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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。 この連載では最新の『学問への誘い 2023』からご紹介していきます。…
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#大学

自分を磨くために|奥山 茂

 学生時代に3年次のゼミナールでは「批判とは何か」というような課題を与えられ、図書館にこもって四苦八苦した経験があります。その際に、最も初歩的な批判としては誤字・脱字の指摘、文章の不備の指摘があることも知りました。大学院のゼミナールでは後輩の学部生にそのような批判をしつつも、自らも徹底的な批判を受ける立場にあったことと、その際に、「間違い・不備に気付かなければその当事者と同レベルかそれ以下だ」と指導教授から指摘されたことが懐かしく思い出されます。  さて、ここではそのような

異国に行って学ぶこと|灘山直人

 異国に行くと何か新しい刺激を得られるような気がする。日常から離れた場所に身を置くことで、気分転換できるとともに、もしかしたら日本にはない刺激を得られるのではないかと心のどこかで期待する。それは出張中の会社員であっても、旅行中の家族であっても、留学中の学生であっても、定年退職後に海外移住した人であっても共通して抱くものではないだろうか。私もそんな異国での刺激を期待して30歳を過ぎてフィンランドで暮らし始めた。最初は何でも面白く映り、日本との違いを探せばいくらでもあった。気候、

名言とともに「学ぶ」を考える|辻 勇人

 人生はよく山登りに例えられます。大学に入学した時点が頂上で、後は楽勝!と考える人も居るようですが、頂上に見えたのは実は単なる小さなコブであり、卒業後の社会ではもっと険しい道が待ち構えていることに気づきます。その険しい道を走破するためにも、大学でぜひ身につけてほしいことがあります。先人の言葉をもとに少し具体的に見てみましょう。 『教育とは、学校で習ったことをすべて忘れた後に残っているものである』  光電効果や相対性理論で有名な物理学者、アインシュタイン博士の言葉です。これ

学問することはモノの収集からはじまった|角南聡一郎

津山という土地  私は岡山県の北部、津山市という人口約10万の盆地で生まれ育ちました。津山市付近は勝田層群(第三期中新世)が広がり、化石の産地としてマニアの間では知られた土地です。また、津山盆地には旧石器時代から江戸時代までの遺跡が各所にあり、考古資料との距離は近く感じられました。こうした環境は私のその後の人生に大きな影響を与えました。 化石採集への情熱  昭和37(1962)年、市内松原の吉井川河原で、中学生がクジラの化石を発見しました。その後の調査で、約二千万年前のほぼ

外国語習得の秘訣|彭 国躍

 「勉強には秘訣なんてないよ。頑張るしかない」と言われたら、皆さんはどう反応するのだろう。若い頃の自分なら「そうだろうね」と頷いたかもしれないが、いまの私には、「あるよ。外国語の習得なら、確実にある」と自信をもって言える。しかも「若いほどコツが効く」と念を押したい。  外国語をペラペラしゃべる人が羨ましい。自分もそんな人間になりたい。そう願う学生は、決して頑張りたくないから「秘訣」を求めているわけではない。ほとんどの学生は、「必死で頑張っているのに、なぜ?」という切実な思いを

G・ボワソナードと日本の法制度|白取祐司

 フランス人、ギュスターブ・ボワソナード(Gustave Boissonade)が横浜港に到着したのは、明治6(1873)年11月15日のことだった。マルセイユ港を出たのが9月28日だから、実に90日間の船旅ということになる。余談だが、私はマルセイユに2週間ほど滞在したことがある。昔の佇まいを残した商港で、船旅の起点として当時はかなりの賑わいだったであろう。  明治政府は、日本の近代化を推し進めるために、フランスなど当時の先進国から多くの技師や専門家を任期付きで雇い入れた。政

文化比較を通じて「知る」に至る|中村隆文

よく「自分が何者であるのかを見つけるのが大事だ」とか「自分を見つめなおす必要がある」という台詞を耳にするが、そのためには、自身の内面だけでなく、自分の外部にも目を向ける必要がある。 たとえば、「自分はまじめな学生だ!」と意識していても、友人たちの授業出席率が95%であるということを知ったのちに、70%程度の出席率でしかない自分と比較してみると、最初の自己認識が不十分なことを反省することにもなるだろう。 そう。「自分を知る」というためには、「学生」「若年層」「日本人」etc…

「知」ってなに?|関 真彦

もうずっとはるか昔、私はある大学の文学部に入った。 というか入ったつもりだった。 しかしその大学では最初の二年間、教養学部に入れられ、小説を読む授業なんて週に一回あればいいほうで、ずっと政治だの法律だの仏教だの、当時の私にとっては何の役に立つのかわからないことを学んでいた。なんでこんな興味のない授業を受け、粛々とテストを受けて単位を取らねばならないのだ、大学っていうのは義務教育の延長線上にあるのか、そう思った私に大人たちはこれは「知」のためである、と物知り顔に言うのだった

手頃な石を探す旅|海谷治彦

20年ほど前、成田空港から都内に向かう電車の中で、サラリーマン風の男たちの雑談が聞こえてきた。彼らは老人の趣味について語っており、三段階の形態を述べていたと思うが、内一つは忘れてしまった。彼らによると、忘れた何か(一つ)と盆栽を経て、最終的には「石磨き」に到達するらしい。 そういえば、亡くなった祖父も石磨きをしていたことを思い出した。当時まだ若かった私は、さすがに自分にはまだ早いなと思いつつ、それでも、磨くのに手頃な石を探すのは良いかなと思うようになった。 こうして、手頃な

「当たり前」が「当たり前」ではない|芦田裕介

改札を抜けると、そこは迷宮だった― 渋谷や新宿、東京や横浜などの大きなターミナル駅に着くと、私はよくそんな経験をする。出口に向けて歩いているはずなのに、一向に地上の光が見えてこない。それどころか、途中でほかの路線やショッピングセンターに迷い込んでしまう。ようするに、駅のなかで迷子になるのだ。そんなときに私は、「ああ田舎者だな」と思う。 私が生まれ育ったのは、岡山県の北部にある山と田んぼに囲まれた小さな町だ。実家から近くのバス停やコンビニまで行くのに、車で10分以上かかる。

法学とはどういうものか|小谷昌子

わたしはラジオを聴くのが好きなのだが、ここ数年、夏休みや冬休みによく聴いているのがNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』である。中学三年生までの「子ども」からの「なぜ鏡に映ると左右が逆になるの?」「なぜ魚はアニサキスでお腹が痛くならないの?」といった素朴な疑問に、その道のプロの先生が答える番組である。 2017年8月30日放送の『夏休み子ども科学電話相談』では、「どうしてパンツを履かなければいけないの?」という質問が寄せられた。つい笑ってしまいそうになる質問だが、自然科学的

クリエイティブ・マインド ―ものごとを見る目とクリエイティビティ―|道用大介

大学では様々なことを学びますが、私はみなさんに「ものごとを見る目」と「クリエイティビティ」を大事にしてほしいと思っています。経済・経営系の学部ではその分野の理論、分析手法、過去の事例、価値観などを学びますが、これらは「ものごとを見る目」を鍛えていると捉えていいでしょう。しかし、一方で文系学部での「クリエイティビティ」というとピンとこないかもしれません。 クリエイティビティというのはものごとをよく見て、感じ、考え、自分の外に適切な形でだしていく(形にしていく)ことだと私は考え

今さら聞けない……「わからない」との付き合い方| 品川俊介

みなさんは、インターネットで何かを調べる際、「今さら聞けない○○」というタイトルがつけられたサイトを目にしたことがありませんか? Amazonで書籍を検索してみても、(私の専門とする経済学の本を含め)『今さら聞けない~』と題されたものが多数ヒットします。これらのことが本当に「今さら聞けない」かどうかは別として、このようなタイトルは人の目を引くために有効であると考えられているのでしょう。 たしかに、世間では常識とされているようなことを、自分が「知らない」「わからない」というこ

宇宙エレベーターへの挑戦|江上 正

宇宙エレベーターをご存じだろうか? 地上から天空の宇宙空間にある静止衛星さらにはその先までテザー(ベルト)を伸ばし、それに沿ってクライマー(自走式昇降機)で昇降するという構想である。 宇宙エレベーターの構想にはいくつかあるが、宇宙エレベーター協会も指針にしているNASAの関係者が提唱している構想を紹介しよう。これによるとテザーに沿ったクライマーの想定速度は新幹線並みであり、地上から約3万6000km上空の静止軌道までほぼ一週間かけて行くことになる。これならば宇宙ロケットの