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一緒に山を越えた仲間は、一生の仲間になる。

太田早織
人間科学部 人間科学科・体育科教育学、舞踊教育

 「意味ないジョークで笑い合う」。私が大学生のころ、こんなフレーズの歌がありました。偶然聞いたCDに入っていた曲でしたが、妙に惹かれたのを覚えています。学生時代を思い出すと、辛く苦しい思い出よりも、この歌詞のように仲間と意味のないことでゲラゲラと何時間も語り合い笑い合っていたことが思い出されます。”この瞬間”を共有した仲間とは、今でもお酒を酌み交わしながら意味ないジョークで笑い合う仲ですし、なかなか会えなくても見えない絆で結ばれています。しかし”この域”まで辿り着くには、ただ一緒に笑い合っていたわけではありません。

 新入生の皆さんは様々な想いを抱いて入学されたかと思います。明確な目標がある人、これから目標を見つけようと思っている人、目標に向かって多くのことにチャレンジしようと思っている人……。どんな状況であれ、形・質・大きさ・高さなどそれぞれ違う……とにかく色々な山が目の前に立ちはだかるでしょう。自分一人だけで越えていこうと決意している人もいるかと思いますが、私は同じ方向を目指す仲間をできるだけ早く見つけることをオススメします。全く同じ山を目指していなくても、方向が同じであれば共に歩んでいけると思うからです。傍らに仲間がいれば、同じ情報を得たとしても互いに意見しながら最善な方法を選択して歩みを進めていけると思うからです。

 私の場合、はじめの一歩は部活動に所属したことでした。体育系の大学だったので、入学するときから体育・スポーツという大きなくくりの中に属していました。様々な運動部活動がある中で、私は一生ダンスに関わっていきたい、指導していきたいという思いがあったので迷わず創作ダンス部に所属しました。ダンス部には、私と同様の想いを抱いている者もいれば、教員になりたいため苦手なダンスを克服したいという者、ダンサー志望者、幼稚園教諭志望者等々、様々な目標をもった者がいました。部活では作品を創るということ以外でも大会・公演に向けた組織としての在り方やそれぞれの役割、先生とのやり取りなど、上級生になればなるほど越えなければならない山が多くありました。特に頭の回転の物凄く早い先生とのやり取りは、何度も何度も登っては引き返しの繰り返しでした。創作ダンスは決まった形がないので創り踊る我々と客観的に見てアドバイスくださる先生とのガチンコ勝負なのですが……何度泣いた(泣かされた?)ことか……(笑)。ここで挫
けずにチャレンジし続けることができたのは、仲間の存在があったからだと思います。時にぶつかり合うこともあったけれど、互いに叱咤激励し合いながら大きな山を越えた時、互いをより理解し距離が縮まり顔を合わせて心から笑い合うことができた気がします。

 このような経験を積み重ねていまの私が在ります。自分の経験だけでなく仲間の経験も背負っていまここに立っています。

 皆さんは、どんな山に登ろうとしていますか? 高さは分かっていますか? どんな道でしょうか、真っすぐだけれど急? グネグネしているけれど平坦? 目が回りそうなくらいカーブが多い? それとも麓ふもとしか見えていないかもしれませんね。どちらにせよ、どのような山でも在る程度経験を積めば、高さも概ね目視できるようになりますし、登り方のコツもわかってきます。いつか一人で登らなければならない時のために、とにかく様々な山にチャレンジし続けること、これに尽きると思います。その時傍らに仲間がいるということはとてつもなく頼もしいことでしょう。

 少し前の話。2011年度から人間科学部ではキャンプ実習がスタートしました。実習ではテント泊・野外炊飯・トレッキング・スノーケリング等内容豊富でしたが、学生たちにとって特に印象に残ったのはトレッキングだったようです。(私は残念無念ながら怪我で登れず。)今回チャレンジした山は、高さは1000m ないにせよゴツゴツ・ザラザラで急な道が待ち受けていたようで、ときには四つん這いにならざるを得ないほどだったそうです。しかし、そんなことを言いながらも彼らの顔つきや距離感は、明らかに登る前と違っていました。共に息を切らし、筋肉痛を覚悟しながら全身を使って一歩一歩進んでいく中で、他愛もない話を、オチもない話を、互いを励ますかのように交わしながら登った彼らは、すべての行程を終えた時に心から笑い合ったのでしょう。心地よいとは言えない疲労感を緩和したのは、言葉に言い表せないほどの充足感と仲間と共に登り切ったことで芽生えた結束力だったのではないでしょうか。共に山を越え、共に笑い合っている、そんな彼らを見て私は改めて仲間の温かさやありがたさを感じました。月並みな言葉ですが、本当に心からそう思ったのです。そしてこれから先、共に歩んでいこうとする彼らの姿が目に浮かびました。

実際の野外実習の登山の様子

 本当に山に登りに行け! とは言いませんが、これから待ち受けている多くの山を眺めるだけではなく、どうかチャレンジしてください。様々な情報が飛び交う世の中ですから、先に想像力が働いてしまい、登ることを躊躇してしまうこともあるかもしれません。しかし、実際に自分の全身で感じに行かなければ、チャンスを逃すことになってしまうかもしれません。一人ではなかなか勇気が出ないと思いますから、仲間を巻き込んで多くの山にチャレンジしてください。

 共に歩んでいける仲間に出会えるかどうかは皆さん自身の足とハートにかかっています。仲間は待っていても湧いてくるものではありませんから、勇気を出して自らの足でまずは友達づくりの山にチャレンジしてみてください。

太田早織
人間科学部 人間科学科・体育科教育学、舞踊教育

『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために各学部の先生方に執筆して頂いています。

この文章は2012年度版『学問への誘い—大学で何を学ぶか―』の冊子にて掲載したものをNOTE版にて再掲載したものです。