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落語日記 趣味人の若手落語家が熱中している趣味を熱く語る会

「こっちの沼は深いぞ」
7月5日 小さな喫茶店homeri
三遊亭伊織さんが四谷三丁目にある喫茶店homeriで開催している落語会。今回は「こっちの沼は深いぞ」とのタイトルを付けて、ゲストに林家けい木さんを迎え、趣味人であるお二人がそれぞれハマっている趣味に関するトークを披露するという企画。
伊織さんはオートバイの話、けい木さんは「銀河いちスターウォーズを愛する落語家」を自称するほど愛してやまないスターウォーズの話。熱中している趣味の沼にどっぷりと首まで浸かったお二人が、観客を自分たちの趣味の世界に引きずり込もうという趣旨で「沼トーク」をたっぷりと披露。普通の落語会とは、ひと味もふた味も違うもの。
旧三部作の封切り上映のときからリアルタイムでスターウォーズのファンである私は、けい木さんがSNS等でスターウォーズに関する情報を熱心に発信しているのは拝見していて、熱狂的なファンであることは知っていた。そこで、どんなトークが展開されるのか、楽しみに出掛けた。
会場はひっそりと佇んでいる隠れ家のような小さな喫茶店で、そこに少人数で集っている様子は、まるで秘密結社の集会のような雰囲気。マニアとしては、こんな雰囲気によってもテンションが上がる。

三遊亭伊織「寄合酒」
客席を縫うようにして高座に上がる伊織さん。通常の羽織姿で、ここは落語会という雰囲気からスタートだ。
マクラは、ゆったりと思い出話から。青春時代は、町田近辺で過ごした。学校は玉川大学農学部。文系で有名な玉川大学は、理系の校舎は端に追いやられていてキャンパスの一番はずれ。農学部の食堂は、公衆トイレを改装したような雰囲気で、メニューはカレーのみ。そんなエピソードから、じわじわと可笑しさがこみあげてくる。
大学卒業後は、歌武蔵師匠に弟子入りし、前座時代の師匠の自宅にて師匠の身の回りの世話をする修行生活。落語家ならみな通る道だ。思い出として、師匠が作ってくれるカレーの話。このカレーは朝にしか食べないので、食べ切るのが大変。そんな青春のカレーの思い出話は、本編での裏の空き地で味噌を拾ったという与太郎パートでの前振りとなった。
本編へ入った途端、江戸っ子たちが賑やかに騒ぎ出す。伊織さんは、古典の空気を自然に感じさせてくれる。まずは、会場を古典落語の空気で満たしてくれた。

林家けい木「渋沢栄一」
けい木さんは、着物が似合う若旦那風の雰囲気を感じさせながら登場。マクラは伊織さんの話を受けて、ご自身の前座時代の思い出話から。
最近は、弟子が師匠宅へ通うこと自体が少なくなっているらしい。けい木さんは木久扇師匠の元に前座の頃から通っていて、木久扇師匠の弟子に前座がいなくなったこともあって、末弟のけい木さんは二ツ目の今でも、師匠宅で師匠と朝食を共にしている。師匠やご家族も、師弟二人で朝食を共にするのが当たり前の習慣となっている。
そんな、木久扇師匠と二人で過ごす朝食風景、そこで起こった楽しい出来事を笑いの種にして披露。弟子としては大変なことや辛いこともあるだろうが、木久扇師匠と二人で食べる朝食の時間は、他の弟子では味わえない至福の時間でもあるに違いない。
本編は、新しい紙幣の顔になった渋沢栄一を巡る根問物形式の噺。けい木さん作の新作らしい。ちょうど、7月3日に新紙幣の発行が始まったばかりでグッドなタイミング。渋沢栄一はけい木さんの故郷である埼玉県ゆかりの偉人。そんな郷土の誇りの偉人を題材に、的外れな問答を繰り広げる若者とご隠居。落語でよく見る風景に、渋沢栄一ってどんな人という疑問が上手く載って、見事な滑稽噺になっている。

仲入り

林家けい木 沼トーク「続・スターウォーズ沼」
仲入りで、着物からジェダイの衣装に着替えて登場。これは、現在ディズニープラスで配信中のドラマ「アコライト」に登場するジェダイ・マスターのソルの衣装を真似て、自作されたもの。このジェダイに扮した姿を見ただけでも、どれだけ沼にハマっているかが伝わってくる。
登場する際に持参した風呂敷包みから取り出したのは、多くの関連書籍。けい木さんは関連小説の大変なコレクターであるようだ。
スターウォーズは映像作品のみならず、後日談などが小説として発表されいて、翻訳されているものだけでも200冊くらいあるらしい。そのほとんどをコレクションしているというから、ビックリ。前回は映画本編の話が中心だったらしいが、今回はその拡張世界の小説を中心としたスピンオフ作品がテーマのお話。
まずは、映画本編とスピンオフの映像作品や小説世界との関係を手作りのフリップを使って解説。ここには、時系列で並べた作品の一覧図が書かれている。
ここからの話はかなりマニアックなもの。スターウォーズファンとしては、知っていることではあるが、初めて聞く人や興味のない人には少し難しいことかもしれない。けい木さんが分かりやすく説明してくれたことを、ここで手短に記したい。

映画本編の旧三部作(Ⅳ~Ⅵ)と新三部作(Ⅰ~Ⅲ)が公開された時期から、その周辺世界を描いた小説や映像作品がルーカス公認の下で数多く製作された。映画本編だけに留まらず、スピンオフ作品として小説、コミック、アニメ、テレビドラマ、ゲームなどが製作されているのが、スターウォーズの世界。これが、まず前提知識。
その後、ジョージ・ルーカスが制作会社のルーカスフィルムをディズニー社に売却し、エピソードⅥの続編の映画からディズニー社によって製作することに変わった。この出来事が、多くのファンを産んでいた小説などのスピンオフ世界に大きな影響を与えることになる。
ディズニー社が今後、映像作品を作るにあたっては、今までルーカス公認のもと広がっていたスピンオフ世界での設定や筋書きを無視して作ることは出来ない。それらと矛盾を生じないような筋書で映画本編を製作しなければならないという制約を受けることになる。これでは、ディズニー社が今後、スターウォーズ世界の映画やドラマを自由に創作することが出来ない。そこで、ディズニー社が自由なシナリオや設定で製作できるよう考えだされたのが、今までに製作された作品を2種類に分類するという手法だ。
過去の作品のうち、映画本編の旧三部作(Ⅳ~Ⅵ)と新三部作(Ⅰ~Ⅲ)の6作品とクローン・ウォーズの劇場版及びテレビ・シリーズだけを「正史(カノン)」と位置づけ、それ以外のスピンオフ世界の作品を「レジェンズ」と呼び、この2種類に区別すると宣言したのだ。つまり、新たに製作する作品は、「正史」の筋書に合致するものであり、「レジェンズ」の作品群の筋書とは合致しない。今後は「レジェンズ」作品群の筋書や設定には囚われずに製作することを宣言したのだ。
この宣言は、スターウォーズのファン、取り分け小説世界のファンたちに大きな衝撃を与えたのではないかと私は推測している。その辺りに関する感想までは、けい木さんは語らなかった。ファン同士なら盛り上がる話題だが、そうでない人には難しい話として遠慮されたのかもしれない。ファンとしては、スピンオフ世界を語るうえで外せない話題。さすが、けい木さん、本筋を外さないと感心。その上で、拡張世界の作品群の魅力を熱く語ってくれた。
最後は、持参のライトセーバーでジェダイの剣舞を披露。コスプレマニアぶりも伝わってきた。

三遊亭伊織 沼トーク「バイク沼」
けい木さんが高座に残ったまま、伊織さんが着物姿にヘルメットとグローブを付けて登場。この姿のインパクトもけい木さんに負けていない。さすが、沼にハマったお二人だ。
伊織さんも手作りフリップを見せながら、オートバイ(以下、本人の表現でバイクと表記)愛を熱く語った。まずは、日本がバイク大国であること、世界シェアで日本のメーカーで4割を占めていることを解説。そんな国にいて、バイクに乗らない選択はない、そう力説。

自動車とバイクを利便性、快適性、安全性など様々な観点から比較して、移動手段としての優劣を客観的に判断すると、どう見ても自動車が圧倒的に優秀。特に、バイクは事故を起こしたときの危険性が高い。そんなバイクのデメリットを強調したうえで、それでも、なぜバイクに乗るのか。そのバイクの魅力を、言葉で語りつくせないのがもどかしいという表情で、熱く語る。
なぜバイクに乗ると楽しいのかという命題、その答えを具体的な楽しさで伝えてくれる。基本的な考え方として、バイクは移動するための手段ではなく、バイクに乗ること自体が目的であるということ。エンジンを起動してから走り出すまでの操作の大変さ、コーナーを曲がるときにバイクを倒さないと曲がれないという性質。それら煩わしさや怖さを超越して、バイクを操ることに馴れてきたときに感じる達成感は、何とも言えない感動である、そう熱く語る。
けい木さんを前に、ハン・ソロがミレニアムファルコンを発進させるときのコックピットの動画を見せ、この機械の操作する様子が好きな人はバイクも好きになれると紹介。けい木さんも、この例えには納得。
なので、バイクで行く目的地を決めるというより、バイクに乗っていられる時間を考えて乗る。用事が無くてもコンビニまでバイクで行く。そんな例えが分かりやすい。

ご自身の愛車を含めバイクの紹介から、エンジンの話へ。2気筒と4気筒の違い、それもタブレット端末を使ってエンジン音の違いを紹介。バイク好きは、エンジン音を肴に酒が飲めるそうだ。伊織さんの憧れは4気筒エンジンのバイク。この辺りは沼にハマらないと分からない世界だろう。
運転手目線でツーリングを撮影した動画も紹介。このようなバイク動画は、youtubeでも数多く配信されている。この動画だけでも、運転気分を味わえる。
最後にバイクの免許を取るには費用がどれくらいかかるかなど、教習所に関するリアルな話をされ、是非、皆さんもバイクに乗ってくださいとアピール。これも、高じたバイク愛のなせる技。

お二人ともどっぷりと沼にハマっていることが分かる熱いトークが炸裂。この日の落語はオマケな感じで、本番はこの沼トーク。マニアの熱心な話は、聞いている方も楽しくなる。特にスターウォーズファンとしては、けい木さんの配信ではない生トークによってスターウォーズ愛を感じられて、非常に楽しい時間だった。

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