わくわくする学びとどのように出会うのか
「ご専門は?」と問われれば「発達心理学です」と私は答えます。でも大学に入ったころの私はたぶん「発達心理学」という用語を知っていたかどうかもあやふやです。皆さんは、大学でご自身が深める専門領域について、どのくらいご存知でしょうか。その領域で自分が目指したいものが現在の自分なりに見出せているでしょうか。
すでに明確な目標を見据えている人もそうでない人も、学びの在り様は人それぞれです。「これだ」と見据えて大学に入学したものの、青年期の様々な出会いの中で目標が揺らぐことはしばしば起こります。自分の目標が定まらなかったり、分からなくなったり迷いにはまり込むと、目標を定めて一心に進む人を見て焦り、劣等感を感じたりもします。でも迷うのは当たり前なのです。迷いながら選択を繰り返すこと、そこに意味があると思ってほしいのです。
かくいう私はかなり迷いながら学生時代を過ごしました。そんな私の学生時代の、一つの学びとの出会い方を聞いてください。
自分には何かが足りないという焦りと試行錯誤
私の入学した大学は、2年間の教養課程を経て専攻を決定する仕組みだったこともあり、最初の1年半は大いに迷いました。元々「人間」への興味関心を深めたい思いはあるものの、私の場合は「伝統的な心理学」は違うと感じてしまう。本との対話、友人、家族との対話だけではその先が見えず、灯りが見えないのです。生きた人間、生活まるごと、その中から見出す課題に向き合いたいと、偉そうなことを言っていたかもしれません。現実に役立ち感のある「実践的な力」を求めていたのでしょう。
たまたま地元の中学校の知り合いが障害のある幼児の親子通所施設の保育士をしていることを耳にしました。ぜひ施設訪問してみたいと思い立ち、そこから約1年間の通所施設通いが始まりました。月に2、3回程度だったと思います。ボランティアとして幼児と一緒に遊んだり、裏方のお手伝いをしたりしました。今思えば保育士の知り合いは新人だったはず。でもキラキラ輝いて頼もしい存在に見えました。
障害のある子どもたちとの関わりは楽しかったのですが、今目の前にいる子どもの変化が読み取れなかったり、育ちの上での課題が話題になっても実感として把握できなかったり。そのうちに子どもを捉える自分の視点の貧弱さばかりが気になるようになってしまいました。まだまだ親御さんと楽しくおしゃべりする人間力もありませんでしたし。
「子どもの育ちが何も見えないで参加している私は何?」
そんな思いからだんだん向かう足取りは重くなり、1年たったところで施設参加を取りやめました。
「実践的な力」の前に「基礎基本」、そして両者の往還
社会で意義ある実践をしたいなら、その背後にしっかりとした基礎基本の力をつけなければだめだ、ということを肌感覚で学んだのです。私の場合は、実践の場での試行錯誤なしにはそのことに気づけなかったでしょう。
ボランティア中断には後ろめたい思いが多少ありましたが、それは自分が前進するための中断であり、今自分が注力すべきことを見出した途中経過だと思いました。それからは「学ぶ意味」に気づき、学修に対するわくわく感が増した記憶があります。子どもの発達が分かるようになりたい、という強い思いが生まれたのです。継続的なボランティアは中止しましたが、保育所の単発の見学等色々な体験の場への参加は経験しました。
当時の心理関係の職業は、現在のような資格等体系だったものとはなっていませんでした。そうした中で、細くても長く「子どもの育ち」に関わっていきたい、という思いを強くし、大学院進学という選択をすることになったのです。
継続的な学びを支えたのは学びの仲間の存在
大学院生になってからの実践現場との出会いはわくわくする学びに満ちていました。「子どもがこんな行動をするのはなぜなのか?」「どんな力が育っていて、どんなつまずきが起きているのか?」「親や保育者、友だち、そうした周囲との関係がどのような影響を与えているのか?」湧き上がる疑問は子どもの姿が見えてきたからこその疑問です。疑問を切り口に、子ども理解の深まりを感じることができ、それがわくわく感に結びついていたのです。
このわくわくした学びを支えた一番の要因は仲間との学び合いでした。自分の捉えた課題を仲間と共に検討し、自分の見方と異なる視点に気づかされる経験が、私の人生を決定づけた気がします。実践そのものの持つ力は大きかったのだけれど、継続的な学びを支えたのは学びの仲間の存在でした。
大学という所は、現実から何かを切り出す力、見出す基盤となる力を蓄えるところです。理論的学びと実践を往還しつつ、それぞれの課題を探究していく所です。自由な社会的交流が制限されがちな状況ではありますが、ぜひ皆さんには学びの仲間を見出してほしいと思います。
『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために各学部の先生方に執筆して頂いています。