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成田名璃子 「東京すみっこごはん 親子丼に愛をこめて」読了

こんにちは、ジニーです。

今回の感想は成田名璃子さんの「東京すみっこごはん 親子丼に愛をこめて」です。

とても大好きなこのシリーズも、今回で第3弾。
基本ミステリー好きの僕ですが、大作を読んだ後には結構ライトなものが読みたくなったりするもので、そういったときに本シリーズは非常に重宝します。

まずは簡単にシリーズのおさらい。
東京すみっこごはんとは、作中に出てくる共同食堂の名称です。
様々な人間が共存する都市、東京。
そんな都会の片隅、とある商店街のわき道にある古ぼけた一軒家。

縁もゆかりもない老若男女が集い、食を共にする場所。
くじ引きで食事当番を決めて、当番になった人は食堂にあるてづくりのレシピ帳に沿って、みんなに手作りご飯をつくって振舞う。
素人だけど関係ありません。
まずくたって黙って食べる。
そんなルールのちょっと変わった場所です。

今回の「親子丼に愛をこめて」では、
■念のため酢豚
■マイ・ファースト鱚
■明日のためのおにぎり
■親子丼に愛をこめて
の4つの短編から構成されています。

今回の作品はこれまでのシリーズに比べて「愛」や「恋」の色合いが濃い作品になっているなという印象です。
恋愛にメリットを感じないOLや片想いの気持ちを秘める学生、引退を決めて何もかも空虚に感じるボクサー、子連れの男性と結婚したキャリアウーマン。
いろんな立場の主人公が「愛」や「恋」にまつわる悩みを抱えつつ、すみっこご飯での食事とメンバーとの会話を通してその悩みと立ち向かったり、本当の自分と向き合っていきます。


個人的にはこれまでよりも挑戦的な取り組みがされているように感じました。

もともと本作のテーマの一つなのですが、どちらかとこれまではちがうタイプの人との交流だったり、友情だったりというものが多かったのですが、先ほども書いた通り「愛」や「恋」に特化してるところとか、少しミステリ的な要素(叙述トリック的な?)が含まれているところとか、なんか今までの作品からのマイナーチェンジをそこここに感じられてまた新しい味わいを楽しめました。

「愛」や「恋」って否応なく自分自身と向き合うことになるので、各物語の主人公が壁にぶつかってもがく姿も描かれています。
それは読み手となる僕らも少なからず通ってきた壁でもあって、読みながら共感したり、エールを送りたくなる気持ちになったりなんだかいつも以上に没入してしまった気がします。

まぁ、なんやかんやひっくるめてやっぱり面白いんです。


本作の素晴らしいところは、読んでいるうちに前向きな気持ちが芽生えてくるところだと感じています。
今回はそ特にその部分を強く感じました。

僕自身も「食」、食べることは生きている中で一番幸せを感じる瞬間でもあり、生きていくための力を蓄えている気持ちにもなります。

登場人物みんなが、東京すみっこごはんでの食事とそこにくるメンバーとの会話を通して壁に立ち向かっていく力を強く持っていく姿にこちらも強さや力をもらえるのです。

ミステリで疲れた頭や心に、新しい力が湧いてくるから、無性に読みたくなるのかもしれません。


改めて、食卓にはいろんな大事なものがたくさん詰まっていると感じます。
食べる、話す、笑う。
僕たちの力の源があふれる食卓を、大切にしていきたいと感じる温かさを思い出させてくれる「東京すみっこごはん」。
みなさんもぜひ手に取ってみてください。


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