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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。 この連載では最新の『学問への誘い 2023』からご紹介していきます。…
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#学問への誘い2022年度版

第二の故郷となったモダン都市ヨコハマ

 私は、東北人。秋田の大館市という人口5万人ほどの小さな田舎町の出身だ。秋田犬の里で、渋谷のハチ公の出身地といった方がわかりやすいかもしれない。高校時代は数学と物理が好きだったが、文系の暗記物は苦手だった。必然的に大学受験では、理数系の科目を生かせる工学部をめざした。学科までは決め切れずにいたが、大手ゼネコンで活躍していた親戚がおり、建築家もいいなと受験間際に建築学科をめざした。当時は建築家になるなら工学部が常識で、現在のように、医者になるなら医学部へ、建築家になるなら建築学

新入生への手紙

「縛られない中から見つけたもの」  新入生の皆さん、今は受験競争というしがらみから解き放たれ、心躍る大学生活にいろいろな想いが交錯していることでしょう。私自身も40年近く前の入学時に、友人と肩を組んで時計台の前で撮った写真を見るとその想いが蘇ります。大学での講義、部・サークル活動、アルバイト探し、そしてこれまでとは異なり色々な地域からの人との出会いが始まる中で、当時の大学では講義の出欠がとられることもなく、まずは自由な時間をどう過ごそうかでした。講義の出欠という点のみは現在

実践的学問に出会う場所

 大学に限らず、入学したての頃は誰もが新鮮な気持ちで授業を受ける。しかし、大学では学びのかたちが高校までとは大きく変わる。一番大きな変化は、学びたい科目を自分で選べることであろう。いろいろと悩んだ末に学部・学科を選び、大学を選んで入学した学生にとって、この変化に戸惑うことが多いのではないだろうか。もちろん必修の科目もあるが、授業が行われる教室に行っても指定された席はない。自由に選べる範囲がこれまでとは格段に広がっている。  自由に選べるとなると、人はいろいろなことを考え始め

わくわくする学びとどのように出会うのか

「ご専門は?」と問われれば「発達心理学です」と私は答えます。でも大学に入ったころの私はたぶん「発達心理学」という用語を知っていたかどうかもあやふやです。皆さんは、大学でご自身が深める専門領域について、どのくらいご存知でしょうか。その領域で自分が目指したいものが現在の自分なりに見出せているでしょうか。  すでに明確な目標を見据えている人もそうでない人も、学びの在り様は人それぞれです。「これだ」と見据えて大学に入学したものの、青年期の様々な出会いの中で目標が揺らぐことはしばしば

大学での出会い、そしてその先へ

 私が大学に入学したのは1986年、皆さんほとんどの方が生まれるずっと前、もう35年も前の話です。皆さんは、もしかすると1986年なんて想像つかないかもしれません。「戦後すぐでまだ日本が貧しかったころ?」なんていう人もいるかも。でも当時は戦後41年も経っていて戦後ではないし、貧しい時代では全くありませんでした。それどころかちょうどバブルの始まりのころ、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』というエズラ・ヴォーゲル氏の著書が有名になった1979年からもう何年も経っていて日本経済は絶好

ビスマス・古代遺跡・五重塔

 ビスマスという物質がある。金属の一種でその結晶は天然のものもあるが、人工的に作ることもできる。ビスマス結晶は、見る人をハッとさせるような形と色合いを持っている。人はある程度まで、その結晶化の条件を整えることができる。しかし、その最終的な形までコントロールすることはできない。それは「作り出す」ものというより「現れ出る」ものである。それは人間が作ったものでありながら、人間の思惑や期待を超えている。  ビスマスと似たものを、私は中南米で何度も目にした。そのうちの一つは、メキシコ

想定していなかった会計研究者という進路

 私は現在、会計学の研究者として働いていますが、もともとは農業経済学を勉強するつもりで大学に進学しました。それがなぜ今のような仕事をしているのか、どうして会計学の研究者という想定外の進路に進んだのかを説明しようと思います。私が伝えたいメッセージは、「偶然の出会いを大切に」ということです。  私は、大学入学時には農学部と一般に呼ばれるところに入学しました。もともとは農業経済学という分野に興味を持って、勉強してみようと思っていました。ところが1年目に履修したマクロ経済学・ミクロ

事例を通じてマーケティング「論」を学ぶ

 大学教員という仕事柄、入試で高校生に面接を行う、あるいはゼミ選考の一環として面接を行うことがあります。その際、よく聞かれるのは、「マーケティングは身近な学問なので、楽しい」、「マーケティングは社会に出て役に立つので、大学で(ゼミで)実践的に学びたい」といった言葉です(忖度している?)。皆さんが興味を持ってくれていることは嬉しく思いますし、私も大学入学時に皆さんと同じような思いを持ち、それが今に続いているのかもしれません。ただ、1人の教員として若干気になってしまうのは、皆さん

砂漠のサリー

 ここのところ、航空業界はさっぱり振るわないと聞く。私の妻子も、この2年ほど、花の都とその周辺をうろつくばかりで、日本の土を踏んでいない。Liberté(=自由)の国に馴染んだ彼ら(主に妻)には、2週間の自主隔離が大変な重圧であるらしい。私とは感覚が違うが、旅費を負担する身としては、あえて異を唱えるまでもない。しかし、ここでFraternité(=友愛)の精神を発揮して迂闊に慰めたりすると、同情するなら米をくれ、とばかりに、彼の地で入手困難な和食材を私に持って来させようとする