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ガウディ創造の源泉

 スペイン北東部カタルーニャ地方のバルセロナで建設が進められている聖堂サグラダ・ファミリアに焦点を当てる。それを手掛けた建築家アントニ・ガウディの建築思想と造形原理を読み解いていく『ガウディとサグラダ・ファミリア展』が幕を開けた。
 2023年9月10日(日)まで、東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)で開催されている。(会期中一部展示替えあり)
 同年9月30日(土)から12月3日(日)まで佐川美術館(滋賀県守山市水保町北川2891)、そして2023年12月19日(火)から2024年3月10日(日)まで名古屋市美術館(愛知県名古屋市中区栄2-17-25 美術と科学の杜・白川公園内)に巡回する予定だ。
 サグラダ・ファミリア聖堂会長でバルセロナ大司教のジュアン・ジュセップ・オメヤ・イ・オメヤ枢機卿は同聖堂について述べている。
 「私たち一人一人、そして人類全体に向けて、その美しさと創造主の美しさ、善意と計り知れない愛を表現するスピリチュアルな作品として熟視、賞賛される崇高な作品です。ガウディはまさに「神の建築家」なのです・・・目に見えない心で感じるもの、すなわち、天地創造の美、世界の美、神の願望の反映である人類の善良さを発見できるように私たちを導くでしょう」。

最新技術で聖堂の「空中散歩」が可能に
 開幕を控えて開催された記者発表会で、東京国立近代美術館の鈴木勝雄(すずき・かつお)企画課長は「サグラダ・ファミリア聖堂を中心に据えてガウディの建築を考察しています。聖堂を作りながら成長し変化してきたガウディの創造の源泉を紐解き、追いかけてゆきたい」と語った。
 鈴木企画課長は見どころとして4つ挙げたーー①ガウディの創造の源泉を探る②サグラダ・ファミリア聖堂の建設プロセスを明らかにする③総合芸術としての同聖堂の豊かな世界を紐解く④NHK(日本放送協会)と協力して最新の4K映像を使って同聖堂の「空中散歩」を可能に。
 サグラダ・ファミリア聖堂主任建築家のジョルディ・ファウリさんは「この展覧会によって、サグラダ・ファミリア聖堂が今後どのように進化していくのかが、ご覧いただけると思います」と胸を張った。
 外尾悦郎(そとお・えつろう)サグラダ・ファミリア聖堂彫刻家は45年間、同聖堂に携わってきた。1978年に渡欧した。当初3か月の予定だったはずが、サグラダ・ファミリア聖堂が魅力的だったがゆえに、そこに留まり、仕事をすることになったという。
 「今人類が抱えている問題を少しでも解決していくために必要な、大切なヒントが得られるのではないかと期待しています」と外尾さんは述べた。

(左から)鈴木勝雄(東京国立近代美術館 企画課長)さん、鳥居徳敏(とりい・とくとし=神奈川大学名誉教授)さん、ジョルディ・ファウリ(サグラダ・ファミリア聖堂主任建築家)さん、外尾悦郎(サグラダ・ファミリア聖堂彫刻家)さん

 
イスラム建築などを含む総合芸術を志向
 
ガウディの独創性は、西欧のゴシック建築とスペインならではのイスラム建築、さらに生まれ故郷であるカタルーニャ地方の歴史や風土などを深く掘り下げることによって、時代や様式を飛び越える革新的表現に到達したといわれている。
 スペインは中世にイスラムの国となり、およそ800年間イスラム教とキリスト教が共存する時代を経験した。スペイン南部は今でも当時の面影を残し、コルドバには大モスクがあったりグラナダのアルハンブラ宮殿などイスラム建築の至宝を誇っている。ガウディもそれらに注目し影響を受けた。
 ガウディは図面というよりは膨大な数の模型を作ることでサグラダ・ファミリア聖堂の構想を練り上げていった。
 ネオ・ゴシックにスペインの特色が加わった「降誕の正面」を飾る彫像を自ら手掛け、聖堂において聖書の内容を表現する彫刻の制作にも取り組むほか、「聖堂は瞑想の場でもあるべき」との考えから外観・内観の光と色の効果にも気を配るとともに、建物の音響効果にも工夫を凝らした。
 つまり、ガウディは諸芸術を融合する総合芸術を志向したのだ。

完成時期が視野に入って来たサグラダ・ファミリア
 ガウディは1883年、サグラダ・ファミリア聖堂2代目建築家になった。そんなサグラダ・ファミリア聖堂はいったい誰の発案ではじまり、その後のおよそ140年の間にどう変遷していったのか。
 サグラダ・ファミリア聖堂の建設は、資金不足やスペイン内戦の影響などを受けて、何度か中断を余儀なくされたこともあった。ガウディが生前に関わることが出来たのは地下礼拝堂と「降誕の正面」に限られた。

地下礼拝堂の写真など
サグラダ・ファミリア聖堂、受難の正面 写真パネル

 その後の建築家たちは、ガウディが残した写真や模型の断片を頼りに作業を継続してきた結果、完成の時期が視野に収まってきた。
 展覧会では、「降誕の正面」を飾る外尾悦郎と「受難の正面」を飾るJ.M.スビラスクの彫刻を展示。また、NHKが撮影した高精細映像やドローン映像を駆使して、肉眼ではとらえられない視点で聖堂を散策する「空中散歩」が実現。
 さらにはステンドグラスを通過した光が聖堂内を彩る景色の変化にも要注目。「マリアの塔」が完成し、「イエスの塔」の建設という最終段階に向かう聖堂の現在の姿を、最新技術で伝えている。

《サグラダ・ファミリア聖堂、マルコの塔模型》2020年、サグラダ・ファミリア聖堂

 休館日は月曜日(ただし、7月17日は開館)と7月18日(火)。 開館時間は午前10時から午後5時まで(金・土は午後8時まで/入館は閉館時間の30分前まで)。観覧料は一般2200円、大学生1200円、高校生700円、中学生以下無料。

本展ポスタービジュアル
サグラダ・ファミリア聖堂内観 ⓒFundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família


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