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読書感想 松井玲奈「カモフラージュ」

今回読んだのは、松井玲奈さんのデビュー作、「カモフラージュ」です。
もともとSKE48推しだった僕からすれば、絶対読まなくてはいけない作品でした。
アイドルとして知っている松井玲奈という女性が書く小説がどんなものなのか、とても気になっていました。

■読んでみた感想

結論から書くと、非常に意外な作品でした。
なんていうんだろう、予想だにしない人の見にくいところが表現されていて、切なさがギュッと詰め込まれたような作品でした。


先ほども書きましたが、彼女は数年前まで国民的なアイドルの一員でした。
SKE48の正規メンバーでありつつも、AKB48の選抜にも常連のように選ばれていました。
僕らの目には、どちらかというとそういった華やかな場でのアイドルとしての彼女を目にすることが多かったわけです。

だから、ご本人には大変申し訳ないのですが、キラキラした内容の小説がデビュー作としては執筆されたのだろうという、勝手な憶測がありました。

ところがですよ。
キラキラどころか、言葉を選ばずに言えば、ドロドロしたものが多く、完全に松井玲奈という人物を誤解していたなと思いました。

イメージの違いを先行して書いていったため、読みにくい小説と感じてしまった部分もあったかもしれなので、ちゃんと言っておきますが、非常に読み応えのある、面白い作品でした。
誰しもが持つ、誰にもいない部分を上手に切り取り、みずみずしい形でまるで鏡のように映してくるその文章からは、次のページを捲りたくなる気持ちが自然と生まれていきました。

■内容について簡単に説明します


本作は7編の短編からなる短編小説です。
物語ごとに、OLや少年、youtuber・・・など、実に起用にいろんな主人公からの視点で物語を紡いでいます。

そのどれもに、松井玲奈という一人の人間の中にある、多角的な視点が、誰しもに共通して生まれる影の部分を浮き彫りにしていきます。
そう、影の部分、負の部分を切り取ることがこんなにも巧い作家とは思わなかった。

僕らはどちらかというと、前向きさやポジティブを求めがちです。
しかし、光のある所には影が生まれるもので、それらは表裏一体の関係性にあります。
だから、風の部分を無視することはできないし、生きる中で影の部分が大きくなる瞬間もある。
じつは、そういったところに人間の本性が出てくるものだと思うし、そういったときに人間は変わっていくのだと思います。

本作には、前述のとおり、影の部分を浮き彫りにした作品が中心です。
だから、各物語の主人公はすべて変化を迎えます。
ここに、本作の一つの見所が凝縮されているように感じました。

変化とは、過去との決別であり、新しいものの受容でもある。
そこに生まれる感情の動きに、読み手は静かに心動かされるものがあります。

■タイトル「カモフラージュ」というのは、まさしくだと感じた


タイトルである「カモフラージュ」。
すべての物語の主人公たちが、それぞれの影を抱えながら、普通であろうとする
その様子を的確に表したタイトルですね。
そして、それはそのまま僕たちにも向けられています。
鋭く、冷たく、無機的に。
小説という形にカモフラージュして。

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