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クリエイティブ・マインド ―ものごとを見る目とクリエイティビティ―|道用大介

道用大介
経営学部准教授・経営工学

大学では様々なことを学びますが、私はみなさんに「ものごとを見る目」と「クリエイティビティ」を大事にしてほしいと思っています。経済・経営系の学部ではその分野の理論、分析手法、過去の事例、価値観などを学びますが、これらは「ものごとを見る目」を鍛えていると捉えていいでしょう。しかし、一方で文系学部での「クリエイティビティ」というとピンとこないかもしれません。

クリエイティビティというのはものごとをよく見て、感じ、考え、自分の外に適切な形でだしていく(形にしていく)ことだと私は考えています。ものごとをただ見るだけではない、ただ考えるだけではない、その考えをどのような形であれ少しずつ自分の外に出していくことが重要なのです。自分の外に出すというのは、1発言として外にだす、2レポート、論文、設計図として外に出す、3行動や制作物によって外に出す、というようにいくつもの手段があります。
1に比べて、2・3はハードルが高いでしょう。ハードルが高いということは、それだけクリエイティビティが高いと考えて構いません。また、他の人と異なったアウトプットをだそうとすると、クリエイティビティはさらに高くなります。

AIを含むコンピュータシステムによって多くの仕事がシステム化される時代に人間としてのクリエイティビティが重要になることは誰もが認めるところでしょう。私は経営学部で教えていますが、授業では常に自分で考えることを重視しています。商品企画設計論という授業では毎回授業の半分は学生の発表に使っています。つまり1のしっかり考えて発言として外に出すという段階のクリエイティビティの実践を行っているわけです。

この授業では、さらにレベルの高いクリエイティビティを目指しDCADも学び、考えたものを設計したりもしています。これは2のステップですね。さらにゼミではDプリンターを使って設計したものを形にし、3のステップを実践しています。DCADやDプリントというと、もはや工学部やデザイン系学部のようなイメージを持つかもしれませんが、これらのソフトや機器は誰でも扱えるレベルにまで操作性が向上しており、〝誰でもデザイナー時代〟がやってきています。また、2018年には経産省特許庁が「デザイン経営宣言」という報告書を発表しましたが、その中でビジネス系人材に関して次のような提言があります。

企業・大学等において、事業課題を創造的に解決できる人材(高度デザイン人材)の育成を推進する。
(......中略......)
ビジネス系・テクノロジー系大学においては、デザイン思考のカリキュラムや芸術
系大学との連携プロジェクト(例:IIS-RCAデザインラボ)などを、芸術系大学においては、ビジネスおよびテクノロジーの基礎を身につけるためのカリキュラムやデザイナーとしての実践的能力を向上させるための産学連携プロジェクト(例:広島市立大学芸術学部共創ゼミ)などを実施する。


これからの時代はビジネス、テクノロジー、デザインを分けて学ぶのではなく、それらは横断的に学ぶべきものだという見解を示したわけです。つまり、ビジネス系の学部であろうと、テクノロジー系や芸術系のようなクリエイティビティは少なからず求められているわけです。

しかし、大学に入ってクリエイティブなことをしたいと思っている学生でも「何かしたいけど、何をすればいいかわからない」という学生が多いのは事実です。これは大学生だけではなく、日本中でみられる現象です。日本社会全体が何をほしいか〝選べるが、自分では考えられない〟という〝消費者マインド〟にどっぷり浸かっていることが原因でしょう。

ここ数年時価総額の世界ランキングで上位を占めるGAFA(Google,Apple,Face-book,Amazon)は、企業のサービスとして社会のプラットフォームを構築したプラットフォーマーであり、私たちの生活を大きく変えてくれました。この四つの企業は全てアメリカのIT企業です。その他にもAirbnbやUberといった新しいサービスで世界中にサービスを広げている会社はアメリカ企業ですね。

日本はすっかり、それらのサービスを利用する消費者側に回っています。この結果から考えると、アメリカでは、どういったものがあれば世の中が便利になるか考えることができ、それを作ろうとする〝クリエイティブ・マインド〟が醸成されているのでしょう。

その一方で、過去20〜30年で多くの日本人からなくなっていったものも〝クリエイティブ・マインド〟なのかもしれません。
私は学生のクリエイティブ・マインド醸成のため、湘南ひらつかキャンパス内に「ファブラボ」という場所を作りました。簡単にいうと〝ほぼなんでも〟作れる場所です。この場所は誰でも(学生だけでなく外部の人も)利用可能なため、様々なことを解決しようとする人が様々なものを作っています(ファブラボは2021年に、みなとみらいキャンパスに移転するので横浜キャンパスの学生さんも使いやすくなるでしょう)。

将来みなさんがどのような職につくかはわかりませんが、社会に出てクリエイティブなことがマイナスに働くことはありません。大学の授業を受けていれば「ものごとを見る目」は自然と養われるでしょうが、「クリエイティビティ」は意識して実践していかないと養われません。みなさんもせっかく養った「ものごとを見る目」を最大限活かすためにも、ファブラボ等の大学施設を活用し、「クリエイティビティ」を意識して大切な4年間を過ごしてください。

道用大介
経営学部准教授・経営工学

『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。

この連載では『学問への誘い 2020』からご紹介していきます。