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32年前のクラプトンとジョージ



 32年前にエリック・クラプトンのステージを初めて見て以来となる彼のライブを日本武道館で2023年4月24日(月)に見てきた。「プリテンディング」と「バッジ」は1991年の冬を私に思い出させた。
 91年11月28日、エリックは自分のバンドとともに兄貴分のジョージ・ハリスンの日本ツアーをバックアップするために来日した。結果として最初で最後となるジョージのソロでの日本ツアーとなった。
 今回(2023年)は、エリックにとって通算23回目となる日本公演。2曲目は「プリテンディング」。32年前は東京ドームだったが、エリックは、ジョージの途中休憩中に設けられた自身のコーナーで演奏した。
 そのエリック・コーナーでは4曲演奏したが、その中にはジョージとの共作曲「バッジ」もあった。「せっかくなのだから二人で演奏すればいいのに」と思ったが、ジョージはステージに出てこなかった。
 遠い記憶が蘇ったエリックの2023日本武道館ライブだった。
 

では、32年前に「出不精」ともいわれていたジョージの日本公演がどうして実現したのだろうか。エリックにいわせると、1990年に世界ツアーを行っている時、どこに行ってもジョージの近況を尋ねられたのだという。
 エリックはジョージにそのことを伝えて、次のように言ったというー「もし君が僕たちと何かしたいのならば、喜んでバックアップするよ。自分でバンドを持たなくてもいいだろう。考えておいてほしい」(Ashley Kahn編「George Harrison on George Harrison」Chicago Review Press)。
 ジョージは1974年に北米ツアーを行ったが、批評家たちからネガティブな意見が相次いだ。7週間にわたる27都市50公演というスケジュールだった。リハーサルで喉を傷めてしまい、しゃがれ声になってしまった。
 苦い思い出もあり、エリックからの誘いにジョージは迷ったという。だが次のように考えたー「遅かれ早かれ、ぼくは何かをしなければならない。さもなきゃ、ぼくは永遠にツアーが出られなくなってしまうだろう」。
 また別の見方もある。エリックは息子を高層マンションからの転落事故で亡くしたばかりで、そのエリックを元気づけようとしてジョージが持ち掛けた日本ツアーだという説である。ただ、このことにエリックもジョージも言及しているのを読んだことが今のところないのだが。
 そうして日本ツアーを決断したジョージ。そのツアーの予定が伝えられるや、さっそく盛り上がりを見せた。
 テレビでは特番が組まれ、本国でリハーサル中の2人を取材。車に乗って現れたジョージは、スポンサーがホンダであることにひっかけて「ごめん。この車、ホンダじゃないんだ」とジョークを一発かました。
 エリックがギターに穴をわざわざあけて吸いかけの煙草を入れられるようにしていることをジョージがからかったりする場面もあった。エリックは一貫してジョージを兄貴分として立てている様子が伺えた。
 ジョージの来日はビートルズの日本公演以来25年ぶりのことだった。91年11月28日、熱狂的なファンおよそ100人が成田空港で出迎えた。翌29日には、ビートルズと同じキャピトル東急ホテルで記者会見が開かれたが、報道関係者が約600人詰めかけ、会場を埋め尽くした。
 会見でジョージは「京都に行って、お寺を見たい。一番いい時期ではないようだけど、あと26年後に来られるかどうかわからないからね。あと電気屋に行って電動歯ブラシでも買うよ」とジョーク交じりに話していた。
 12月1日、横浜アリーナで、約2週間12公演の日本ツアーがスタート。とりわけ観客を興奮させたのがアンコール1曲目で、ジョージとエリックのギター・バトルが堪能出来る「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」。締めは「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」。ビートルズのツアーでもジョージが歌っていたチャック・ベリーのカバーだ。間奏でレイ・クーパーがパーカッションを派手に叩いて、大いに盛り上げた。


  ザ・ビートルズ・クラブの「ジョージ・ハリスン日本公演全記録」によると、12月4日の大阪でのオフ日、京都に行こうとしたが、お目当ての苔寺(西芳寺)が参観出来ないことを知って、取りやめた。
 次のオフ日だった広島での12月7日。平和記念公園周辺を散策。原爆資料館を見たり、公園の平和の鐘を鳴らしたり、散歩を楽しんだ。原爆資料館では大変なショックを受けていたという。
 12月13日の大阪から東京へ移動中の新幹線車内では、オリビア、息子のダニー、バンドのメンバーらと一緒にビートルズ・ナンバーを歌っていたという。「ノルウェーの森」、「ノーホエア・マン」、「悲しみをぶっとばせ」などが聞こえてきたという。
 

 
 

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