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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。 この連載では最新の『学問への誘い 2023』からご紹介していきます。… もっと読む
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#外国語学部

多言語社会の日本

世界はますます多言語になっている。世界の人口を見ると一つの言語を話すモノリンガルの人より二つ以上の言語を話すマルチリンガルの人が多い。英語圏の国も多言語になっている。アメリカでは約 2 割の家庭は、スペイン語をはじめ英語以外の言語を使用している。また、オーストラリアのおよそ四分の一世帯は、家庭内で英語以外の言語を話す。 日本は単一言語の国として知られているが実は日本も多言語社会である。一例を挙げれば北海道には昔からアイヌ語が存在し、アイヌ語の地名は多数ある。沖縄にも琉球諸語(

ビスマス・古代遺跡・五重塔

 ビスマスという物質がある。金属の一種でその結晶は天然のものもあるが、人工的に作ることもできる。ビスマス結晶は、見る人をハッとさせるような形と色合いを持っている。人はある程度まで、その結晶化の条件を整えることができる。しかし、その最終的な形までコントロールすることはできない。それは「作り出す」ものというより「現れ出る」ものである。それは人間が作ったものでありながら、人間の思惑や期待を超えている。  ビスマスと似たものを、私は中南米で何度も目にした。そのうちの一つは、メキシコ

好奇心と興味の種まき|西田依麻

幼少期の思い出  「よ・う・ち・え・ん?」  「そう。幼稚園っていうのよ」 そう初めて母に教えてもらった。私たちは散歩の途中、とある幼稚園の前に立っていた。午前中だったのだろうか。私の目に映る、私よりちょっと年上に見えた男の子たちや女の子たちが沢山いた。そして、彼らはその「ようちえん」という所の庭で大きな声を出して走りまわったり、砂場で泥団子を作ったり、滑り台やブランコで遊んだりしていた。みんなの笑顔と楽しそうな声そのものが、つまり、「ようちえん」なんだと思った。門越しに

外国語習得の秘訣|彭 国躍

 「勉強には秘訣なんてないよ。頑張るしかない」と言われたら、皆さんはどう反応するのだろう。若い頃の自分なら「そうだろうね」と頷いたかもしれないが、いまの私には、「あるよ。外国語の習得なら、確実にある」と自信をもって言える。しかも「若いほどコツが効く」と念を押したい。  外国語をペラペラしゃべる人が羨ましい。自分もそんな人間になりたい。そう願う学生は、決して頑張りたくないから「秘訣」を求めているわけではない。ほとんどの学生は、「必死で頑張っているのに、なぜ?」という切実な思いを

文化比較を通じて「知る」に至る|中村隆文

よく「自分が何者であるのかを見つけるのが大事だ」とか「自分を見つめなおす必要がある」という台詞を耳にするが、そのためには、自身の内面だけでなく、自分の外部にも目を向ける必要がある。 たとえば、「自分はまじめな学生だ!」と意識していても、友人たちの授業出席率が95%であるということを知ったのちに、70%程度の出席率でしかない自分と比較してみると、最初の自己認識が不十分なことを反省することにもなるだろう。 そう。「自分を知る」というためには、「学生」「若年層」「日本人」etc…

「学ぶ」は、楽しく力強い| 松浦智子

数年前の夏、中国の西北地域に石碑の調査に向かった時のことである。 日中、車にガタゴトと長いこと揺られた末に、ようやくその日の宿を見つけて部屋に入り、一息いれようとしたところだった。 「定例検査です!」 との声とともに、半開きだったドアから中年警察官が3人ほど入ってきた。 驚いていると、騒ぎを聞きつけ、調査に同行した先輩研究者も現地アテンドの学生と向かいの部屋からやってきた。 「なんか悪いことでもしたの?」と先輩はニヤニヤするが、かく言う自分も以前の調査で顔面を野犬に嚙