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第9回神奈川大学フランス語翻訳コンクールを終えて

                  国際日本学部  熊谷 謙介 教授

 フランス語翻訳コンクールは2013年度から開始をしたので、2021年度で9回を数えることとなりました。最初は横浜キャンパスのフランス語履修生を対象としていたのですが、2021年度からみなとみらいキャンパスが開設されたことを機に、フランス語を学修している全キャンパスの学生全員が参加できるようになりました。

 語学の企画と言えばスピーチコンテストや語劇などがよく見られますが、どうしても話す力やパフォーマンス重視のものとなってしまいます。辞書と首っ引きで長文を読解し、日本語で表現するという、むかしの授業にはよくあったトレーニングは有効性を失っていないのではないか(少なくとも、たまに行ってもよいのではないか)。また、派手なパフォーマンスは苦手でも、一人静かに、青く燃える炎のような情熱で、ああでもないこうでもないと訳語の選択に頭を悩ませる学生を高く評価したいという思いから、この企画はスタートしました。

 コンクールの構成は、《初級・入門部門》(1年次中心)、《中級・応用以上部門》(2年次以上中心)の2部門としました。初級や入門では教えている文法事項も限られているので、題材となるフランス語の長文の選定は毎年難しいものです。しかし、未習の文法事項がある程度入っていても、辞書や参考書などで調べることでクリアする学生が多いのは心強く感じます。「習っていないから訳せない」でなく、「訳したいから自分で調べる」というプロセスが、語学に限らず勉強において重要なことだと再認識しました。また、フランス語だけでなく、フランス語圏の文化や社会背景を知るきっかけとなったという声も少なくありませんでした。

 《中級・応用以上部門》では、文法理解だけでなく内容把握がどれだけできるかを見るために、日本の現代小説でフランス語に訳されたものを用い、現代の日本がフランス語でどのように描写されているか、どのように日本語に訳し戻せるかを競わせるようにしています(もちろん、日本語の原文に一番近い訳がよいというわけではなく、あくまでフランス語をどう訳すかを見ています)。小説の翻訳はほとんど授業では体験していないはずなので、参加した学生は最初かなり戸惑うようですが、徐々に霧が晴れていくように、自分たちがある程度見知った世界が現れてくる喜びを体験するようで、これも当初想定していなかった副産物でした。 

 幸い、人文学会から毎年支援が認められ、受賞者には図書カードを授与することができています。2021年度は《初級・入門部門》で7名、《中級・応用以上部門》で4名が受賞しました。毎年11月を応募期間としていますが、中間テストなど他の授業が大変な時期に当たるなか、コンクールに参加した学生には敬意を表したいと思います。

 ……と、ここまで企画者がコンクールへの思いを語ってきましたが、実際に参加した学生たちの感想を紹介した方が、その意義を伝えられるように思います。ここからは今年度の受賞者の感想を引用させてもらいます。来年度以降もぜひ、10回目となるこの企画を続けていきたいと考えています。また、フランス語に限らず、言語を勉強することの意義も紹介していければと考えています。

初級の部門に参加しました。知らない文法や単語が多く大変でしたが、それ以上に、辞書に書かれた意味を、いかに自然な日本語に訳すかということがとても難しかったです。フランスでの大学受験事情を知ると同時に、教科書とはまた異なる、書き言葉での長文のフランス語の書き方やその読み方を学ぶことができ、勉強になりました。(A.K)

今回初めて、フランス語翻訳コンクールに参加しました。普段の授業では、フランス語の長文を読み翻訳する機会があまりない為、とても新鮮な経験となりました。また、長文を読み進めていく過程で、さまざまな文法に触れることができ、後期の授業内容の復習にもなりました。参加して良かったです。(H.T.)

中級の部門に参加しました。前回参加した初級部門と比べて、文法の種類が増え、難易度が上がったと思います。登場人物の心情や台詞部分が多かったので、文章を直訳するのではなく、より自然な言い回しにする事を意識しました。授業で学んだ文法事項などをベースに、自分で翻訳を考えていくのがとても楽しかったです。フランス語で長文を読む機会はあまり無かったのですが、この翻訳コンクールという機会をもらい、自分のフランス語力を確かめ、鍛えることができたと思います。是非、フランス語のクラスを受講されている方に取り組んでほしいです!(M.T.)

私は入門の部門に参加しました。普段フランス語の授業を通して、フランス語を少しずつ理解していたつもりでしたが、今回の翻訳コンクールでは自分があまり触れてこなかった文法や単語が出てきたので意味を調べたり、文脈を日本語風に解釈したりするのは難しかったです。しかし、翻訳しているうちに前の文章で出てきた単語や文法に対して、意味を調べなくても自分の頭だけで変換できるようになり、自分の中にそれらが知識として吸収されている感じがして、非常に身になったと思います。今回のコンクールを通してフランス語とフランス文化を同時に学ぶことができたので、参加して良かったです。(A.I.)

初級の部門で参加しましたが、意訳することが難しかったです。熟語も知らなければ訳せないものもあり、この文章全体に合う意味に成るように適切に翻訳することが大変でした。普段の授業ではこのようにがっつり翻訳することはなかったですし、自分で1から調べることで新しい文法が身についたと思います。また、ただ訳すだけではなく、フランスの文化を学ぶことにもつながったので、翻訳コンクールに参加してよかったと感じました。(Y.F.)

初級の部門に参加しました。時間のない中での参加にはなってしまいましたが、見たことのない単語にたくさん触れられたと思います。辞書によってはその単語の意味がある程度違っていたりして、この文章にはこの意味が合致しているとか考えることが面白かったです。また来年に翻訳コンクールに参加できる機会があれば、現在よりもパワーアップした翻訳ができるよう、学習を進めていきたいと思います。(N.S.)

私は、どちらかというとフランス語が苦手なのですが、先生や友達とフランス語を学ぶことは楽しくて、今回のフランス語の翻訳も楽しんでやってみようと思い挑戦してみました。進めていくうちにどんどん難しくなっていき、辞書や教科書の文法の説明の理解だけでは、人間らしい翻訳にならず苦労しました。しかし、何度も校正していくうちに、単語の意味が正しいの同じくらいこの文章が伝えたい意味を理解することも大切なのだと気づき、出来るだけ自然な和訳になるよう心がけました。完成した文章を正解の訳に照らし合わせて見るとおかしな部分も多々ありましたが、ただ訳すだけでなく、自然な日本語に近づけようと試みることは翻訳家になったような気分でとても楽しかったです。(K.K.)

初級の部門に参加しました。初めて見る単語も多く何度も辞書を引いてなんとかナチュラルな和文にしようと努めました。フランスの大学生についての記述について驚くことや共感することがあり、フランスの同年代の人の生活が身近に感じられました。翻訳を通して新しい言葉や表現と出会うことができより深くフランス語を学びたいと思いました。(K.O.)


(付記)この報告は神奈川大学人文学会誌『Plus-i』No.18に掲載されたものです。転載を許可していただいた人文学会にお礼申し上げます。

「第9回神奈川大学フランス語翻訳コンクールを終えて」
http://human.kanagawa-u.ac.jp/gakkai/student/pdf/i18/1814.pdf

『Plus-i』はweb公開しています。雑誌全体もぜひごらんください。
http://human.kanagawa-u.ac.jp/gakkai/student/plusi11.html#plusi_18