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落語日記 こみちファミリーが家族力の凄さを見せてくれた演芸会

一度きり演芸会 本公演(夜の部)
2月6日 江戸東京博物館小ホール
柳亭こみち師匠がプロデュースし主催された演芸会。ご主人の宮田昇先生や相方の宮田陽先生が協力して、それぞれの本業以外の芸に挑戦するというバラエティな企画が満載。身内ならではの無茶ぶりの企画にも、皆さん果敢に挑戦し観客を楽しませてくれた。

受付で驚いたのは、係を担当してたのは顔見知りの落語ファン。こみち師匠主催なので、受付等の運営スタッフは、ご贔屓さんたちが手伝っているようだ。皆さんが協力して作り上げた会。
緊急事態宣言の下、感染症対策には万全を期しての開催されていることが伝わる。客席の人数制限、手指消毒は勿論、木戸銭も予め渡された封筒に入れて回収。チケットも半券をもぎらず提示のみ。受付の前には、透明なビニールカーテン。おつりのお金も消毒されたとのこと。挨拶でもお話しされていたが、自らが主催者だけに感染症対策には相当気遣いされたようだ。その覚悟が素晴らしい。開演前の影アナもこみち師匠ご自身で、会場の空気を和ませる。

春風亭かけ橋「浮世床 本・将棋」
元柳家三三師匠の弟子の小かじさん。久し振りに拝見、お元気のようだ。記録のため、プロフィールを記す。落語協会時代、2016年11月1日に柳家小はぜさんと三遊亭伊織さんと共に二ツ目に昇進し、その後の2018年4月に廃業したのち、2018年7月に芸協の8代目柳橋師匠に入門。芸協では、前座からの再スタートとなった。
太閤記のパートは短く、将棋パートがメイン。面白い組合せとバランス、芸協のスタイルなのだろうか。

宮田陽・昇 漫才
まずは、陽昇先生の登場。こみち師匠主催の会なので、ゲスト扱いとのこと。いつものネタに時事ネタを織り込んで会場を盛り上げる。お馴染みの秋田県と広島県の場所を示す日本地図のギャグはお約束。皆さんご存知のギャグは、客席の待ってました感が凄い。私も待ってました。
菅総理は陽先生と同じ秋田県出身。陽先生はそんな同郷の菅総理をネタにイジリまくる。皮肉と愛情が相半ばしている。
当然、笑いのネタは夫婦の話題が多く登場。こみち師匠と昇先生との馴れ初めもネタに。落語協会と芸協と野球の試合が切っ掛けという有名なエピソード、これも笑いに変える。長男のはるき君と次男のまもる君の話題も登場。ファミリーのネタは、ほのぼのとしていて、聴いていて和むもの。同じ皮肉でも、菅総理とは違う。この会でしか聴けないネタの漫才。お客さんも満足。

板垣家 漫才
続いては、昇先生とこみち師匠との夫婦漫才。本名から名付けた板垣家というユニット名。こみち師匠はど派手なピンク色のドレス姿。どこで買ったの、という昇先生のツッコミに、銀座のしまむらで買ったと。
この日は、昼の部がお試し公演で、夜の部が本公演。昼に試運転したそうなので、夜の部が本番と仰るが、おそらく昼の部も全力で観客を楽しませたに違いない。また、こんな趣向は、失敗も笑いのネタになる。
役割りは、こみち師匠がボケで、昇先生がツッコミ。テキトーに喋っているようなこみち師匠のボケを、巧く拾う昇先生。この昇先生のツッコミが効いているので、漫才自体が締まってプロの芸となる。組合せの妙が活きている。
漫才のネタは、公開の夫婦喧嘩みたいなもの。草野球での出会いもネタに。昇先生が披露したキャッチャーの動作は見事。けっこうカッコイイ。この姿に惚れたのも分かる。客席に披露したのは、こみち師匠が見せたかったのかも。
落語ファンを前にした漫才、落語のネタをぶち込む技をみせる。厩火事、初天神、芝浜などが登場。落語ファンの反応がいい。さすが、落語の演目を取り入れる漫才をしている昇先生、夫婦漫才でも高等テクニックをみせる。
今回は初めての夫婦漫才。今回限りでなく、是非またやって欲しい。

仲入り

柳亭陽路「秘伝書」
かけ橋さんがメクリを返すと、そこに書かれた芸名を見て会場がどよめく。ここで、陽先生が落語に挑戦することが分かる。舞台袖から、真っ白な長着の着流し姿で陽先生が登場。会場はこの姿に爆笑、大受け。高座に上がって開口一番「切腹しません」。
演目は、落語協会ではあまり聴かれない珍しい噺の「秘伝書」を、ご自身や昇先生を登場させてアレンジした改作。ひと月十円で暮らす法など、インチキなことが書いてある手引書を、露天商ではなく、陽先生ご自身が、相方の昇先生や漫才協会の漫才師仲間に売りつける設定。タダであげると言いながら、結局は五百円で売ってしまう。そんな調子の良さといかがわしさは、陽先生のキャラにぴったり。昇先生に読み聞かせながら、解答部分は読まないという聞かせ方が上手い。構成としても良く出来た改作落語になっている。買ったあとで、一人で読んでいる昇先生の切実感の表現が見事。
ぎこちなさはあるが、上下も切っているし、セリフは当たり前だが本格的。ちゃんと落語として聴かせている。ネタの構成も見事だし、何より陽先生のキャラにぴったりなインチキ詐欺的商材の販売という題材の選び方が良かった。

柳亭こみち「長屋の花見 おかみさん編」
さて、トリは主催者の本業の落語で締める。まずは、観客に「夢の酒」とこの噺のどちらが良いか、拍手で決めますとアンケートを実施。私は「夢の酒」を選んだが、ほぼ引き分けくらいの拍手だったが、舞台袖の判定でこの噺に決まった。
昼の部のお試し公演に、こみち師匠のお母様が観に来られていて、夜の部くらいはまともな落語をやりなさいよと言われたとのこと。昼の部もきっと楽しかったんだろうと想像できる話。

本編は長屋の花見の登場人物を、おかみさんたち女性陣に変えたこみち流改作。私は初めて聴く。
長屋の花見は、とにかく貧乏大会がテーマだが、この改作では、長屋の皆さんは貧乏ではない。女性の花見だけに、宴会用の料理はしっかりご馳走であり、かなりの贅沢。亭主たちが貧乏で金がないと言っているのと対称的。酒もお茶けではない、本物のお酒。なので、おかみさん連中は酔っ払っての大宴会が繰り広げられるのだ。この酒盛りが始まってからの女子会トークが凄く楽しい。この噺の見せ場となっている。

また、この噺のもう一つの柱が、登場するおかみさん連のメンバーのユニークさ。特に強烈な印象を残したのが、二人のお婆さん。お寅さんとお米さん、お互いに梅干しババアと生ゴミババアと貶し合って喧嘩をするのだが、この言い合いが馬鹿馬鹿しくて楽しい見せ場となっている。
改作といても、長屋の衆で花見に行くという設定以外は、ほとんどオリジナルな新作と言ってもいい内容。登場人物をすべて女性にして、女流落語家が演じやすいようにという発想からかもしれないが、登場人物のキャラがかなり濃いので、男女を問わず、他の落語家さんには難しい噺ではと感じた。こみち師匠ご自身が演じやすいような設定にされた噺だと思う。そんな楽しい一席で締めたこみち師匠。

この日は、それぞれの本業で満足させてくれたうえに、それぞれの本業以外の芸でも見事な芸を披露してくれたこみち師匠と陽昇先生。タイトルのように「一度きり」と言わず、是非、また挑戦して欲しいと思った。
最後は、本公演のみの特典のジャンケン大会。陽昇先生とこみち師匠の手拭い5本づつが景品。陽先生と観客が対戦。私は最後まで勝ち残り、陽昇先生の手拭いをゲット。幸運までお土産に頂いて、大満足な会となった。

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