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救いのみほとけ

 お地蔵さまと呼ばれて親しまれている地蔵菩薩。おそらく日本人の誰もが知るほとけです。しかし、日本で最初に仏教が盛んになってきた飛鳥時代から奈良時代には、まだそれほどの信仰を集めていませんでした。
 平安時代、地蔵はだんだんと尊ばれるようになり、さらに平安後期に入って、衆生救済のほとけとしての信仰が確立。それ以降、地域や時代を超えて崇められ、それとともに数々の仏画や仏像が作られた。
 根津美術館(東京都港区南青山6-5-1:電話03-3400-2536)は地蔵菩薩にかかわる収蔵品が重要文化財も含めて豊富。
 同美術館のコレクションの基礎を築いた初代根津嘉一郎が、無神論的思想の広がりを憂いて、晩年に仏教思想の教導のため無宗教寺院の建立を目指したことがあり、仏画や仏像などの仏教美術が数多く所蔵されている。
 企画展「救いのみほとけーお地蔵さまの美術ー」が2023年5月27日(土)から7月2日(日)まで根津美術館で開催される。仏教美術の中でも特に地蔵30作が紹介される。
 開館時間は午前10時から午後5時(入館は午後4時半まで)。休館日は毎週月曜日。オンライン日時指定予約:一般1300円、学生1000円。当日券(一般1400円)も同館受付で販売する。

 初公開となるのは「地蔵菩薩像」(1篇 日本・鎌倉時代 14世紀)。左手に数珠、右手に僧のつえである錫杖(しゃくじょう)を執る地蔵菩薩が、衆生を救うため白雲に乗って下界に向かうさまを表す。このような姿の地蔵像は、鎌倉時代以降数多く制作された。奈良国立博物館所蔵のものと細部までポーズが一致しており、一定の信仰を集めた像容の可能性があるという。

《地蔵菩薩像》 日本・鎌倉時代 14世紀 根津美術館蔵

 「地獄十王図(秦広王図=しんこうおうず)」(10篇のうち1篇 日本・室町時代 15世紀)も注目される作品だ。地蔵菩薩と十王を1篇ずつ全11篇で描いた大作が全体で現存する10篇全体が初公開となったがそのうちのひとつ秦広王図が今回は紹介される。
 これは、死後七日目の「初七日」(しょなのか)に罪業の審判を行う様子を描いたもので、背後の衝立に描かれた山水表現などから、当代一流のやまと絵師が描いた可能性が高いという。

《地獄十王図》 日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵

 重要文化財「地蔵菩薩立像」(1躯 日本・平安時代 久安3年(1147)も公開される。像内の墨書銘から、久安3年に源良兼(みなもとのよしかね)らを願主として、仏師僧快助(かいじょ)によって造立されたことが知られる。在銘の地蔵菩薩像としては最古の遺例。その顔立ちと体躯はいかにも平安後期らしい穏和さを見せている。

重要文化財 《地蔵菩薩立像》 日本・平安時代 久安3年(1147) 根津美術館蔵

 そのほか、重要美術品の「矢田地蔵縁起絵巻=やたじぞうえんぎえまき」(1巻 日本・室町時代 16世紀)も紹介される。

重要美術品 《矢田地蔵縁起絵巻(部分)》 日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵

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