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声は届いた~朝の空に残る白い月を見ると思いだすこと。


朝の空に白い月が残っているのを見つけると
思い出す出来事がある。


それは、
社会人一年目の私が
出勤のため、バス停でバスを待っていた時の話。


仕事もうまくこなせず、
自分のメンタルもバランスが取れなくて
いっぱいいっぱい。

― 仕事に行きたくない。
 …けど、行かなくちゃ ー

ギリギリまで布団の中で、
うずくまっていたけれど
なんとか抜け出して、

普段は自転車で出勤していたけれど
その日はそんな気力もなく、
重い体を引きずってバス停まで来た日のこと。

足元に視線を落としたまま
バスが来るのを待っていた私の背後から
パタパタと可愛い足音が聞こえた。


振り返ると、

幼稚園の制服に身を包んだ男の子と女の子、
そして、保護者の方がやってきた。

どうやら、お迎えのバスがここに来るらしい。

私が待つバス停から少し離れた場所で、
3人は足を止めた。


私は再び、足元に視線を戻して、

男の子と女の子がキャッキャはしゃぐ声を
背中で受け止めながら

ほほえましく、

少し、羨ましく、

でも、何でもないように、


バスが来るのを待っていた。



すると突然、
男の子が大きな声で叫んだ。


「おつきさまー!」


その声の大きさに驚いて、
思わず振り返ると、

男の子が空を指さして言った。

「おつきさまー!
 おつきさま、ねてるよー!」


その指さす方を見ると、

青空に浮かぶ白い月。


素敵な表現だなぁと思うも束の間。


「おつきさま、起きろー!」

 と男の子が声をあげた。

それを聞いた女の子も真似をして


「おつきさま、起きろー!」

 と言い出して、


二人で可愛い大合唱がはじまったのだ。



繰り返される呼びかけ。

それがまた一生懸命で


そんな二人の姿に、

私の灰色の心が溶けて
優しい気持ちが広がっていくのを感じた。


騒がしくして申し訳ないと、
保護者の方が少しおろおろしながら
こちらを見て会釈されたので、

慌てて会釈し返すと

遠くから
乗る予定のバスがやってくるのが見えた。


バスを降りるときには
もう寝坊助の月の姿は
なくなっていたけれど

私の心にはしっかりと
あったかい気持ちが残っていて、


今でも思い出す。


あんなに仕事に行きたくなくて
どんよりした心に

風穴をあけてくれた純粋な声を。

「おつきさまがねてる! おきろー!!」

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