「ブラボー!」の名言を長友から最初に引き出した“影のMVP”は誰か

 サッカーW杯の舞台でまたもベスト16の壁を越えられなかった日本代表。
「新しい景色」こそ見られはしなかったが、その快進撃に日本中は熱狂し、列島中が日本代表フィーバーに沸いたと言っていい。

 そうした日本代表ブームをさらに勢い付けたのが、長友佑都が発した「ブラボー!」という言葉だった。

 劇的な逆転勝利を挙げたドイツ戦の後、長友はインタビューでこの言葉を連発。その興奮ぶりは世間でも大きな話題となり、試合後には学校や職場で「ブラボー!」という声が飛び交うなど真似する人が続出した。

 堂安律が言うように、発表があと数週間遅ければ今年の流行語大賞は間違いなくこのフレーズだったはずだ。「ブラボー!」は長友の代名詞となり、それほどまでに世間に定着した。社会にこれだけのムーブメントを起こせるあたりに、W杯や日本代表の凄みを感じる。

 では、そんな神フレーズを長友から最初に引き出したのは誰だったのだろうか?

 今大会の盛り上がりを語る上で、ABEMAで解説を務めた本田圭佑の存在は欠かせないが、私は長友に「ブラボー!」と言わせたこの人物こそ影のMVPだと思っている。

 ドイツ戦の直後、長友にインタビューをしていたのは、J1のヴィッセル神戸に所属する元日本代表DFの槙野智章だった。

 周囲を笑顔にする底抜けの明るさと、Jリーグ屈指のコミュニケーション能力を持つことで知られる槙野。今大会ではABEMAの解説者として現地カタールに渡っており、この一戦ではピッチ解説として試合後のインタビュアーを務めた。長友は同年代で(槙野が1学年下)、2018年のロシアW杯や2019年のアジアカップでは日の丸のユニフォームを着て共に戦った仲だ。

 長友の表情を見ていると、インタビュアーが槙野だったからこそ素の自分を出せているような印象がある。
 実際に長友は槙野を指差しながら「ブラボー!」と絶叫している。インタビューブースに到着した際も、興奮を隠しきれず槙野とハイタッチをして熱い抱擁を交わしていた。あの名言が誕生した背景には、こうした感情の高ぶりがあったのだ。

 もし質問したのが関係性の薄いアナウンサーであれば、一体どんなインタビューになっていただろうか。
 いくら長友と言えどやはり冷静になり、ここまではっちゃけた姿は見せていなかったはずだ。共に日の丸を背負った同志で、心許せる存在の槙野だったからこそ、「冷静に見直すと怖くなった」と本人が振り返るほどの感情をさらけ出せたのだ。

 話は脱線するが、本大会出場を決めた最終予選のオーストラリア戦後、
内田篤人のインタビューに長友が「内田さん、サッカー教えてください」と答えるシーンが話題になった。もちろん勝利した喜びがそうさせている部分はあるだろうが、普通のアナウンサーではこれほどの笑顔は引き出せない。

 この動画はDAZNの公式YouTubeにアップされた全投稿の中で4番目に多い再生数を記録している。インタビューでありながら、だ。それほど多くの人が選手同士のやり取りを見たいと思っているわけだ。

 このインタビューでは他にも吉田麻也や三笘薫、守田英正が非常にいきいきとした表情を見せていた。

 さて、ここから導き出せる結論は何か。

 それは、インタビュアーが「選手に何を語らせる存在であるか」は「何を聞くか」と同じくらい重要だということだ。
 選手だって人間だ。人となりを知らない人に聞かれるのと、知っている人に聞かれるのとでは反応も変わってくる。
 もちろん、取材者と選手の間には一定の距離が必要であることは理解している。しかし、関係性が深い人にしか引き出せないものがあるのも事実。数千万人の国民がリアルタイムで視聴するW杯のフラッシュインタビューでは、やはりそちらの方のインタビューを見たいと思う人が多いはずだ。

 そういう意味で、この試合のインタビュアーに槙野を抜擢したABEMAは素晴らしい仕事をしたと言える。

 槙野の質問には、選手に「答えたい」と思わせる要素が詰まっていた。

 選手への敬意と愛、選手目線の分かりやすい質問、抑揚、力強い語り口。それらに加え、満面の笑みとハグで出迎えられれば、選手としても気持ち良く話せるに決まっている。
 現役のトッププレーヤーにこういうことができてしまうのだから、もはやインタビューでアナウンサーの出る幕はないのではないかとさえ思ってしまう。
 
 今大会を通して、解説者という仕事をとにかく楽しんでいた印象のある槙野。日本がベスト16進出を決めたスペイン戦の直後、「ゴールを決めた選手の表情なんかもうたまらんっすね。目の前でしたから」と我が事のように喜んでいたのが印象的だ。
 また解説者として今回のW杯に来たことについて、誰よりも現役にこだわり続けた中山雅史に「悔しくないですか?」と聞かれ、「それが悔しくないんですよ、僕は。(中略)本当に率直におめでとうと言いたいし、みんなが羨ましいというか、かっこいいなと思いました」と素直に答える姿も、仲間思いな一面を感じさせた。
 
 日本で大バズりした「ブラボー!」だが、それを引き出した影のMVPがいたことも忘れてはならない。
 そして、日本代表戦を中継する各局には今後もこうした人材をインタビュアーに据えてほしいと切に願う。

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