえてそう書く人は相当のマニアと自認している(又は余程書くことがないか)。
また、音楽は素晴らしい!と声高に書かれたネット上の文章もそれほど見かけない。
けれども、飯を食いながら聞かれると、そっけないくらいの気軽さで
Because We Love Music
なのだ。

お味噌汁って美味しいですね?と外国から来た人に言われ、
「でしょう?」
と答えるようなものだろうか?

だから僕は、音楽について
Because WE Love Music
と答えられるフィリピンのことをとてもカッコいいと思い、羨ましさすら感じるのだ。

最後の秘境(?・笑)

偉大なミュージシャンは、もちろん個人の才能・努力の賜物でもあるだろうけど、それだけじゃないと思う。
類稀なミュージシャンを生み出したアメリカの黒人コミュニティのように、ブラジルを含むカリブ海諸国のように、その地域の多くの人たちが「We Love Music」だからこそ、その中から世界的なミュージシャンが数多く育まれるのだと思う。
そういう意味では、フィリピンは、素晴らしいミュージシャンを生み出す条件を備えた、「最後の秘境」なのかも知れない。

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