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観光客数データで見るコロナ禍以降の観光エリアの回復状況 -行動制限の緩和のもとで回復が見られる市内の観光エリアはどこ?-

神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
 風間優希・浦沢聡士

経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、観光客数データ を使って見えた横浜市の姿を紹介します。行動制限の緩和のもとで回復が見られる市内の観光エリアはどこだと思いますか?


 横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。初回となる今回は、観光客数データを使ってコロナ禍以降の観光エリア別の回復状況を見る。

  観光客数データとは、横浜市を含む神奈川県内の各観光地を訪れた観光客の延数を調査するものであり、「入込観光客調査」(神奈川県)よりダウンロードすることが出来る。この「入込観光客調査」の中では、観光客数のデータが、日帰りや宿泊といった観光形態別、各市町村別、さらには主な観光地点・観光施設別といったように詳細に報告されており、毎年のデータが、その年が終わってから概ね半年後に公表されている(例えば、2022年のデータは2023年8月に公表)。こうした観光客数データは、観光エリアを訪れた観光客の人数を捉えることから、観光地の活況を表すデータと言える。

  観光客数については、コロナ禍当初には、初めてとなる緊急事態宣言の発令などの影響もあり大幅に落ち込む一方、そうした行動制限が徐々に緩和されていく中で回復も見られているが、ここでは横浜市内の観光エリア別に観光客の動向を見てみたい。行動制限の緩和のもとで回復が見られる観光エリアはどこであろうか?

  まず、横浜市全体の観光客数の動きをみると、2020年には、2019年と比べて6割以上の減少となり大きく落ち込んだ。こうした傾向は全国的にも見られ、横浜市も他の地域と同様に感染症拡大の影響を強く受けたことが分かる。では、市内の状況に目を向けた場合はどうであろうか。半ば人為的に人々の活動が制限される中で、やはり市内のどの観光エリアでも同様の影響を受けたのであろうか?

 それを確かめるため、コロナ禍以降の観光客数の動きを市内の観光エリア別にみてみよう。そこで、「入込観光客調査」においてデータが利用可能な観光エリア(2019年の観光客数が20万人以上の主なエリア)について、観光客数の変化を2019年から2022年にかけてみてみた。すると、感染症拡大の影響を全国並みに受けた横浜市であったが、そうした動きを市内の観光エリア別にみると、実はその影響に違いがあることが確認できる。一言で言えば、公園や動物園といった屋外型観光エリアと商業施設や博物館などの屋内型観光エリアで、観光客数の落ち込みや回復といった傾向が異なることが分かった。

 まず、図1で、海の公園、よこはま動物園、こどもの国といった市内の屋外型の観光エリアをみると、市全体と比べ、2020年の観光客数の落ち込みの程度は小さく(青棒)、その一方、2021年の回復が大きい(赤棒)ことが確認できた。

 これとは対照的に、図2で、横浜赤レンガ倉庫や山手西洋館などの屋内型の観光エリアを見ると、2020年の観光客数の落ち込みが大きい(青棒)一方、2021年の回復は屋外型の観光エリアほどには大きくない(赤棒)。屋内型の観光エリアでは2022年になってようやく大きな回復の動き(灰棒)が見られ[1]、これが市全体の観光客数の回復をけん引しているが、こうしたデータは、コロナ禍当初、ソーシャル・ディスタンスが強く意識される中で、観光先として密を回避し易い場所が選ばれる傾向にあったことを示唆していると考えられる。その反面、ワクチンの普及などの影響もあり徐々に行動制限が緩和され日常を取り戻していくと、今度はこれまで避けられていた屋内型の観光エリアで回復傾向が見られるようになった。

 実際、図3で、コロナ前である2019年の観光客数を100とし、2022年にかけて、観光客数がコロナ前の水準のどの程度にまで回復したのかをみると、屋外型エリアでは回復のペースが速く(赤線)、そのほとんどでコロナ前の8割以上の水準にまで観光客数を戻している。その一方、屋内型エリアの回復のペースは遅れており(青線)、2022年の時点ではコロナ前の8割以下の回復に止まっている。

 もっとも、2023年以降は、感染症の5類移行に伴いコロナ禍後へと生活スタイルが変化する中で、屋内、屋外といった別なく観光エリアが選ばれることになるとも考えられる。今回紹介した観光客数データを引き続き見ていくことで、再び日常を取り戻した後に、市内の観光客の動きに、コロナ前とは異なる何らかの特徴や変化が見られるのか、もしくは、単にコロナ前と同じ状態に戻るだけなのかなど、市経済にも大きな影響を与える観光客の動向を分析することも可能となる。


[1] 図中の括弧内の数値は、2019年の観光客数(図2も同様)。
[2]横浜赤レンガ倉庫では2022年に大きな回復がみられないが、こうした背景には、2022年5月より年末にかけて実施された大規模改修工事に伴う休館の影響を受けている点に留意が必要。


「横浜見える化研究-官民データを用いた地域活動の可視化-」について
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